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自分が感じてきたことを、順不同で、ああでもない、こうでもないと、かきつらねていきたいと思っている。

新型コロナウイルスとの闘い 世界は勝てているのか 2020年8月11日   BBC

2020年08月14日 22時20分26秒 | 感染症

ジェイムズ・ギャラガー、BBC健康科学担当編集委員

 
 

世界保健機関(WHO)が新型ウイルスによる緊急事態を宣言してから、6カ月余りがたった。

1月末のあの日の時点で、新型コロナウイルスの感染が確認されていたのは1万人弱で、200人以上が死亡していた。中国以外での死者は出ていなかった。

あれ以来、世界も私たちの暮らしも、とてつもなく変わってしまった。人類と新型ウイルスとのこの闘いで、人間のこれまでの戦いぶりはどうなのだろう。

地球全体を見ると、戦況は厳しいPresentational white space

 

確認された感染者の累計は2000万人、死者は70万人を超えた(日本時間11日午前現在)。パンデミック(世界的流行)の当初、感染者が10万人増えるには数週間かかっていた。しかし今ではわずか数時間で、10万人増えてしまう。

感染者が最初の10万人に達するには67日かかったが、次の10万人確認は11日、その次の10万人確認はわずか3日しかかからなかったのだ。

WHOのマーガレット・ハリス医師は私に、「私たちは今なお、加速を続ける激しい、そしてきわめて深刻なパンデミックのただなかにある」と話した。「世界のあらゆるコミュニティーでパンデミックは続いている」。

同じパンデミックがずっと続いているわけだが、その影響は単一ではない。新型コロナウイルスによる感染症「COVID-19」は世界各地で様々な影響をもたらしている。しかし、自分の国で起きている事態とは異なる現実は、いとも簡単に見えなくなってしまいがちだ。

ただし、人類全体に共通する事実がひとつある。アマゾンの熱帯雨林に住んでいようが、シンガポールの高層住宅に住んでいようが。あるいは、夏の終わりが近づくイギリスの街に住んでいようが。このウイルスは、人と人の接触によって増殖するのだ。私たちが集まれば集まるほど、このウイルスは伝播(でんぱ)しやすくなる。このことは、中国で最初に出現した時から今に至るまで、変わっていない。

この大原則こそ、世界中のあらゆる状況を説明するものだ。あなたが世界のどこにいようと。そして世界の未来の姿も決定する

Mask-wearing on the streets of India
 
画像説明,

日別の確認感染者数は今ではインドが最も多い

 

人間が密集すればウイルスは伝播する。この真実があるからこそ、いまパンデミックの震央になっている中南米の状況が説明できる。インドでの感染者急増も同様だ。香港が感染者を隔離施設に収容しているのもそのためだし、韓国当局が市民の銀行口座や携帯電話を監視しているのも同じだ。だからこそ、欧州各国やオーストラリアは、ロックダウン(都市封鎖)と感染封じ込めのバランスをいかにとるかで苦労している。そして私たちは、以前の日常生活に戻るよりは、「新しい普通」、「新しい日常」を模索しているのだ。

「このウイルスは惑星のあちこちで広まっている。私たち一人ひとり、全員に影響している。人間から人間へと伝染し、私たちがみんな結びついてつながっていることを浮き彫りにしている」。ロンドン大学セントジョージ校(医学専門)のエリザベッタ・グロッペリ医師はこう言う。「旅行や移動だけでなく、一緒に話したり、一緒に時間を過ごしたりする。人間とはそういうものだ」。

一緒に歌を歌う。ただそれだけの素朴な行動が、ウイルスを広めてしまう。

加えて、新型ウイルスは異例なほど追跡しにくい病原体だ。多くの人は感染しても軽症か無症状だが、そのほかの人たちは病院が逼迫(ひっぱく)するほど重症化してしまうし、死に至る人も多い。

「まったくもって今の時代ならではのパンデミック・ウイルスだ。私たちは今、新型コロナウイルスの時代を生きている」とハリス医師は言う。

感染対策で成功した場所は、人から人へと伝染していくウイルスの能力を断ち切ったことで成功した。特に注目されるのは、ニュージーランドだ。国内の感染者がまだ少ないうちに素早く反応した。ロックダウンを開始し、国境を封鎖し、今では感染者がほとんどいない。生活もほぼ日常に戻っている。

基本的な対策をしっかりやることで、効果を出している貧しい国もある。たとえばモンゴル。パンデミックの発端となった中国と、長い国境を接している。ひどい事態になる展開もあり得たが、7月になるまで集中治療を必要とする重症患者は1人も出なかった。現時点までに確認された感染者はわずかに293人で、死者はいない。

Ulaanbaatar, Mongolia
 
画像説明,

モンゴルでは今も多くの人が移動式住居の「ゲル」に住む。大家族がひとつの部屋に住むことも多い。写真は首都ウランバートル

 

「モンゴルは限られた医療資源を上手に有効活用した」と、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のデイヴィッド・ヘイマン教授は評価する。「いわゆる『足で稼ぐ』、『靴底をすり減らす』防疫対策だ。戸別訪問による聞き取り調査を徹底して、感染者の接触者を追跡して特定して、隔離した」。

加えてモンゴル当局は、学校を素早く閉鎖し、国外移動を制限し、マスク着用や手洗いの励行を早くから実施した。

その一方で、「政治的指導力の欠如」が多くの国で効果的な感染対策を妨げたと、ヘイマン教授は言う。「公衆衛生対策の有力者と、政治の指導者が、なかなかうまく話し合えない状況」が多くの国で見られたと。ウイルスはそういう環境でこそ、大いに増殖した。パンデミックを通じてドナルド・トランプ米大統領と、アメリカの感染症対策の第一人者、アンソニー・ファウチ博士は、まったく別の言語で話しているとまではいかないものの、明らかに違う文脈で話し続けている。ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領はロックダウン反対集会に参加し、COVID-19を「ちょっとした風邪」と呼び、3月の時点でパンデミックはほぼ収まりつつあると発言した。

しかし実際には、ブラジルだけで280万人が感染し、10万人以上が亡くなっている。

Gravedigger in Brazil
 
画像説明,

ブラジルの首都サンパウロ郊外で墓を掘る人

 

一方で、ウイルスを制御した国々は(その多くは社会を激しく痛めつけた苦しいロックダウンによってウイルスを抑制したのだが)、今なおウイルスが残っていると気付くようになった。警戒態勢を緩めれば再び広まるし、日常生活の復活はまだじれったいほど見通しが立たないのだと。

「ロックダウン開始よりもロックダウン解除の方が難しいと、各国は気付き始めている」と、グロッペリ医師は言う。「ウイルスとどう共存するか、これまで考えていなかったからだ」。

オーストラリアも、ロックダウンの解除方法を模索する国のひとつだ。しかし、ヴィクトリア州はいまや「大災害」状態にある。主要都市メルボルンは7月初めにロックダウン状態に戻ったが、感染拡大に伴い、以前より厳しい行動制限を導入している。今では夜間外出禁止命令が出され、住民は運動するにしても自宅から5キロ圏内にとどまるよう指示されている。

欧州もロックダウンを解除して経済活動を再開させつつある。しかし、スペインフランス、ギリシャはいずれも最近、夏になって最多の感染者数を記録している。ドイツは過去3カ月で初めて、1日に確認される感染者が1000人を超えた

 

一般市民が街でマスクをしている光景は、以前は欧州では異例でまれなものだったが、今では当たり前になった。着用を必須にしているリゾート地のビーチもあるほどだ。

さらに言えば、これは全員に対する警鐘だが、かつて対策がうまくいったからといって、今後もずっとそうだという保証はまったくない。香港は当初、感染の第1波を上手に乗り越えたと称賛されていた。ところが今ではバーやジムがまたしても閉鎖されている。いったん再開した香港ディズニーランド・リゾートは、1カ月もしないうちにまた休園した。

「ロックダウンを解除したからといって、元どおりに戻れるわけではない。この認識がまだまったく広まっていない」と、ハリス医師は言う。

 

アフリカの状況はまだ未知数だ。これまでに確認された感染者は100万人超。当初は感染を防げていると思われた南アフリカで事態は悪化しつつあり、大陸の感染者の過半数が集中している。それでも、検査数が比較的少ないため、正確な状況把握は難しい。

そこに加えて、アフリカの死亡率が他国に加えて目立って低いという不可解な状態も続いている。その理由について、仮説がいくつかある――。

  • 他の地域に比べて人口がはるかに若い。アフリカの平均年齢は19歳だ。COVID-19は高齢者ほど致死性が高い
  • 新型ではない他のコロナウイルスが多く存在し、そのため多くの人が交差免疫を獲得している可能性がある
  • 重症化リスクとなる肥満や2型糖尿病など、先進国に多い基礎疾患は、アフリカでは比較的少ない

創意工夫で対応している国も複数ある。ルワンダは病院への備品配達や行動制限の周知に、ドローンを使っている。集会禁止にもかかわらず教会へ向かっていた牧師など、違反者の捕捉にもドローンが使われている。

しかし、インドや東南アジアの一部などでは、「手を洗いましょう」という最も素朴なメッセージさえ、水道が整備されていない、衛生条件が整っていないなどの理由で、なかなか徹底されない。

「手を洗う水がすぐそこにある人と、ない人がいる」とグロッペリ医師は言う。「この差は非常に大きくて、世界をざっと二分できる。そうした場所では、ワクチンがない限り、いったいどうやってウイルスを抑制できるというのか。これは大問題だ」。

Increase
 
Presentational white space
 

では、この事態はいったい、いつになったら収まるのか。

すでに治療薬はある。安価なステロイド剤のデキサメタゾンは、一部の重症患者の改善に一定の効果を示した。けれどもそれだけでは、COVID-19で死亡する患者はなくならないし、すべての行動制限を解除できるわけでもない。

厳しいロックダウンを実施しなかったスウェーデンの独自路線が、長期的には奏功するのか、今後しばらく注目されるだろう。スウェーデンではこれまでのところ、介護施設の入居者を十分に守れなかったことなどから、近隣諸国よりも顕著に高い死亡率につながっている。

元通りの生活に戻りたい世界は、もっぱらワクチンに望みをかけている。ワクチン接種で免疫を獲得した人が増えれば、ウイルスの伝染ペースが抑制されるからだ。

今では6種類のワクチンが、臨床試験の第3段階に入っている。有望なワクチンが本当に実際に効くのかどうかが判明する、きわめて重要な段階だ。過去に多くの開発中の新薬が、この最終ハードルでつまずいてきた。

複数の保健当局者はワクチン開発について、「いつ」ではなく、「もしも」を今なお前提とすべきだとくぎを刺す。

WHOのハリス医師は、「多くの人がまるでハリウッド映画のような期待をワクチンに寄せている。そのうち科学者が、今のこの事態を一気に解決してくれるはずだと信じている」と言う。

「2時間の映画なら、結末はすぐにやってくる。しかし、科学者はブラッド・ピットではない。自分が作ったワクチンを自分に打って、『これでみんな助かるぞ』とか、決めぜりふを言ったりしない」


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