専門性が高い料理でスペイン風の内装……それが漠然とした自分の店に対するイメージだった。
脱サラ目指していた時ひょんな事からドンホセという店を紹介された。
石と漆喰のオールドスパニッシュな造りの内装……料理も喫茶店メニューとは一線を画する『ブロの手』を感じるものだった。
経営者は地方の総合病院のバツイチの娘だった。イカツイ顔をしていた。見方によってはエキゾチックで大柄だから一見イイ女……に見えないこともなかった。
どうやら彼女は自分をカルメンに見立てて店名を考えたのかも知れない?と思った。
トンでもなく贅沢に育った女特有のおおらかさと、利かん気の強さを持っていた。
後に修行時代はこの店で料理も作った。経営者同様浮き世離れしたスタッフ達はとても楽しく自分も通用するぞと自信を持たせてくれた店だった。
白壁に闘牛の本物のポスターが貼ってあった。置物、小物、などもスペインで買い付けたものでカネ持ちの威力だと思った。
今自分の店にも闘牛のポスターを貼っているのはこの時の鮮烈な印象のせいである。
店は繁盛してた。しかし店主の女のカネ遣いは尋常ではなかったから、きっと実家のおカネ頼りだったんだと思う。男を手玉に取っ替え引き換えしてたのもカルメンを気取ってたんだろうなぁ……。
彼女や彼女の友人達は僕より五、六歳上だった。例に漏れず贅沢育ちと奔放な男遊びに血道を上げていた。
この頃だったと思う。発情動機の女は美しくない!……イヤ、醜いと強く感じたのだった。
おバカを放ったらかして酒と男にしか反応しない、出来ないのは哀しいと。
彼女達は昼下がり、客の引いたカウンターで二人になると、何時も弱音を吐いた。このまま家のカネを頼り続ける事は出来ない……と。
イイ人が現れたら良いんだけど……と口癖の様に言う女を見て思った。
まともに男と正対する事が出来ないんじゃないか?コイツ等は……と。
だから唯一の男との交信方法はセックスしか無いんだろうな?……と。そうしておいて、性欲を処理しては終わっていく関係に怯える様になっていた……。
自分を持ち、自分の考えで、自分の力で生きて行けない、本性の所で男依存している女達は醜悪でもの悲しく見えた。
動物管理センターで安楽死を待っている犬の目を見てる様な辛い気持ちになったものだった。
所詮彼女達の元気は人生の一時の『執行猶予』の中でしかない期間限定のものだった。
カルメンは踊りで生きる事が出来た。
しかし彼女達は……所詮男達に寄ってすがって生きて行くしかない哀しい女達だったのである。
カルメンは踊りで生きる事が出来た。
しかし彼女達は……所詮男達に寄ってすがって生きて行くしかない哀しい女達だったのである。