韓国経済、負のスパイラルに 財閥は減益 消費自粛で観光地、飲食店は閑古鳥…- 夕刊フジ(2014年5月9日17時12分)
韓国経済が瀕死(ひんし)だ。円安ウォン高などの影響を受け、最大手のサムスンなど屋台骨を支えてきた財閥系企業グループの業績が軒並み悪化。内需も低迷するなか、300人以上の死者・行方不明者を出した旅客船「セウォル号」の沈没事故が追い打ちをかけた。自粛ムードの広がりで観光地には閑古鳥が鳴き、消費が急速に冷え込んでいる。「のり巻きも売れない」(韓国紙)という惨状が朴槿恵(パク・クネ)政権を追い詰めだした。
「観光地域の景気は死んだも同然だったし、周辺の地元市場の小売業者も非常に困難な状況だった」
対馬海峡に面し、温暖な観光地として知られる韓国南部・慶尚南道(キョンサンナムド)。7日の中央日報は、同所が直面する厳しい現実を地元議員の証言として報じた。
同紙によれば、中南部の忠清北道(チュンチョンプクト)清州(チョンジュ)市を選挙区とする議員が「観光業をしている人が惨事後3週間で1億ウォン(約993万円)以上の損失を出したといっていた」と訴えたという。
指摘されている「惨事」とは、先月16日に発生したセウォル号沈没事故だ。
事故から3週間となった7日、海洋警察庁は、救助者の誤集計があったとして死者、行方不明者の合計を302人から304人に修正。これまでに269遺体を収容し、不明者は35人になった。
韓国各紙は、その余波が、経済全体をものみ込もうとしている危機的状況を伝えている。
「事故後、国内は自粛ムード一色だ。団体旅行やレジャーでキャンセルが続出。飲食店は閑古鳥が鳴き、物も売れなくなっている」(現地駐在員)
タイミングが最悪だった。韓国では、日本のゴールデンウイーク(GW)のような大型連休はないが、5月は「家庭の月」と呼ばれるほど祝日が多く、例年、観光業界にとってかき入れ時になっている。
購買意欲が高まるこの時期に合わせて、販促イベントや広告PRを仕掛ける流通業者は多く、それらすべてが「セウォル号ショック」の直撃を受けて台無しになってしまった。
消費マインドの冷え込みは尋常ではなく、大型スーパーの売り上げは10%以上減少(先月23日の聯合ニュース)。5月7日の中央日報によると、庶民の味として親しまれている「キムパプ(のり巻き)」さえも売れなくなっているという。
広がる沈滞ムードに朴政権も危機感を募らせている。
● 玄(=日へんに午)錫(ヒョン・オソク)副首相は6日、研究機関の関係者らとの会合で、「セウォル号沈没事故後、消費や関連サービス業活動に少なからずマイナスの影響が出ている」と発言。民間消費が落ち込んでいることを認めた。
だが、より悲惨なのは事故のショックだけが景気減退の原因ではないことだ。
7日の聯合ニュースは、韓国経済を牽引(けんいん)してきたサムスンや現代(ヒュンダイ)重工業など財閥系グループ企業主要10社の業績が、大幅に悪化していることを報じた。
同10社の系列法人の昨年の税引き前純利益は50兆9000億ウォン(約5兆円)で、前年の59兆8000億ウォン(約5兆9000億円)から14・9%も減少した。
企業別でみると、サムスンはサムスン電子を除けば、税引き前純利益が10兆3000億ウォン(約1兆円)から2兆3000億ウォン(約2283億円)へと77・4%も急減。現代重工業グループはマイナス82・2%、鉄鋼最大手のポスコも同40・7%と利益が大幅に落ち込んだ。
韓国貿易協会が、対日輸出企業216社を対象にアンケートを行ったところ、今年1~3月期の対日輸出増加率が前年同期比で10・7%減少するなど、216社の実に92・6%に当たる200社が円安ウォン高による打撃を受けたことが明らかになった。日本以外の国に輸出する企業448社でも、15・6%の70社に影響が出ている。
韓国事情に詳しいノンフィクションライターの高月靖氏は、「セウォル号の沈没事故が韓国経済に与えた影響はかなり深刻だ。事故直後の4月下旬は、例年なら旅行予約などでクレジットカード消費が増える時期にあたる。ところが、カード会社7社が発表した事故から12日間の1日当たりのカード承認額は、前月同期から7・6%も減少している。これは異例のことだ。国内消費の冷え込みに拍車を掛けている」と指摘し、こう続ける。
「韓国のGDPに対する内需の割合は、1996年をピークに下がり続けている。慢性的な国内消費の不振が昨年あたりから、より深刻になってきた。政府は規制緩和を内需拡大の起爆剤にしたかったが、今回の沈没事故でその青写真も描けなくなった。持病ともいえる内需不振と事故のダブルショックで韓国経済は、負のスパイラルに陥った」
朴政権にこの窮状を脱する術はあるのか。
韓国料理の代名詞ともいえるキムチも不振が続いている。韓国貿易協会が先月6日発表した資料によると、13年の対日輸出は前年比22・1%減の6580万ドル。中国産の低価格キムチが流入したこともあり、13年は輸入が輸出を2815万ドルも上回る「キムチ貿易赤字」に陥っている。
一時は、日本のヒットチャートを席巻した「K-POP」の勢いにも陰りが見えている。
オリコンの年間シングルランキングでは、11年のトップ30に、東方神起やKARAなど4組が入っていたが、12年と13年は2年連続でゼロ。韓国国内で育てた韓流スターを、市場規模が大きい日本で売り出すというビジネスモデルは成り立たなくなっている。
前出の室谷氏は「韓国人と話をすると『日本市場がダメでも、中国市場があるから大丈夫だ』と言うが、著作権意識が低い中国ではパクリが横行しているし、飽きられやすい。中国での韓流ブームは長続きしないだろう」と指摘する。
事実、13年に韓国を訪れた外国人観光客は中国人がトップの3割を占めるが、再び韓国を訪れる「リピート率」は29・7%。日本人の64・3%に遠く及ばない。
身から出たさびとはいえ、日本市場に依存してきた韓国産業は苦難の季節を迎えたといえそうだ。