皇室に「婚姻の自由」はあるのか――長期化している結婚問題と皇室制度の課題
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4年前の婚約内定後、なかなか進展のない秋篠宮家の長女、眞子さま(29)と小室圭さん(29)。先月、小室さんは金銭トラブルを説明する文書を公開したものの、好転しているとは言いがたい。顧みて、その小室さんに眞子さまが一途なのはなぜなのか。皇室とはいえ、結婚の自由はないのだろうか。作家・赤坂真理さんと憲法学者・木村草太さんに見解を聞いた。(ジャーナリスト・小川匡則/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
眞子さまが小室さんに惹かれる心理
赤坂真理(あかさかまり)・作家。2000年、『ミューズ』で野間文芸新人賞、2012年『東京プリズン』で毎日出版文化賞、司馬遼太郎賞を受賞(撮影:鬼頭志帆)
■赤坂真理・作家 「報道やネットを見ると、『眞子さまは純粋だから小室さんのような男に騙された』という意見があります。真実はわかりませんが、私にはそうは見えません。小室さんには野心やえたいの知れない魅力があるのを感じます。眞子さまがそういう男性に惹かれた心理を考えてみると、清純派に見えていた女優がときにワイルドタイプの男性と付き合ったり結婚したりするように、眞子さまに『枠を出たい』という無意識の欲求があったようにも感じられます」 「その背景に考えられるのが近代天皇制の息苦しさです。天皇制は血統主義と家制度の性格を併せ持っていますが、その相性はあまりよくありません。家制度は、家が存続すればいいので養子や婿をとることを躊躇しません。ところが、近代天皇制は血統主義を絶対的なものとし、しかも、男系男子しか皇位を継承できないとしています。その両立と存続はものすごく困難になります。眞子さまが小室さんに惹かれたのは、そんな制度のひずみに対する苛立ちのようなものが表出した結果にも思えます」
赤坂さんは作家として女性の愛や性、生き方、生きづらさなどを描いてきた。歴史認識を題材にすることも多く、2019年の小説『箱の中の天皇』では、天皇の象徴としての意義を鋭く世に問うた。今回の小室さんをめぐる眞子さまの問題は、彼女のアイデンティティの獲得に関わっているように映るという。 「眞子さまはこれまで『問題のない良い子』であり、『皇室でいちばん無難な子』という位置づけをされていたように思います。もちろん実像はわかりません。でも、妹の佳子さまはアイドル扱い、弟の悠仁さまは皇位継承資格を持つ男子というポイントがあるのに対し、眞子さまは当時の天皇の初孫として生まれ、『しっかり者の長子』以上のものを期待されていない感じでしょうか。そんな眞子さまからすると、一族の中で『自分は何者か』というアイデンティティの置きどころが皇室にはなかったのではないでしょうか」
「だとすると、恋愛や結婚は育ってきた家を離れて『個』を主張するチャンスです。小室さんは若くして父親と祖父をなくし、母親には恋愛がらみの金銭トラブルがある。本人の人格はともあれ、いわくつきの背景があり、一昔前なら皇室には近づけなかったでしょう。ただ、いわくや傷といったものは一般の人生では魅力にもなります。もし眞子さまが表現しがたい閉塞感をずっと抱えてこられたとしたら、小室さんのような男性を『風穴』のように感じられたかもしれません」 「秋篠宮家の教育は、戦後リベラルの象徴のように感じます。眞子さまが卒業された国際基督教大学はキリスト教長老派が創設したアメリカ型のリベラルアーツカレッジ。設立当初、GHQ(連合国軍総司令部)最高司令官のダグラス・マッカーサーも募金運動などで関わっています。また、悠仁さまが通っているお茶の水女子大学附属中学校は、日本で初めてトランスジェンダーの学生の入学を認めた大学の付属校。本当に面白い選択をしています。秋篠宮家は子どもたちに自由を重んじるリベラルな教育を受けさせてきたわけです。その教育のもと、眞子さまは自由に交際相手を選んだのだと思います。秋篠宮家はそれに当惑していますが、ある意味、当然の帰結だったのではと思います」
浮かびあがる皇室制度の問題
4月8日、小室さんはA4で28枚という長文の文書を公表した。母親が元交際相手に返済していないと言われている「400万円」について弁明する内容だった。すべて読んだ赤坂さんの印象は「パロディーっぽい」ものだったという。 「面白く読みました。法律文書のパロディーのようでした。ひたすら母親の元交際相手が出したお金が『贈与』か『貸借』だったかで、その感情的な行きちがいを法律文書っぽく書いている。結婚のことはあまり話題にしておらず、『自分たちにやましいところはない』と訴えるものでした。その弁明したい気持ちはわからないではありません」 「ただ、小室さんの行動を見ていると、ちぐはぐな印象を受けます。婚約が内定した後で婚約内定者を置いてニューヨークへ行くのも、日本の弁護士資格を持っていないのにアメリカで弁護士資格を取るというのもそうです。こうした行動を見ると、結婚という流れにおいて、現在押されているのは彼のほうかもしれないという印象もあります。眞子さまとの結婚に魅力は感じつつ、今は自分のやりたいことを優先、という態度に見えるからです」
「一方、眞子さまは今年30歳という節目を意識されているかもしれません。一般論ですが、女性の30歳は男性よりも重く、また、長く付き合った相手をこの段階で手放して一から相手を探すことはしたくないものです。ただ、そうして結婚ができたとしましょう。その後、結婚生活がうまくいかなくなり、離婚という事態になったとき、どうなるのか。現状では眞子さまは『実家』である皇室に戻れない。子どもがいたら親権はどうなるのか。小室家が親権を要求することだって考えられます。そうなると、いまの皇室制度そのものに関わってくるかもしれません。もはや人間に起こりうるあらゆる可能性を想定しておく必要があります。だって、皇族の方々も人間なんですから。この状況下で皇籍を離脱し、結婚に踏み切ったとしても、眞子さまが皇族に連なる方として見られることに変わりはないでしょう。また、それは現代の皇室の新しい女性像を切り開くチャンスと言えないこともありません」 「明治からの近代天皇制は、制度と人間、霊性と肉体といった矛盾を突き詰めませんでした。戦争に負けると、アメリカ人は新しい憲法に『国民統合の象徴』と書きました。けれど、『象徴』には字義からしても実体はない、なぜなら象徴は象徴されるものがあっての象徴だから──ということを小説『箱の中の天皇』で考えました。ところが、日本国民はそういう議論を棚上げしてきました。眞子さまの今回の騒動は、そういう『ないこと』にされてしまってきた山積みの問題を一気に浮かび上がらせるきっかけだと私は捉えています」
立皇嗣の礼の5日後の2020年11月13日、眞子さまは小室さんとの結婚についてのお気持ちを発表された。「結婚は、私たちにとって自分たちの心を大切に守りながら生きていくために必要な選択です」。結婚に向け、揺るぎない気持ちを示されたように思える。 その1週間後、秋篠宮皇嗣は誕生日に際した記者会見で、二人の結婚について聞かれ、「結婚することを認めるということです。憲法にも『結婚は両性の合意のみに基づいて』とあります。本人たちが本当にそういう気持ちであれば、親としてはそれを尊重するべきものだと考えています」と述べた。そもそも眞子さまの結婚は、仮に周囲が反対したとしても、法的に認められるものなのだろうか。
■木村草太・憲法学者 「秋篠宮皇嗣が昨秋の誕生日に際した会見で言及されたように、婚姻は憲法24条で『両性の合意のみに基いて成立し』と規定されています。双方の当事者の意思があれば、両親の同意などはいらないということです。しかしこれが眞子さまにも適用されるのかと言えば、どうでしょう。私は適用されないと考えます」 東京都立大学教授の木村さんは、今回の問題は眞子さまの思いを超えて、皇室の制度的なあり方に関わってくる可能性があるという。現在、皇位継承順位は秋篠宮さま(55)が1位、2位が悠仁さま(14)、3位が常陸宮さま(85)となっている。皇室制度を持続可能にするため、女系や女性の身分の見直しという議論も上がっている。
「天皇と皇室については、日本国憲法1章(1~8条)と皇室典範で規定されています。皇族の結婚は、皇位継承資格を有する男系男子の場合、皇室典範第10条で『皇室会議の議を経ることを要する』と規定されており、当事者の意思だけでは認められません。一方、皇位継承資格のない女性皇族の場合には、第12条で『皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる』と規定されており、本人の意思によって決めることができます。つまり、眞子さまの結婚は法律では縛られていないのです。でも、眞子さまが婚姻について自由かと言えば、そう言い切ることはできません」
摂政という象徴職の代行の役割
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)
「眞子さまは内親王(天皇の2親等以内の女性)で、現状では皇位継承資格者ではありません。しかし、潜在的には有資格者と言えます。なぜかといえば、女性天皇の議論があるからです。現在の皇室典範では認められていませんが、憲法2条には『皇位は、世襲のものであつて』とあるだけで女性が排除されてはいません。つまり、今後、皇室典範が改正されれば、眞子さまが天皇になる可能性もあるのです。女性天皇が認められた場合、内親王も含めて、皇室会議の議を経て婚姻する仕組みになるでしょう」
「また、もう一つ、現在の内親王は『潜在的な皇位継承資格者である』という可能性以上に、『摂政の就任資格』もあります。皇室典範第17条によると、摂政の就任順位は1位が皇太子または皇太孫で、内親王は6位となっています。摂政に就任することが何を意味するかというと、『象徴職の代行』になりうるということです。それゆえ、例えば勝手に海外で独自の外交ルートを開拓したり、特定の政治団体と結びついたり、ということがあっては困るわけです」 「皇室の方々には一般国民に与えられている自由や権利が制限されているため、一見すると人権侵害ではないかと思われるでしょう。このような『憲法の一般原則に違反してでも、この制度は保障する』と憲法自体が定めることを『制度的保障』というのですが、天皇制はその典型例だとされています。皇族については『男女平等』『法の下の平等』『婚姻における当事者意思の尊重』など基本的人権の条項を適用しないという説明になり、それを前提として皇室典範があるのです。これを『身分制の飛び地』と呼ぶ憲法学者もいます。現行法が女性皇族の婚姻を自由にしているのも、憲法24条が適用されるからではなく、あくまで現在の皇室典範が男系男子世襲の原則を採用しているため、規制の必要がないと考えられたからにすぎません」 こうした「潜在的な」可能性を脇に置き、周囲の理解を得られなくとも、眞子さまが意思を強くすれば、皇籍を離脱、結婚をすることもできる。だが、その場合、従来の慣例と異なるため、その後の環境に変化があるかもしれないと木村さんは言う。
国民の「象徴」として機能するか
(写真:西村尚己/アフロ)
「憲法第1条に天皇は『国民統合の象徴』で『国民の総意に基く』とあります。象徴という立場は、与えられた権限を行使すればいいというのとは違います。その人を見ると、多くの人が日本を思い浮かべるという存在。ということは、多くの国民が『この方は象徴だ』と承認していないと機能しないのです。もしそのときに『この人の親族にこんな人がいる』『国民として恥ずかしい』と思われてしまうと、象徴という立場が成立しない、あるいは存在意義が弱まる可能性がある。現状の皇室制度では、眞子さまの弟の悠仁さまが即位される可能性が高いと思いますが、その時にいまのような国民感情だと、象徴という立場がどういう受け入れられ方になるのか、ちょっと心配になります」 「結婚した女性皇族に皇室活動を続けてもらう『皇女』制度の創設が、政府内で検討されています。これは『象徴天皇としての公務』があまりに増えすぎているからです。天皇だけではこなせずに、『象徴としての仕事を皇族全体で分担している』という状態になっています。そのため、皇族の数が一定数必要になっているのです」 「そもそも皇族の公務は法的根拠が曖昧なまま、どんどん増えて膨大な数になっている。『公務が多すぎるから、象徴職を分担せざるをえない』という事態に法律が対応していないというところに本質的な問題があるのではないかと思います。眞子さまの結婚問題だけにとらわれず、『皇室の公務』のあり方という課題について考え直すべきだと思います」
■プロフィール 赤坂真理(あかさか・まり)・作家。東京都生まれ。アート誌の編集長を経て、1995年に小説「起爆者」でデビュー。2000年、『ミューズ』で野間文芸新人賞、2012年『東京プリズン』で毎日出版文化賞、司馬遼太郎賞を受賞。著書に『箱の中の天皇』、『愛と性と存在のはなし』ほか多数。 木村草太(きむら・そうた)・東京都立大学教授(憲法学)。1980年、神奈川県生まれ。東京大学法学部卒。首都大学東京(現・東京都立大学)大学院の助教授を経て、現職。 --- 小川匡則(おがわ・まさのり) ジャーナリスト。1984年、東京都生まれ。講談社「週刊現代」記者。北海道大学農学部卒、同大学院農学院修了。