舞い上がる。

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ちひろBLUESこと熊谷千尋のブログです。

サイコホラーでハードSMなBLかと思いきやまさかの純愛!「性の劇薬」観てきました。

2020-03-07 20:55:01 | Weblog


3/6(金)、シネ・ウインドで「性の劇薬」を観てきました。





予告編はこんな感じです。



この映画、そもそも原作漫画があるし、あらすじを知った上で観ても衝撃的であることは変わらないと思うので、今回、ネタバレ全開で書いていきますね。



この映画「性の劇薬」は、同名の大ヒットBL漫画の映画化ということで、僕はBLとか知らないのでその漫画も全然知らずに観たのですが、開始早々倉庫のような部屋に監禁されベッドに全裸で拘束された男が、もう一人の男から全身を攻められまくって悶絶し続けるという衝撃の展開!
しかも男の目的がまったく分からないから、BLというかもはやサイコホラー!とんでもないものを観てしまった!

別に僕はマゾヒストじゃないのでそう思うのかも知れませんが、自分がもし拘束されていたらそれだけで怖いなと思うんですよ。
いや、仮にマゾだとしても、そういうプレイだって本来のパートナーというか、お互いに信頼関係が築かれたり利害関係が一致したりした関係の元でするからプレイとして成立するわけで、見ず知らずの相手から突然そんなプレイをされたら、やっぱり快楽より恐怖が勝つでしょ絶対!

しかも、その相手の男性は、拘束した自分が身動きが取れない状態で全身を攻めまくり、逃れられない快楽を強制的に与えてくるのです。
これだって考えてみれば、そもそもセックスだって、好きな相手、セックスしたい相手とするから楽しいのであって、見ず知らずの相手がいきなり自分の快楽を開発してきたら、それは恐怖員外の何物でもないと思うのです。

しかも、そういうセックスの快楽って本来他人には見せたくない自分の姿を他人に曝け出す行為なわけで、それが好きな相手とだから気持ち良かったりするわけで、知らない相手からそれをやられたら、やっぱり恐怖以外の何物でもないと思うのです。
例えるなら、町中で突然裸にされる行為、のさらに気持ちまで裸にされてしまう行為というか、体だけではなく内面まで支配されてしまうような恐怖ですよね。

さらに、相手が誰だか分からないし、目的すらも分からない、というのが一番の恐怖だと思うんですよね。
もし相手が本気で自分のことを殺そうとしているなら、簡単に殺せてしまう、そういう状況に自分が追い込まれるわけですから。

まあ、言ってしまえばここまでの状況だけ見たら完全にレイプ以外の何物でもないわけで、普通に犯罪なんですよね。
そうか、レイプの恐怖ってこういうものなのか…と最初に思ったりしましたが、そこで終わらずに、意外な展開に進んでいくのがこの映画です。

そんな状況に主人公は追い込まれた主人公は、隙を見て相手を殺そうともするのですが、結局殺すことは出来ず、しかも相手はその状況を完全に読み切った上で「殺すなら殺せよ」とも言ってくる。
彼は相手が自分を殺そうとしていること、そして結局殺せないであろうことまで、完全に読み切っているのです。

そこで、彼はどうやら主人公のことを決して殺したくて拘束しているわけではないのだと、主人公も、観客である自分も気付きます。
実際、毎日決まった時間に調教プレイをしてくる以外は、一応鎖に繋がれてはいても部屋の中だけは自由に歩き回ることができ、主人公が死なないための水と食事は用意されています。

まあ、それだって、ギリギリまで生かして恐怖を長く味わわせて殺す、みたいに考えることもできますが、どうやら彼は主人公に悪意があってこういう行動を取っているわけではなさそうなのです。
果たして、彼の目的は…と思ったところで、主人公の回想シーンが始まります。

主人公は、桂木という名前のサラリーマン、仕事も家族や恋人との関係も順調だったが、ある日、両親を亡くしてしまい、しかもその原因が自分にあると落ち込んでいた。
さらに、両親の葬儀で仕事を休んだことが原因で仕事もクビになり、さらに自暴自棄になっていたところで恋人も失い、そのショックで自殺を図ったところ、一人の男から「捨てるならば、その命を俺に寄こせ」と告げられ、目覚めると監禁、拘束され、男から調教される日々が始まっていたのでした。

彼は死のうとした桂木に、死の対極にある生(性)を強制的に取り戻させるために、このような監禁拘束調教プレイをしていたのであった!
どうしてそんなことを…という余田の意図はこの時点では分かっていないのですが、そんな日々の中で次第に桂木は自分の意志を余田にぶつけるようになっていき、ある日、突然「もう生きていける」と告げられ、目覚めるとあっけなく解放されています。

ここで目覚めた場所がどこだったのか、そして余田がどういう人物だったのかは書かないでおきますが、解放された桂木は、余田と再会することになります。
そこで、それまでのサディスティックで恐怖を与えていた雰囲気とは打って変わって穏やかな表情になった余田が、自らの過去を語り出します。

実は余田もまた、仕事の忙しさの中で大切な恋人の気持ちに気付けないまま、恋人が自殺してしまうという体験をしていて、深く自分を責めていたのでした。
そんなある日、自分の目の前で自殺を図ろうとしていた桂木を見付け、「自殺」「死」を激しく嫌悪する余田は、桂木の「生」を強制的に目覚めさせるために、「性」の快楽を与え続けていたのであった!

その行為こそまさに、この映画のタイトルでもある「性」の「劇薬」!
んなアホな!という超展開ですが、丁寧な演技と脚本によって、不思議と納得させられてしまう自分がいました。

しかし、やはり恋人の死を忘れられない余田は、一人で自殺を図ろうとするのですが、それを止めたのは誰であろう、桂木だったのです。
そう、かつてはSMの関係でしかなかった二人の間にはいつしか愛が芽生えていて、ベッドでセックスをして深く愛し合うのでした。

この映画、何がよく出来ているって、脚本の構成が、なんというか、物語を作る上でのお手本なんじゃないかってくらい、物凄くよく出来ているんですよね。(原作漫画が良かったということなのでもあると思いますが)
余田と桂木で、対になっている部分や、対になっていると見せかけて実は通じ合っているもの、前半と後半で似たような展開があるのに物語が進む中で真逆の意味合いになっている部分など、完璧に近い脚本だったのではないかと思います。

まず、余田と桂木ですが、前半はSとM、監禁・拘束・調教するものとされるもの、恐怖を与えるものと与えられるものと、完全に対の関係になっています。
しかし、実は余田と桂木は、2人とも大切な人を失った過去を持っていて、実は同じ境遇の人間であることが分かります。

自殺を図ろうとした桂木に対し、余田は彼が生「性」を与え続けていきます。
最初は余田が桂木を殺そうとしていたのでは?とミスリードさせておいて、実は真逆の意味合いだったという、ちょっとしたどんでん返しと言っていいかも知れません。

そして、桂木の自殺を止めて結果的に命を救った余田は、今度は自分が自殺ようとした時に、反対に桂木から命を救われます。
「性の劇薬」の時間を通して死を乗り越えて生を取り戻した桂木が、今度は余田の命を救う側に回るという、前半と後半で関係性の逆転が生まれています。

また、先程も書いたように、最初の余田の桂木に対する行為はレイプ以外の何物でもないと思うのですが、何故ならその時点ではそこには2人の間に何の信頼関係も愛もなかったからです。
しかし、ただのレイプするもの/されるだけの関係かに思われた2人は、物語が進むにつれて実はそれぞれの抱えた死の苦しみを共有していた仲だと判明し、結果的に同じ苦しみを分け合い乗り越えた2人だからこそ、そこに愛が生まれるという結末を迎えるのです。

さらに、前半は何の信頼関係も愛もなくただのレイプするもの/されるものだった2人は、そこに愛が生まれたことによって結ばれ、最後には本当に愛し合ったセックスをして、それはレイプなどでは決してない、純愛以外の何物でもないのです。
死の苦しみや悲しみが生きる喜びに、歪んだ快楽が純愛に変わっていくという、まさかこんなに感動的な物語だったとは!と本気で驚きました。

この映画、最初はサイコホラーのSMモノ、調教モノのハードなBLで、完全に「そういうの」が好きな人向けの映画じゃないか!って感じで観ていたんですが、最後までちゃんと観ると、人が生きること、死ぬこと、大切な人を失うこと、死にたいと思いこと、生きてほしいと願うこと…人間の生死を巡る様々なテーマを扱っていることが分かります。
正直、それまでBLにはエロをただのオカズというかそういう趣味の人のための欲望を満たすためだけのポルノとしてしか見ていなかった自分がいたのですが、作り込まれた脚本と丁寧な演出、そして役者さん達のまさしく体当たりな熱演によって、ここまで普遍的な人間の美しさを描けるものなのかと、本当に驚かされました。

城定秀夫監督の映画を観たのはこれが初めてだったんですが、あとで知ったのはもともとピンク映画を撮っていた監督ということで、ピンク映画ってまさしく性の中に人間の本質を描くものだと思うので、流石だなと思いました。
あと、ピンクの監督の監督って、人間の本質を掘り下げる力がすごいと思っていて、また低予算な中でどこまで面白い映画を撮れるかに挑戦している感じもあるので、どんな映画を撮ってもガツンと胸にくる面白さがあると思います。

というわけで、BLモノということで敬遠せずに見に行って、そして城定秀夫監督という素晴らしい監督にも出会えて本当に良かったです。
次回作はまさかの青春映画「アルプススタンドのはしの方」ということで、こっちも楽しみですね。
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