伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

ドストエフスキーの「白地」??

2006年12月11日 | エッセー
 欠片の主張 その3である。まず以下のコメントを御一読願いたい。

―― 怪我の功名 (団塊の欠片)   2006-10-04  18:05:41
 ここ数日の『熟語騒動』の関連で予想外の大発見!!  ―― なんと、ATOKでは「盲」が変換できない。『めくら』と入力して変換しても「盲」が出てこないのだ。ひょっとして差別語は変換が効かないようにしているのか。もしやと、「唖」「聾」も試みたが、これもダメ。
 ところがである。あの忌み嫌い、見下(ミクダ)してきたIMEではできるのだ。ただ、IMEでは変換候補の中に「単漢字候補」というメニューがあって、そこにあるという。一発変換とう訳ではないにせよ、なんということだ。ATOKに寄せる愚生の絶大なる信頼を裏切るのか。
 早速、Just System に電話した。 ―― 弊社といたしましては、ユーザー様からのご要望もあり、差別語・不快語として<変換候補から>除外しております。意図的ではなくても、文章の途中にこの言葉がはいっていて一括して変換される場合もありますので……。
 との回答であった。差別語として扱う事と、かな漢字交換とは次元の違う話ではないか。ひらがなならいいのか、ということにもなる。変換できるようにすべきだ、との要望があることを関係部署に伝えてほしい。 ―― と、電話を切った。
 『ATOK使い』である後輩の一人にこのことを話すと、彼はこう言った。「ATOKはIMEよりも格段に人権意識が高い証拠ですよ」と。すごい! 視点が違う。飲酒運転は悪い。だが、酒はなくせない。ならば、飲酒したら運転できない車を作ればいい。この発想である。やはり、Just Systemは、時代に先駆けているのだ。世の『ATOK使い』の諸氏よ、自信をもって使い続けようではないか! 
※勿論、ATOKも漢字としては持っている。変換ができない、という話である。愚生、上記3語を急いで「ユーザー登録」したことは言うまでもない。 ――

 ところが、である。先週、週刊Sがこの問題を取り上げた。実は、変換不可は三重苦だけではなかったのだ。「女給」は『女九』に、「白痴」は『白地』に変換されることが判明。すると、かの名作も『白地』となってしまう。ムイシュキン公爵は癇癪を起こすに違いない。
 まだある。「色盲」は『指揮網』、「片端」は『片輪』、「白蝋病」は『葉苦労病』、「土工」は『土光』、「支那」は『品』、「人夫」は『妊婦』、「飯場」は『半場』、「気違い」は『機知外』……。さらに、「聾桟敷」の『聾』、「盲判」の「盲」まで変換不可だ。叩けば埃、でもあるまいが、文字通りキーを叩けばもっとありそうだ。ことこれに関してはMS、JS、仲良く横並びだ。
 政権党というものは、己の腹が痛まぬ限り極めて開明的だ。金がかからないことには、なおかつそれで名が売れようものならいたって先駆的になる。ふだん守旧であるだけに、余計に肩に力が入るらしい。昨年には「食育基本法」なるものが成立した。さすがに罰則はないものの、法律の「沙汰」は余計だろう。『なにを喰らおうと、大きなお世話だ!』と言いたくなる。赤絨毯の木偶の坊たちは余程に暇なのか。そんなことより己のダイエットに励み、自ら手本を示せばよいであろうに。
 おそらくその伝にちがいない。昭和56年5月に、「障害に関する用語の整理のための医師法等の一部を改正する法律」が公布された。翌年7月から法文が改められ、「不具」や「廃疾」は「重度障害」または「障害のあるもの」に、「白痴者」は「精神薄弱者」に変わった。また本年の今月からは、「精神病院」が「精神科病院」と呼称を改める。
 世の亀鑑たる法律の装いを改めることに異論はない。公の呼称を時代に即応させることに異見はない。だが、「規定と強制は毛筋の間隙(カンゲキ)もない」ことだけは十分に心得ておかねばならない。このことは、本ブログの5月28日付拙稿「恩が仇になる」で触れた。
 問題はMSにせよJSにせよ、『悪乗り』が過ぎることだ。地方公共団体がよくやる「上乗せ規制」や「はみ出し規制」の類いを、自ら買って出ている。法文や新聞がレギュレーションをかけるのは分かる。だがソフト屋は関係ないだろう、と言いたい。ワープロ(ソフト)は単なる道具だ。それ以上でも以下でもない。もっともJSは道具以上のものを目指してはいる。とびきりの優れ物であることは認める。しかし、それとてユーザーの能力を超えることはできない。なににせよ、ワープロが『第三のペン』となったことに浮かれて、考え違いをしてないか。
 繰り返そう。ワープロは単なる道具だ。彫刻刀の平刃は危ないからとなくしてしまうのか。平も丸も角もなければ彫れるものも彫れぬ。言葉の淘汰は人の世の移ろいにまかせればいい。道具屋が介入すべき事柄ではない。ましてや、そのお先棒を担ごうなどとはオーバーテリトリーも甚だしい。週刊Sは「言葉狩り」だとあげつらっているが、正確に言うと「漢字狩り」だ。変換さえしなければひらがなとして言葉は記せる。ただ、漢字が消えてそのままに言葉自体が使われなくなる可能性はある。

 そこで、欠片の主張 その3 ―― ワープロで、差別語・不快語としてかな漢字交換を制限しているのはおかしい。早く止めよう。ソフトメーカーはワープロは道具であるという原点に立ち返るべきだ。

 前言をひるがえし、JSにも物申す。『はくち』も『ハクチ』も、ましてや『白チ』など、おかしくないか。「過ぎ足るは及ばざるがごとし」、また「角を矯めて牛を殺す」とも言うではないか。賢察を期待する。□