だから二兎を追うのは諦めてどちらかに専念することになる。
筋道という誠に幼稚臭い理由で僕はそっちを優先した。
結果としてそれは名を取ったエエカッコしいに祭り上げられた。
相手はカネという実そのものに取り憑かれた見たいに形相は変わり正直、正視するのが怖かった。
カネの為に道理も筋道もない主張というかゴネに終始した男は……せしめるだけせしめた後……あろうことか『名まで取ろう』とした。
武器は『その器用な口』だった。
至る所で自分の正義を語っているとの噂が耳に入って来た。
そんな奴でも名誉は欲しいのだと驚いた。人間の業という奴の奥深さだ。
余りにもすんなり、こっちが押し付けられた負債を引き受けたから……また行ける!とばかりその男は勘違いしたのだと思う。
実ばかりに目が行く奴はアホだ。しかし止せば良いのに名を拾い上げる奴はもっとバカだ。
ギャラリーなど居なくなり、負債との時間競争は過酷で孤独だった。
実を取った奴は後ろめたいのか、暇さえあれば出掛けていって都合の良い話ばかりを振り撒いていた。
二年も過ぎた頃、もう一稼ぎとばかりノコノコやって来た。そしてもう500万を何とかして貰えないか?と来た。
その顛末は何時か書いたから割愛。
お前さんはどうやらその時の処置が不満だと言うんだな?……俺は頭に来たぞ!……。
後は弁護士に任せるから白黒着けようぜ!と言ったら、急に平身低頭に変わり、バネ仕掛けの様にすっ飛んで帰って行った。
うやむやにして不当であれカネを残せる実派、出るところに出れば必ず勝てる名派って事だけど……出るところに出たという話は聞いたこともない。
名と実はどちらを取っても致命的な痛手を後になって囲う事になる。
名と実という二兎は追うのではなく二兎の間で折り合いを着けるってのが一番『悪くない決着』だと思う……。
ま、それも相手次第って事になるけれど……。
おバカな経験から判断すれば『実派』は刹那的、短時間で凄く旗色が良い。
対する『名派』は短期間ではとても苦しいが時間と共に整合性が整ってくる。
それは『実利』からの分析であり……『人の筋道』というものをどの様に扱うか?……によって?(人の数だけ正義はあるから)という所に最大の齟齬の原因があるんだと思う。
筋道優先する人は名派、損得優先する人は実派……となるのが現実の流れである事は間違いないと思う。