マガジンひとり

自分なりの記録

原子力発電所の高齢化

2010-04-08 22:35:02 | Bibliomania
国内に54基ある原子力発電所。このうち2基が今年、運転開始から40年になる。2年後には20基が30年を超える高齢化時代を迎え、安全対策が欠かせない。運転継続か廃炉かという選択も迫られ、中部電力浜岡原発では、5基ある原子炉のうち2基の廃炉を決めた。そこでもまた、安全に解体撤去できるのか、発生する少なくない廃棄物をどうするのか、といった問題を抱えることになる。そうした長期運転(高経年)原発の現状を、東京新聞の栃尾敏記者が取材してまとめた。(↑3月に営業運転開始40年を迎える日本原電敦賀原発1号機)

検診、手術…劣化と戦う─原発・高齢化時代【1】
日本海に突き出た福井県の敦賀半島に「不惑」の原発2基がある。営業運転開始が1970年3月14日の日本原子力発電敦賀1号機(沸騰水型軽水炉、出力35万7千キロワット)。いずれも引き続き運転を続ける方針だ。

─抗加齢─
40歳の誕生日に向け、1月から営業運転を続ける敦賀1号機。「40年たったから急に具合が悪くなることはない」と日本原電敦賀発電所の山下厚副所長は話す。
シュラウド(炉心隔壁)、制御棒、熱交換器、給水加熱器、低圧タービンローター、復水ポンプ…。原子炉周りやタービンなど主要設備・機器を取り換えてきた。アンチエイジング(抗加齢)の実践で体と健康を維持しているというわけだ。
運転開始から30年間、法律や大臣通達で報告が求められたトラブルは75件、以後の10年間は10件。どれだけ停止なしに運転したかを示す設備利用率も、10年ごとに63.0%、65.1%、69.4%、71.2%と上がっている─と説明。だから「高経年化とトラブル発生件数に相関関係はない」。
それでも、直近の定期検査では、ダクトの腐食や配管減肉など長期運転による異常が見つかり、検査期間は400日近い異例の長さになった。山下副所長は「点検で抜けるものがあったことは反省し、今後、よりよい点検計画を作る」と話す。



↑タービンでは、低圧タービンローターを取り換えた ↓原子炉建屋内の炉心スプレー系配管には耐震補強の支えが設けられた=いずれも日本原電敦賀原発1号機で。事故・トラブルのたびに取材で訪れて激しいやり取りもしたが、原発のパイオニアとしての誇りからか、1号機はきれいに整備されて古さを感じさせない。



─割れと耐震─
長期運転で問題なのが応力腐食割れ(SCC)。ステンレスなど原子炉に使う材料が▼溶接時の熱の影響▼炉内の水に含まれる酸素などの影響▼運転中にかかる力の影響─によって割れる現象で原発の泣きどころだ。
敦賀1号機では、シュラウドを取り換え、腐食しにくい材料にするなど対策をとった。関電もSCCに悩まされ、美浜1号機の蒸気発生器を改良型に換えた。約230億円かけた“移植手術”で「設備利用率は劇的に向上した」(関電)。原子炉容器上ぶたや高圧給水加熱器も交換した。
だが、材料や環境を改善した新しい原発でもSCCは発生しており「対策に終わりはない」(山下副所長)のが実情だ。
阪神大震災や新潟県中越沖地震を機に「地震と原発」への関心が高まり、対応に迫られている。敦賀1号機は、原子炉内の水を循環させる系統の配管やケーブルなどの支えを強化した。費用は「3けたの億」という。

─還暦─
原発の寿命は何年なのか。国は「60年運転は可能」とする。「重要な機器はほとんど取り換えた。60年でも80年でも運転できる」(関電)。だが、原発の心臓部、原子炉容器の劣化が大きな壁になる。
原子炉容器は、炉心からの中性子を長期間浴びて材質が固く、もろくなる。対策として、原子炉容器と同じ材質の試験片を入れておき、一定期間ごとに取り出し、破壊検査することで材料の質の変化を確認。超音波で溶接部分にひび割れがないかも検査している。
劣化していても「技術と時間とお金をかければ原子炉容器も取り換えられる」(関電)が、新設と同じくらい費用がかかる。経済性で、原子炉容器の寿命が原発の寿命を決めることになる。

運転30年、廃炉にも30年─原発・高齢化時代【2】
太平洋を望む浜岡原発の1、2号機は昨年1月で運転を終え、同11月から廃炉に向けた作業が始まった。
1号機の営業運転開始は1976年3月、2号機は78年11月。30余年の運転で、技術的には運転継続も可能だったが、中電は廃炉の道を選んだ。代わって新たに6号機を建設し、18年以降に運転を開始する計画だ。廃炉と新設がセットの「リプレース(置き換え)」は国内原発では初めてになる。



↑2号機の原子炉建屋で除染状況を監視する作業員(中部電力提供)

─やめる理由─
なぜ、運転をやめるのか。浜岡原発の梶川祐亮所長は「高経年化ではなく、経済性です」と説明する。
浜岡原発は、近い将来発生が想定される東海地震の震源域内にある。比較的運転年数が短く、出力も100万キロワットを超す3~5号機は数十億から百億円をかけて厳重に耐震補強した。
一方、古い1号機と2号機で同レベルの工事をすれば、10年以上の年月と計約3000億円を費やす。原発を1基新設するのと変わらない金額だ。出力がそれぞれ54万キロワット、84万キロワットの1、2号機に巨費を投じるより、140万キロワット級の最新型原発(6号機)を造った方がよいとの判断だ。それでも、廃止措置費用は2基合わせて約840億円になる。

─手順─
廃止措置の主なプロセスは「洗う」(系統除染)「(放射能レベルが下がるまで)待つ」(安全貯蔵)「解体する」(解体撤去)。
具体的な手順は、事業者が状況に応じて決める。中電は4段階に分け、約30年かけて実施する。今は第1段階の「解体工事準備期間」。燃料の運び出し、放射能を帯びた原子炉圧力容器などの除染、変圧器など放射線管理区域外の設備・機器の解体撤去が主だ。
除染作業では、被ばく防止が重要になる。梶川所長は「従来の定期検査で配管内の放射性物質の除去作業は経験済み。十分安全に対応できる」と説明。「未知の分野」ではないことを強調する。
廃止措置に必要な技術には、放射性核種の量と分布の評価、除染、解体、遠隔操作、廃棄物処理・管理─などがある。いずれもデータはほぼ出そろっているという。
重要なのは、これら要素技術の選択と組み合わせ(最適化)。そのためには準備・計画が欠かせない。例えば、「ヤマ場」となる第3段階の炉心部解体では、放射能レベルが高い領域での作業。いかに効率的に進めるかが課題になる。設備・機器の切断も、水中と気中、熱的と機械的─があり、各原子炉の個性に合わせ、オーダーメードすることになる。
「世界では米国、ドイツ、フランスなど解体完了の原発が13基あり、技術的には確立されている」(梶川所長)。解体作業中のドイツ・ビルガッセン原発に技術職員を派遣するなど先進事例も参考にしているという。

─ごみ処分─
住民の関心が高いのは放射性廃棄物。2基合わせて約48万㌧の発生を見込む。
だが、このうち法令に基づいて埋設処分しなくてはいけないのは、シュラウド、炉心支持板、原子炉圧力容器など約1.7万㌧(約3%)。残りの約97%はコンクリートやポンプ、モーター、バルブなどで、国のチェックを受けた後、リサイクルしたり産業廃棄物として処分する。
梶川所長は「埋設処分の具体的方法や場所は、(2015年度からの)第2段階に入るまでに決める」と説明。リサイクルでは「タービンローターなどはいい材質なので、再生すればまた原発で使えます」と話す。



↑1号機の原子炉格納容器窒素供給装置は、液体窒素貯蔵タンクが撤去され、土台のコンクリートだけが残る ↓1、2号機の中央制御室では、操作スイッチの多くに休止シールが張られている=いずれも中部電力浜岡原発で。「長男、次男がいなくなる。寂しいですよ、やっぱり」と廃炉への思いを話す梶川所長だが、2基同時に廃止措置をする国内初の大事業で、先進事例にしなければという意欲ものぞかせた。 ─(栃尾敏・東京新聞2月23日、3月2日)


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