豊洲市場でのコロナ感染を巡り、様々な思惑が交錯する

写真拡大

“東京の台所”豊洲市場に、不穏な空気が漂っている。11月20日、東京都は江東区にある豊洲市場で従業員ら30人の新型コロナ感染が新たに確認されたと発表した。豊洲市場ではこれまでに140人(25日時点)の感染者を確認。うち100人超は水産仲卸業者だった。

【写真】紫のスーツにペイズリー柄のスカーフ姿の小池百合子都知事。顎の高さまで手を上げ身振り手振りを交え口をすぼめて話す。白く凍った1mほどのマグロが並ぶ市場写真も

 小池百合子都知事は「クラスターではない」と強調するが、著書『築地と豊洲』(都政新報社刊)で豊洲移転の内幕を明かした元中央卸売市場次長の澤章氏の見方は厳しい。

「私はある市場関係者から、感染者が出た店舗を色付けしたマップを見せてもらいました。風評被害を起こすため詳細は控えますが、水産仲卸売場棟の特定のエリアに感染者が集中していた。

 水産仲卸売場棟は1500の小区画に店舗がひしめき合い、店舗間の細道はすれ違うのがやっと。それほど“密”な区画から何人もの感染者が出たのに、『クラスターではない』という見解には到底納得できません」

 厚労省の定めるクラスターの定義は、一般に「同一場所で5人以上の感染者の接触歴が明らかになった場合」とされている。東京都中央卸売市場・豊洲市場総合調整の担当者が見解を語る。

「(11月の感染増は)深刻な事態で重く受け止めていますが、市場の同一場所から出た感染者は最大4人以内です。隣り合う事業者が感染した例はあるが、散発的な『感染経路不明』のものがほとんどです。

 感染者が出たらその都度該当店舗を消毒し、現在は業界団体が水産仲卸業者約4000人を対象とするPCR検査を自主的に進め、早期発見で感染拡大を防いでいます。商品が届かない事態にはできないので、今後も市場を閉めるのは現実的ではない」

 だが豊洲市場がある江東区保健所の担当者のニュアンスは異なる。

「豊洲市場は聞き取りをしても感染経路がはっきりせず、追跡できていません。保健所としては、『対策が不十分ではないか』、『市場全体で一丸となってやっていただかないといけない』と都に強く伝え、仲卸業者に自主検査を勧めました」

 豊洲側のいう自主検査は、保健所の提案だというのだ。

 そもそも病院や学校で同時期に100人以上が感染したら、すぐに閉鎖し、感染防止に努めるはずだ。豊洲市場はなぜクラスターを認めないのか。豊洲市場内の飲食店関係者が声を潜める。

「市場を閉めたら食の流通がストップして、各所に食材が届かず、漁師の稼ぎもなくなる。仲卸業者はギリギリまで市場機能を止めたくないはずだ」

 一部の市場関係者からは、感染拡大を口外しないよう箝口令が敷かれたという証言も出ている。前出・澤氏は「都の忖度」があると指摘する。

「都庁職員として築地移転にかかわった経験から、都より仲卸業者の力が強いことは承知しています。都が仲卸業者に忖度し、この件にフタをしようとする構図があるのだろう」

 豊洲では、11月2日から観光客向けのマグロ競り見学を再開した。それが感染を広げたという声も出ており、徹底した原因究明をしない限り、信用回復は望めないだろう。

※週刊ポスト2020年12月11日号