『ちはやふる』でマンガ大賞を受賞した末次由紀の短編集。気になってつい買ったんですが、すごく良かったです! 心に残りました。男女問わず、大勢の方にお薦めしたい。
末次さんの作品をもっと読みたいと思っても、トレース騒動から以前の作品が全て絶版になってしまっていて、古本屋を巡るしかありません。こんなに素敵なお話を描く人なのに、なんとももったいない話です。
『ハルコイ』は表題作を含め、大人の女性達が「大人になった」が故の悩みやときめきを描いた4作の短編集です。悩み、迷い、最後に幸せを見付けるという、粒揃いです。
表題作の『ハルコイ』は、臆病でいつも何も始められない、23歳の保育士の「のんちゃん」こと春宮のどかと、彼女を実の娘のように、そして同年代の友達のように可愛がり応援する、50歳の本田綾子(ほんだりょうこ)おばさんの物語。
リストランテ(イタリアンレストラン)の店長に恋をしたと打ち明けてくれたのんちゃんを、いくつになってもときめく心を忘れない綾子さんは最初は応援します。「あの子にわたし なにがしてあげられるだろう?」と。
名前を覚えてもらい、メールのやりとりも始められたと聞いて自分のことのようにはしゃいで喜んでくれる綾子さん。「暇つぶしの種にされないようにね」という、のんちゃんの同僚の冷ややかな言葉。違うもん、と思っていた矢先、のんちゃんは綾子さんがその男と二人で会っている処を目撃してしまいます。自分はあの子の母だとまで嘘をつき、のんちゃんから彼を遠ざけようとする綾子さん。「いいのよこれで あの人のんちゃんに合わない」と綾子さんが言った理由。綾子さんの悲しい過去、自分をこんなに思ってくれる理由。そしてのんちゃんと知り合ってだいぶ明るくなったんだよと聞かされる真実。
ラスト、泣けます。思わず目頭が熱くなりました。とても良い作品です。いくつになっても訪れる「春」と、「恋」をする心で『ハルコイ』なのだと思います。
この作品が、活動休止からの復帰後一作目です。
『指輪の片想い』は30歳を迎えた女性の悩みというものがすごく伝わってきました。
ホテルのウエディングプランナーとして働く北大路繭子(きたおうじまゆこ)。バツイチの男、氷室憲祐(ひむろけんすけ)と付き合っていて、一度失敗した彼は決して「結婚しよう」とは言ってくれない。ロマンティックなプレゼントもくれず、30の誕生日に贈られたのはゲーム機(笑)←DSらしい。
今日そっちに行ってもいいかと電話すると「なんで?」という返事。「なんでって…… 好きだから!?」と言い返す繭子。
家族に会ってくれと言ってくれない彼から繭子が欲しいのは、指輪なんかじゃなくて両親や親戚はどんな人なのかという、その輪。子宮の機能が32くらいで一段下がると年下の同僚達から皮肉を聞かされ、ピンクのドレスは夢に終わっても、やっばお母さんにはなりたいんだぁ。自分は浮気はしないし、憲祐さんを好きだって伝わってるでしょう?
「彼女」が体裁悪いなら、ちゃんと奥さんになりたいよ、家族になりたいよと泣く繭子に、「なんでダメなの いまのままで」と答える憲祐。
そんな気持ちのまま仕事をしていて、急に、自分の担当していた木下様が直前になって式を取りやめたいと。この仕事が天職だという気持ちを思い出し、自分が幸せじゃないときこそ、人の幸せに触れられる仕事を喜ばないと、と式を大成功させます。
そこに突然現れた憲祐。結婚はキラキラしたものばかりじゃない、「でも もう一回信じるなら君がいい」。そして木下様からブーケを受け取る繭子。幸せ、結婚、いいことばかりじゃないけど、信じる気持ちを大切にしたい。そう思わされた一作です。3回登場する「好きだから」という台詞の使い方がすごく上手いです。
『美彩食堂(びさいしょくどう)』。
これは切なくて、でも楽しくて、とても気に入りました。
洋食屋の実家がイヤで飛び出して、東京で建設会社の派遣社員をしている三森美彩(みつもりみさ)、26歳。御曹司合コンで知り合った竜ヶ崎晋太郎(りゅうがさきしんたろう)に惹かれて老舗の和食屋だという彼の家を訪れると、そこはつぶれかけたオンボロ食堂。
自分が客ならもう二度と来ないと思うほどにダメな店。ところが足を悪くして長く厨房に立てなくなったというお父さんの揚げた天ぷらだけは絶品だった。おいしい、でも潰れる。思い立った美彩は「あたしのこと ここで雇わない?」とおかわりのどんぶりを差し出す。
伸ばしていた爪も切り、化粧も落とし、張り切って働く美彩。自分の実家は人気の洋食屋だったけど、母のように荒れた手になるのがイヤで帰るの拒否ってるうちに潰れちゃった。崩れてから気付いたこと、「食べ物屋の娘」が、あたしの大事な地面だった。
心を入れかえ、一から料理を教わろうとする晋太郎。「おれ 美彩ちゃんと同じ思いはしたくない 美彩ちゃんにもう一回同じ思いをさせるのもいやだ」。
増えてくるお客さん、リピーター、死んだ母は喜んでくれただろうか、利益が出て思わず涙。
ところがある日、美彩は客として来た、短大時代の友人に「やだー なにこの手 すごいボロボロ~~」と言われ、弾みでいつまでも自分はこんな所にいないと答えてしまう。
それを聞いて、うちの店はもう大丈夫だからと、最後の給料を美彩に渡す晋太郎。その中には自分専用の「永久無料券」。
OLの化粧、付け爪をしたままの姿で突然戻ってきてくれる美彩に嬉しくなりました。
「手が荒れたって あたしはこの地面が必要だよ」。
『ななつの約束』。
仕事が忙しくいつの間にか笑わなくなった母と、母子家庭の小学生(幼稚園生?)の娘の七菜(なな)。七菜の宝物は、おかあさんのお古のケータイでんわ。仕事ばかりで笑わなくなった母を笑わそうと、元気にさせようと、七菜はその宝物のケータイで「写真」を撮りに、バスでお祖母ちゃんの家まで「冒険」に出かけます。「バス通りは渡らない」「5時の音楽が聞こえたら帰ること」という約束を破って。
初めて一人で乗るパス、知らない場所。お祖母ちゃんの家に辿り着くと、今検査で入院してると祖父が出迎えてくれます。しかしリフォームされて、自分の知らないおうち。
病院で「七菜はまだ子供よ しっかりなんてしてなくてもいいの バスだってなんだって いっぱい怖かったでしょう?」という祖母の優しい言葉に思わずこぼれてしまう涙。この写真でもお母さんが笑ってくれなかったらどうしよう、と。
取り乱して自分を捜しに来てくれるお母さんが良かったですね。帰り道、七菜をおんぷして土手をゆっくり歩きながら、自分は笑ってなかったかと、これまでを振り返る。大切な時間をありがとう、という感じの一作です。
お薦め度:★★★★☆
泣けます。あまりの感動で「わっ」と泣いてしまうような感じではなく、心の中に温かい物が芽生え、じーんとしてくる感じ。4作とも甲乙つけがたいですが、私は一つ選べと言われたら『指輪の片想い』でしょうか。何度も何度も、繰り返し読みたくなる一冊です。
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やっと、読みました!(^-^)
よく探したら、レンタルコミック屋に置いてありました!
しかも、借りられていて、なかなか借りられませんでした。。(>_<)
メチャ面白いです!
珠玉の読みきり集ですネ!
泣きました!
読みましたか! 泣けるよねー。何度読んでもいいです。
くり返し読んでしまいます。
『ちはやふる』第8巻も買いました。いい展開です。