現職では最多となる6選を目指して栃木県の福田富一知事(71)が21日、立候補を表明した。多選を批判してきた知事。「後進に道をあけるのも年長者の務め」と言いながら、出馬に踏み切った背景には何があったのか。
福田知事が出馬を決断した。
「権腐10年」(権力は10年たつと腐るという意味)を胸に刻み、多選に懐疑的だった当人が6選を目指す。「ミイラ取りがミイラになった」と知事は会見で語った。
理想と現実が大きく異なるのは、個人より組織の論理が優先されたからだ。
昨年秋、知事は不出馬の考えを関係者に打ち明け、後任に高橋克法参院議員、国政には県議や首長などが挑めるようにとの構想を示した。自民党内には知事選への立候補をうかがう動きもあった。
しかし、国政は政治資金の裏金問題で逆風にさらされており、選挙の主力である県議らが一致して推せる体制が組めるかが焦点だった。
出馬を強く望む周囲が知事の外堀を着々と埋め、3月には後援会総連合会で出馬要請の決議をした。県連顧問でもある知事も、推す声の高まりに決意を固めた。他党の議員は「知事にお疲れさまといってやれなかった組織の事情があるのだろう」と推察する。
ただ、組織頼みで勝てないことは、かつて5選を目指し敗れた故渡辺文雄知事を宇都宮市長時代に支えた知事が一番理解しているだろう。「多選の弊害」や長期政権の「ゆるみ」といった、「外」の批判にどうこたえるのかが問われている。
知事自身は、「(周囲の)忖度は求めていない。弊害が出ないよう気を引き締める」と話した。しかし、長年同じ人が地位に就くことの「弊害」は見えにくいだけで、だれが知事であっても少なからずあるものだ。
周囲は「あと4年」「最後の4年」という。そうであれば、なおさら守りに入らず、県民の理解が得られるような、将来展望を示す必要がある。
多選の是非や、政策の善しあしを最終的に判断するのは有権者だ。候補者の選択肢が必要なのはいうまでもない。【有田浩子】