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読書メーター #2 — 子どもたちの階級闘争、ほか

2017-11-13 19:19:35 | 読書
1970年代末、産業の空洞化と郊外化によって、豊かな世界の大規模な工業都市の多くが窮地に追い込まれていた。人口が激減したためだ。1975年にはニューヨーク市は財政破綻の寸前だった。人気映画には荒廃した都市の路上をストリートパンクがのさばる暗黒の未来都市のイメージがあふれた。

しかし1980年代以降、そんな行き詰まっていた都市のいくつかは明らかに復活した。高スキルの人々を多数抱える大都市が盛り返し、やがて栄えた。ニューヨーク市の人口は今や史上最大だ。サンフランシスコは国の経済を動かしている。ボストンも好景気に沸いている。ロンドンには毎年のように新しい高層ビルが建ち、スカイラインが大変貌を遂げている。

今元気な世界の大都市が活況を取り戻したのは、知識の創出と流通を育成できたおかげだ。それは昔から都市の持つ力の一部だった。1890年に経済学の偉人アルフレッド・マーシャルが述べているが、都市では「商いの秘密が秘密ではなくなる。街の空気のようなもので、子どもたちはその多くを無意識に身に付けるのだ」。

(中略)世界経済が複雑化したおかげで、アイデアを生み出す都市の役割は重要性を増した。グローバル経済の中で事業を経営するのは複雑な仕事だ。世界中の市場とオフィスから情報を収集し処理しなければならない。多くのビジネスに内在する情報も複雑化した。金融にしろ、コンピューティングにしろ、バイオテクノロジーにしろなんであれ、テクノロジーの進歩とともに、一人の人間が複数の分野の専門家になるのは簡単ではなくなっている。したがって、プロジェクトや事業計画を進める上で複数のテーマに関する専門知識が必要な場合は協力が欠かせない。複雑なアイデアをやりとりしてさらに優れたアイデアを生み出すためには、優秀な人々がお互いに身近にいなくてはならない。企業や都市はこのプロセスを容易にする。企業と都市はソーシャル・キャピタルの生産性をひときわ高める文脈を提供しているのだ。 —(ライアン・エイヴェント 『デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか』 東洋経済新報社・2017、原著2016)



飲食店従業員の年齢の偏りが強まっている。「中高年を採用すると客足が遠のく」というコンサルタントの指導もあるが、店員が知り合いを呼び込む口コミ採用も流行している。その際決まって出る勧誘文句が「友達同士で働ける楽しい職場」。これが実はお金や待遇よりも、若者たちに受けるそうだ。

職場に遊び友達がいればすぐになじめる。仕事は退屈でも、友達とおしゃべりしながらだと楽しい。(中略)あるお好み焼き店の店員は、支度金、超過勤務手当、深夜手当、通勤費、各種祝い金、洗濯代まで支給され、週に6日働き、残業50時間で月給が額面30万円になったと喜んでいた。彼は実家暮らしだから、月の小遣いは20万円超。正社員の小遣いが平均3万8千円弱だから、はるかに恵まれている。

飲食業界の常として、働きぶりがよい若者は「正社員になって店長をやらないか」と勧誘される。彼も何度か勧誘されたが、ずっとこのままフリーターでいきたいという。正社員は税金や保険、年金など天引き額が増え給与の手取り額は大幅に減る。管理責任が重く、友達と遊び半分というわけにはいかない。雑事も多くサービス残業は不可避。正社員になる意味がわからないという。

しかし、フリーターのまま30代前半を過ぎてしまえば、正社員就職は望めなくなる。そして慣れ親しんだはずの店で、年かさの自分だけが浮いているという、まさかの展開になって辞めざるをえなくなる。その後はアルバイト歴を記しただけの履歴書を持って継続のアルバイトを探すも、やはり年齢がネックでなかなか採用されにくい。日雇い現場では若いうちからずっと非正規という中高年も珍しくない。 —(中沢彰吾 『東大卒貧困ワーカー』 新潮新書・2017)





「知識の創出と流通を育成し、アイデアを生み出す」大都市のソーシャル・キャピタルと、「年かさの自分だけが浮いているという、まさかの展開になって辞めざるをえなくなる」飲食店フリーター、これを兼ね備えた極端な例を漫画雑誌にみることができる。

大きな雑誌なら100万超の読者を抱え、連載を持つことは国民的ステータスだ。人気が出て単行本が売れれば億単位の年収になることも。専属アシスタントを何人も雇い、法人化して自社ビルを建てたり。こうした人気作家のアシになれば、師匠のスキル・ノウハウを直接吸収することができ、原稿を待つ編集者の目に留まるチャンスもあり、作家への近道だ。採用を決める編集者・編集長の権力は絶大。若い作家を競わせ、社の経費で接待し、人気の落ちた作家にはけんもほろろ。

権力を握る強い立場の者は、いろいろな不都合を自分では背負わず、立場の弱い下の者になすりつけることができる。わが国の生産年齢人口が減り始めた1990年代後半、この安直なやり方が改まらなかった結果、出版不況に拍車がかかり、雑誌が次々つぶれて携わった全員が損をするデフレスパイラルで、フリーランスのアニメーターの待遇は時給換算で最低賃金を下回り発展途上国レベルという惨状を呈することに。

多くの論者が「資本主義の終焉」を説く。が、アマゾンやグーグルは儲け、二桁成長し続けている。やり方次第であり、わが国のいわゆる、一億総中流の国民国家が、幻想としても成立しなくなっただけのこと。またもや米国に対して国益を流出させることとなった、アホ首相の腐敗した自民党政権が2~3割の強固な支持、とくに若者層の支持を得ていることも、幻想にすがりついてケツの毛までむしり取られ、競争原理はおろか同じ土俵に立つことさえできなくなりつつある、わが国の衰退を物語っているのでしょう—



ずばり東京 (文春文庫 (127‐6))
開高 健
文藝春秋

開高健/ずばり東京/文春文庫・1982(原連載1963~64)
精力的で情に篤いお人柄をしのばせる文章で、出稼ぎの飯場、労災病院、都内の農家、少年院、流しの演歌師、都庁などさまざまな舞台・人びとの様子を活写。先ごろ五輪競技場建設をめぐる若いゼネコン社員の過労死が話題となったが、本書によれば前回の東京五輪に際しては高速道や新幹線を含め数百人という単位で人が死に、さらに多くの人が傷病を負ったとのことで、世相の移り変わる速さや人の命の軽さ、往年の東京に思いをはせた次第です


出家日記―ある「おたく」の生涯
吾妻 ひでお
角川書店

蛭児神建/出家日記―ある「おたく」の生涯/角川書店・2005
「おたく」と「ロリコン」が絡み合うようにして、わが国の精神風土を象徴するような一大ジャンルに発展した80~90年代、その熱気と(一部)狂気を体現するかのような一代記。ジャンルや、集まってきた人たちや、自分自身に対しても、愛や情熱と、冷めて突き放すような批評眼が自然に同居しているあたりがご人徳。江古田の漫画喫茶(いまの漫喫と別種の)に集うマニアの様子をはじめとして、一風変った業界の内幕もの/青春群像劇としても楽しめる。こうした狭いようで幅広い感じの人がいまのおたく界には少なくなりましたな(ˇωˇ)


美人画ボーダレス
芸術新聞社
芸術新聞社

美人画ボーダレス/芸術新聞社・2017
美人画というと昔からこうした作りの本が多い。カタログ・見本帳のように、個々の作家さんの収録作はわずかでインタビューも短く、食い足りない。本としての完成度よりも、ウチが紹介することで名前と作風を覚えてもらって売り出せたら、というような人身売買の趣きさえ覚える。アート界隈の嫌らしさ・利己的な感じについて2013年の『アデル、ブルーは熱い色』というフランス映画が見事に描いていたのを思い出しました。吉井千恵さんという方の、厚みと透明感の同居する蠱惑的な作風が収穫


東大卒貧困ワーカー (新潮新書)
中沢 彰吾
新潮社

中沢彰吾/東大卒貧困ワーカー/新潮新書・2016
以前の著書に比べよりテーマ性が絞られ、さまざまな現場の状況が闇金ウシジマくん的に鮮明にイメージできる。その背景に、人間を日々使い捨てながら、幅広い業種にネットワークを広げる「人材企業=竹中平蔵がやってるような」があることも。ただ処方箋には乏しく、これからも老若男女の情報・広告・金融商材化がとめどなく進んでゆくのだろうと察せられる


誰が音楽をタダにした?──巨大産業をぶっ潰した男たち
関 美和
早川書房

スティーヴン・ウィット/誰が音楽をタダにした?─巨大産業をぶっ潰した男たち/早川書房・2016(原著2015)
MP3開発者の苦心談と、それが流通することへの音楽業界の抵抗・軋轢、といった内容(ナナメ読み)。私が題名から期待したのは、Spotifyのようなストリーミング再生はもちろん、アマゾン・アップル・グーグルをはじめ音楽とゲームを餌にわれわれの生きる時間を囲い込み、一国の法を踏み越える巨大な存在となったグローバル企業の問題であったが、記述はせいぜい2009年まで。まったくの見当外れであった(;´Д`)


日本の社会を埋め尽くすカエル男の末路 (講談社+α新書)
深尾 葉子
講談社

深尾葉子/日本の社会を埋め尽くすカエル男の末路/講談社+α新書・2013
私事ですが、スマホ(バカホ)に換えまして、月額料・スケジュール管理・位置捕捉・SNS・スマホゲー・情報収集等々、いまの日本人がいかに自ら管理され、時間や対人関係を細切れにされて搾取されているかうかがい知ることに。本書でタガメ女が好むとされるNTTドコモ。iモードで先行したが、ガラケーに固執し、スマホ時代に優位を失い、NECなど電電傘下企業も犠牲に。タガメ女の呪縛と、カエル男が属する官僚制企業社会の呪縛は、連動して日本の社会と経済をスポイルしている様子だ。前著と同じく文章は一本調子ながら鋭い着眼点


銀行はこれからどうなるのか
泉田 良輔
クロスメディア・パブリッシング(インプレス)

泉田良輔/銀行はこれからどうなるのか/クロスメディア・パブリッシング・2017
日本経済がこんなにダメダメになったのは、銀行が政府の下部機関みたいに官僚的で旧態依然なせいが大きいのでは。著者は今後の銀行の姿として【1】モバイル型(決済機能の充実)【2】プライベートバンク型(富裕層の資産運用)【3】投資銀行型(将来性ある企業の育成)【4】クラウド型(財務部門の代行)を描くが、それでも日本の銀行は変わらないだろうとも述べる。私も、アホノミクスでむしろ官製経済の呪縛が強まり、お金のある高齢者が守りに入っている上、若者も保守的で目先の現実志向、どうにもならないと思います


働く女子の運命 ((文春新書))
濱口 桂一郎
文藝春秋

濱口桂一郎/働く女子の運命/文春新書・2015
著者のもう1冊読んだ『若者と労働』と重複する歴史語りが多い。骨子はマルクス主義の採る「労働価値説」により、日本の労組が生活給重視の賃上げ運動を展開し、夫が妻子を養う前提のライフステージに合せた年功序列が固定化、女性の社会進出を阻む壁となった。一例=銀行・商社などの「総合職と一般職」。とはいえ、いたずらに労組を敵視しても、おもに女性が担ってきた非正規雇用に男や高齢者も従事し、若い正社員には家父長制や長時間労働の重圧がかかる現状をもたらした新自由主義の風潮を助長するだけでは。これらを打開する気概やヴィジョンを示してほしい


それでも、日本人は「戦争」を選んだ (新潮文庫)
加藤 陽子
新潮社

加藤陽子/それでも、日本人は「戦争」を選んだ/新潮文庫・2016(原著2009)
終盤に登場の良識派軍人・水野廣徳「現代の戦争は必ず持久戦・経済戦となるが、日本は重要物資の8割を外国に依存し、しかも主要輸出品は外国の生活必需品ではない生糸。武力戦に勝てても持久戦・経済戦には絶対勝てない。戦争する資格がない」。本書は名門私立中の歴史好き生徒への講義形式。50男の私には複雑な歴史の流れ、たくさんの人名が覚えられない。一億人を抱える中央集権のわが国で、エリートは実力以上の権力を行使し、おごりたかぶったがゆえ敗戦と、近年の経済低迷を招いた。願わくば若者層が愚かなエリートになったり踊らされぬよう


子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から
ブレイディ みかこ
みすず書房

ブレイディみかこ/子どもたちの階級闘争―ブロークン・ブリテンの無料託児所から/みすず書房・2017
彼女が帰ってきた底辺託児所は、経済至上主義と移民の波に押し流されフードバンクに変ってしまった。いわくサッチャーの本当の罪は「経済の転換によって犠牲者になる人びとを敗者という名の無職者にし、金だけ与えて国畜として飼い続けたこと」。そして彼女はアナキーこそ尊厳であると。何者にも支配されない。深尾葉子さんの「タガメ女」の定義は、専業主婦の名のもと企業・男社会の「囲われ者」。この負い目が、夫や子どもも呪縛。いまや若者ほど(金持ち・大企業優先で男尊女卑の)自民党支持であるわが国の前途をおもう(◞‸◟ )

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