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黒仁庵 ポケットにバイクを忍ばせて。

五感で感じる情報を、どうしたら活字に出来るか、考えてみよう。
それが出来ると、五感が研ぎ澄まされるって不思議がわかる。

もみじ姫

2019年01月07日 | 文筆


紅葉の頃でした。

その子は赤い紅葉の樹の下でジッとモミジを見てました。

「もみじ姫、たむける神のあればこそ、秋の木の葉の幣(ぬさ)と散るらめ」

いつまでも紅葉を眺めてる愛娘に、「もう帰ろう」となかなか言えない父の話が、今昔物語にあります。

それは、少女から青年期を迎えようとする我が娘の「女性の持つ美しさ」に、魅入ってしまった父の寂しさを表しているのでしょうか。

「傘を忘れてごめんなさい」

「いいんだ。父さんが車に積んでおけば良かったね」

その子の束ねた黒髪が、紅いモミジに浮き立って、考え込むように広がっていた灰色の雲は、音もたてずに消えて行く。

これから白い冬が始まる頃、黒髪のおくれ毛が幽かに揺れるように、また1つ歳を重ねます。