村系都市伝説
村系都市伝説
山口敏太郎
@昔の原稿蔵出し
平成の大合併は全国の地図を書き換えた。その為だろうか。久々に地方在住の友人に手紙や宅配便を出すと宛先不明で返される事が多い。かつて当然のように存在した町名や村名が軒並み消失しているのだ。つまり、この日本において”地図から消えてしまった村”が、現実に存在するのだ。この”消えた村”というモチーフは、都市伝説のストーリー設定で頻繁に使用されている。「我々が生活する都市とは価値観の違う、異様な村が何処かに存在する」そんなファンタジックな世界観は、疲れきった我々現代人を惹きつけるのに充分である。まるで、21世紀の桃源郷伝説のような不思議なストーリー群・村系都市伝説。今これほど熱いアーバン・フォークロア(都市伝説)はない。
筆者・山口敏太郎は、村を舞台設定にしたこの系譜の都市伝説を「村系都市伝説」と呼んでいる。これは私の造語であるのだが、都会で囁かれる「渋谷系都市伝説」と対極に位置するものである。「渋谷系都市伝説」というのは、渋谷・池袋など大都会・東京の闇から生まれたものであり、都会の暗部・問題点から生じたアーバン・フォークロア(都市伝説)である。この「渋谷系都市伝説」という言葉の始まりは判然としないが、荻原浩著「噂」(2001年2月 講談社)あたりから派生し、「渋谷怪談 サッちゃんの都市伝説」(2004年竹書房)で完成した言葉ではないだろうか。この「村系都市伝説」ブームの口火を切ったのは、「杉沢村伝説」である。その世界観が凄い。都市伝説の舞台は、青森県内の山中にあった杉沢村。昭和初期、突然発狂した村の若者が村民全員を惨殺した。戦時中であった為、人心を惑わせてはならないとされ、事件の記録が抹消され、地図からその村名も抹消されたというものである。この設定だけで、胸躍らされた都市伝説マニアは多いし、筆者もこの物語を素直に楽しんだ。
更に全国の好事家を奔走せしめるために、地理的な情報も断片的に流布された。その情報は、およそ以下のようなものであった。入口に朽ちた鳥居があり、その横にはドクロのような石があり「ここから先へ入る者、命の保証はない」と記された看板がある。その奥には廃墟と化した住居群があり、家の内部には事件の痕跡である夥しい鮮血が残されているという。この地理的情報は、部分的であるから故に都市伝説マニアの心をくすぐった。「どうせ、架空の話だよ」と言いながらも、杉沢村の場所特定に走った夢見がちなトレジャーハンターは数多く存在した。いい年をした男たちは、少年時代に体験した宝探しゲームのように野山を駆け巡ったのだ。
この「杉沢村伝説」は、アーバン・フォークロアとして、メディアによって報道され、再生産され続けた。口承で広がり、時折メディアに取り上げられ、再度口承に降りるなど、「口承とメディアのキャッチボール」を繰り返しながら、洗練・流布していった。その流布の経路だが、元々、青森県のローカルフォークロアが、インターネットの普及により、「日本の七不思議」というサイトに投稿され、その管理人である作家・山岸和彦氏によってフジテレビの『奇跡体験!アンビリバボー』に情報提供されたと思われるのだ。当時、山岸和彦氏は、同番組傘下のリサーチ会社と付き合いがあり、番組が取り上げる不思議な案件に関して頻繁に情報提供していた。実は筆者・山口敏太郎は、山岸和彦氏と旧知の間柄であり、本人から杉沢村の情報伝達の経過を聞いていたのである。また、その当時から青森県内の某殺人事件がもとに囁かれた都市伝説に過ぎないと山岸氏は断言していた。結局「杉沢村」は大量殺人(大量と言っても数人)に、横溝正史の八ツ墓村の設定が加味され、青森で流布された流言に属する話でしかなかったのだ。もっとも、そのローカルな噂がネットとメディアによって、日本中を狂喜させるメジャーな都市伝説に昇華した初のケースとしては評価できる。
また犬鳴峠の付近にある「犬鳴村伝説」も根強い。確かに1889年まで福岡県鞍手郡に「犬鳴村」は存在しているが、その村とは違って都市伝説上に「犬鳴村」という架空の村が成立してしまったのだ。その設定も興味深い。犬鳴村の入り口に『この先、日本国憲法通じません』という看板があり、無理に進入すると鎌を持った村民が猛スピードで追跡してくるという。この噂の現場探しに都市伝説マニアが奔走したが、これまた架空の村であった。
他にもアイスホッケーマスクを被った殺人鬼が現れる「ジェイソン村」などが噂されているが、同村は、神奈川県相模湖町、群馬、新潟、秋田などに舞台設定がされている。他にも夜になると死者が徘徊する「死人村」、生贄を養育する「生贄村」、多肢症の人々がすむ村など枚挙に暇がない。
我々現代人は何故、このような「村系都市伝説」に心惹かれるのであろうか。ひとつの理由として、都会人が放棄してしまった故郷に対する贖罪の気持ちがあるのではないだろうか。田舎に残された祖父母の墓、閉め切られた先祖伝来の家屋、老人しかいない故郷の村。それらに背を向けて、都会という魔界で生きている現代人。その深層心理においては、「村系都市伝説」に象徴される”捨てたはずの故郷”への帰還を願っている可能性は高い。
また二つ目の理由として共同体の崩壊という理由も考えられる。かつての村落に代表される地域的な共同体が崩壊した後、学校や企業という目的に応じた共同体が成立した。だがいまや学校教育は崩壊し、企業の終身雇用も崩れ去った。そんな中で所属すべき共同体を失った現代人が、アーバンフォークロアの中に逃げ込むべき”架空の村”を探しているのではないだろうか。故に現代人は、ありもしないはずの村を探す為に狂騒するのである。
「村系都市伝説」それは、現代人の心の隠れ里なのだ。
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山口敏太郎
@昔の原稿蔵出し
平成の大合併は全国の地図を書き換えた。その為だろうか。久々に地方在住の友人に手紙や宅配便を出すと宛先不明で返される事が多い。かつて当然のように存在した町名や村名が軒並み消失しているのだ。つまり、この日本において”地図から消えてしまった村”が、現実に存在するのだ。この”消えた村”というモチーフは、都市伝説のストーリー設定で頻繁に使用されている。「我々が生活する都市とは価値観の違う、異様な村が何処かに存在する」そんなファンタジックな世界観は、疲れきった我々現代人を惹きつけるのに充分である。まるで、21世紀の桃源郷伝説のような不思議なストーリー群・村系都市伝説。今これほど熱いアーバン・フォークロア(都市伝説)はない。
筆者・山口敏太郎は、村を舞台設定にしたこの系譜の都市伝説を「村系都市伝説」と呼んでいる。これは私の造語であるのだが、都会で囁かれる「渋谷系都市伝説」と対極に位置するものである。「渋谷系都市伝説」というのは、渋谷・池袋など大都会・東京の闇から生まれたものであり、都会の暗部・問題点から生じたアーバン・フォークロア(都市伝説)である。この「渋谷系都市伝説」という言葉の始まりは判然としないが、荻原浩著「噂」(2001年2月 講談社)あたりから派生し、「渋谷怪談 サッちゃんの都市伝説」(2004年竹書房)で完成した言葉ではないだろうか。この「村系都市伝説」ブームの口火を切ったのは、「杉沢村伝説」である。その世界観が凄い。都市伝説の舞台は、青森県内の山中にあった杉沢村。昭和初期、突然発狂した村の若者が村民全員を惨殺した。戦時中であった為、人心を惑わせてはならないとされ、事件の記録が抹消され、地図からその村名も抹消されたというものである。この設定だけで、胸躍らされた都市伝説マニアは多いし、筆者もこの物語を素直に楽しんだ。
更に全国の好事家を奔走せしめるために、地理的な情報も断片的に流布された。その情報は、およそ以下のようなものであった。入口に朽ちた鳥居があり、その横にはドクロのような石があり「ここから先へ入る者、命の保証はない」と記された看板がある。その奥には廃墟と化した住居群があり、家の内部には事件の痕跡である夥しい鮮血が残されているという。この地理的情報は、部分的であるから故に都市伝説マニアの心をくすぐった。「どうせ、架空の話だよ」と言いながらも、杉沢村の場所特定に走った夢見がちなトレジャーハンターは数多く存在した。いい年をした男たちは、少年時代に体験した宝探しゲームのように野山を駆け巡ったのだ。
この「杉沢村伝説」は、アーバン・フォークロアとして、メディアによって報道され、再生産され続けた。口承で広がり、時折メディアに取り上げられ、再度口承に降りるなど、「口承とメディアのキャッチボール」を繰り返しながら、洗練・流布していった。その流布の経路だが、元々、青森県のローカルフォークロアが、インターネットの普及により、「日本の七不思議」というサイトに投稿され、その管理人である作家・山岸和彦氏によってフジテレビの『奇跡体験!アンビリバボー』に情報提供されたと思われるのだ。当時、山岸和彦氏は、同番組傘下のリサーチ会社と付き合いがあり、番組が取り上げる不思議な案件に関して頻繁に情報提供していた。実は筆者・山口敏太郎は、山岸和彦氏と旧知の間柄であり、本人から杉沢村の情報伝達の経過を聞いていたのである。また、その当時から青森県内の某殺人事件がもとに囁かれた都市伝説に過ぎないと山岸氏は断言していた。結局「杉沢村」は大量殺人(大量と言っても数人)に、横溝正史の八ツ墓村の設定が加味され、青森で流布された流言に属する話でしかなかったのだ。もっとも、そのローカルな噂がネットとメディアによって、日本中を狂喜させるメジャーな都市伝説に昇華した初のケースとしては評価できる。
また犬鳴峠の付近にある「犬鳴村伝説」も根強い。確かに1889年まで福岡県鞍手郡に「犬鳴村」は存在しているが、その村とは違って都市伝説上に「犬鳴村」という架空の村が成立してしまったのだ。その設定も興味深い。犬鳴村の入り口に『この先、日本国憲法通じません』という看板があり、無理に進入すると鎌を持った村民が猛スピードで追跡してくるという。この噂の現場探しに都市伝説マニアが奔走したが、これまた架空の村であった。
他にもアイスホッケーマスクを被った殺人鬼が現れる「ジェイソン村」などが噂されているが、同村は、神奈川県相模湖町、群馬、新潟、秋田などに舞台設定がされている。他にも夜になると死者が徘徊する「死人村」、生贄を養育する「生贄村」、多肢症の人々がすむ村など枚挙に暇がない。
我々現代人は何故、このような「村系都市伝説」に心惹かれるのであろうか。ひとつの理由として、都会人が放棄してしまった故郷に対する贖罪の気持ちがあるのではないだろうか。田舎に残された祖父母の墓、閉め切られた先祖伝来の家屋、老人しかいない故郷の村。それらに背を向けて、都会という魔界で生きている現代人。その深層心理においては、「村系都市伝説」に象徴される”捨てたはずの故郷”への帰還を願っている可能性は高い。
また二つ目の理由として共同体の崩壊という理由も考えられる。かつての村落に代表される地域的な共同体が崩壊した後、学校や企業という目的に応じた共同体が成立した。だがいまや学校教育は崩壊し、企業の終身雇用も崩れ去った。そんな中で所属すべき共同体を失った現代人が、アーバンフォークロアの中に逃げ込むべき”架空の村”を探しているのではないだろうか。故に現代人は、ありもしないはずの村を探す為に狂騒するのである。
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