首相、深まる孤立感 就任4カ月 言い間違い連発、悪循環
配信 北海道新聞
6日で就任から4カ月を迎える菅義偉首相が孤立感を深めている。新型コロナウイルス対応が後手に回り、支持率の下落が続くが、官邸内で首相に意見具申できる空気は薄く、蜜月だった自民党ともすきま風が吹き始めている。首相は重要案件で言い間違いを連発するなど、負の連鎖から抜け出せずにいる。
首相は15日朝、日課の散歩をこなし、官邸で閣議に出席。午後には田村憲久厚生労働相らとコロナ対応を協議し、複数の議員らと面会をこなした。年末から休み返上で働いており、せき込む場面が目立つなど、官邸内からは疲労を懸念する声も出ている。
首相周辺は「体調は問題ない」と話すが、目立つのが言い間違いだ。13日の記者会見で医療提供体制の逼迫(ひっぱく)を改善する法改正について問われ、首相は「国民皆保険を続けていく中で今回のコロナがあり、検証していく必要がある」と発言。ネットで国民皆保険の見直しに言及したとの臆測が広がり、加藤勝信官房長官が翌日の会見で火消しに追われた。
13日の政府対策本部でも緊急事態宣言を発令する地域について「福岡」を「静岡」と発言。厚生労働省幹部は「問題なのは間違ってもすぐに訂正しようとする官僚がいないこと。半分は怒られたくないから、半分はこの人を守っても仕方がないという空気になっている」と推測した。
周辺が萎縮して意見を言えず、トップの言動が物議を醸す。こうした悪循環を生んだ一因とささやかれるのが官邸内の体制だ。歴代首相の事務担当秘書官は通常、省庁の局長級の幹部が務めてきた。安倍政権時の秘書官は「首相を交えてガンガン意見交換する場面があった」と振り返る。
一方、菅内閣の事務秘書官5人中4人は官房長官時代からの昇格。課長級で年次が若く、首相が「政策も国会対策もおれがやる」と周囲に語る中、自由に意見具申できる空気はない。
首相は状況打開のために元日付で政務担当の秘書官を交代させた。財務省出身の官房長官時代の秘書官を起用し、省庁とのパイプを強化する狙いがあったが、別の首相秘書官経験者は「政務秘書官は党との窓口や選挙対策が主な仕事。省庁の調整を求めるのは妥当なのか」と首をかしげる。
良好とされてきた党との関係も微妙だ。後見役の二階俊博幹事長は、首相が観光支援事業「Go To トラベル」の全面停止を発表した際に「勝手にしろ」と周囲に激怒。首相は多人数でのステーキ会食を批判された12月14日以降、二階氏と会食していない。今月13日の党外交部会では米連邦議会議事堂をトランプ大統領の支持者らが一時占拠した事件で、首相が強いメッセージを発しなかったことに不満が噴出した。
数少ない相談相手は麻生太郎副総理兼財務相。5日には官邸で食事を共にした際、コロナ対策による財政悪化を心配する首相に麻生氏は「財政は気にせず、ドーンとやれ」と激励した。首相の漢字の読み間違いやバー通いなどで支持率が短期間で急落した麻生政権と比較する向きも多い。
政府関係者は「同じ表情をしていても4カ月前なら切れ者だと思ってたのに、今は『大丈夫かこの人』と思ってしまうのが政治の怖さだ」と話す。
「仕事人」のさえを見せられない首相を見る目は厳しさを増している。(石井努)