うなぎの与三郎商店

目立たぬように、はしゃがぬように、似合わぬことは無理をせず、教育・古典など。タイトルは落語「うなぎ屋」より(文中敬称略)

藤原固形物(ふじわらのかたまり)

2015-12-18 23:00:09 | 随想 社会・文化私論
【藤原固形物(ふじわらのかたまり)】

《夫婦同姓規定合憲判決を機に苗字のスーパー寿限無化を画策する》

 民法の夫婦同姓規定が合憲であるとの最高裁判決が出た〔注1〕。家系の正統性、家族の絆、自らのアイデンティティをそれぞれ守り、ついでにお他人様にもお幸せをお裾分けしたいお節介にはうってつけのお判決である。

 亡くなった父方の祖父が生前、「○○〔私たちの姓〕家の先祖は藤原鎌足だ」と言うのを聞いたことがある〔注2〕。ならば道長も頼通も彰子も私たちの親戚か、などとピュアな歴史少年であった当時の私は素直に興奮した。

 それまで、明治生まれの曽祖父・曽祖母夫婦が裸一貫から築き上げた財(田畑・山林)を婿養子の祖父が受け継ぎ、私の父、おじ・おばを育てた話に、それなりに心動かされていた。たとえそれが教員になった私の父(長男)にとって、必ずしも実用的な財でなく、まして故郷を遠く離れて予備校講師をしている私にとって、今となっては「何だか古ぼけた昔」〔注3〕の話でしかないにしても、そこには朝は朝星、夜は夜星〔注4〕を地でいく人々の一目(いちもく)置くべき謹厳実直で地道な暮らしがあった。

 しかし、我が○○家が名字帯刀の許された家系であるとは、その瞬間まで聞いたことがなかった。今でもそうである。まして、さるやんごとなきお方とご同系とは。

 祖父はどんな思惑があって「鎌足」を出してきたのだろう。いつの頃からか祖父は、知的・文化的な権威に対する多少不可解な執着を示すようになった。テレビニュースに登場する総理大臣や閣僚の学歴、あるいは御近所の知り合いの孫の大学や職業のことなど、何かと学歴・学校歴、職業にこだわり、価値を置くようになった〔注5〕。文化的・社会的権威への執着と「鎌足」は通じていたのか。

 もうタイトルも内容もうろ覚えの子ども向けの物語に、名字(苗字)を決める村人の話があった。御一新の世になり、晴れて名字(苗字)を許された人々が何をどう決めていいのかわからず、思案の末、村長さんに一括してお願いするとかいう話である。

 初めは、田んぼの中に住んでいるから田中さん、家の前が田んぼだから前田さん、庭に大きな木があるから大木さん、ついでに木下さん、それが柿の木なら柿木さんなどと順調に進むが、そのうち行き詰まりと面倒さゆえに、ここいらはまとめて鈴木さん、そっちもまとめて佐藤さんなどとやりはじめ、最後はテキトーに「だいこんさん」「ゆでだこさん」ときた。それからはじまるだいこん家、ゆでだこ家の苦難の歴史。……うろ覚えをいいことに、私もテキトーなストーリーを書き連ねてしまった。

 平成の大合併もひと区切りついた今日この頃、斬新で大胆不敵な新地名に絶句することにはもう慣れた。また、生まれた子どもにつけるキラキラネームへの揶揄も食傷気味である。それに何より、私が、そして息子が、キラキラリストの末席に名を連ねている。他人のことを言えた義理ではない。そんなことより、もはや在庫品の使い回し、先細り、デッドストックでしかない名字(苗字)に夫婦同姓などとケチなことを言わず、平成の大合併やキラキラネームを見習い、名字(苗字)も合併・創設してしまえ。例えば鈴木セントレア東佐藤中央瑠綺亜ガス有電水道可駅歩三分でどうだ。寿限無を越えたスーパー寿限無(by三遊亭白鳥)である。

 こんな思いつきは既にあちこちで披露されていることだろう。それより、裁判であるからには原告がいたはずで、その方(かた)が何を考え、何を訴えていたのか、すっかり素通りしていた。もう一度記事を読み直さなければ。それから、すっかり忘れていたことに、妻は結婚してからも出産のために仕事を辞めるまで、仕事の上では旧姓で通していた。そのことについて、当時の私たちはそれほど深く話し合っていたわけではない。

 家系と姓の神様こと藤原固形物(ふじわらのかたまり)は、穏やかな顔をして時に牙を剥く。現状追認の最高裁判決はあくまで最高裁判決である。ところが、その判決が固形物(かたまり)の存在を浮き彫りにし、ゲリー(自称「首相」)を刺激しないとも限らない。ゲリーは興奮しやすい生き物である。興奮したゲリーが美しい日本をとりもろす(ママ)ために何をしでかすか、わかったものではない。側にはピタリとミッキースダレ〔注6〕がついている。

 何のことやらよく分からないが、とにかく、ひとつの判決からウィルスを培養し、想像を絶するモンスターを作り上げるのは行政機関の伝統芸である。ゲリーとミッキースダレのコンビが奇妙な雄叫びを上げぬよう〔注7〕、また夫婦同姓規定は合憲だから辺野古移設は唯一の解決策、法治国家として適正な手続きに則っているなどとほざかぬよう、警戒を怠るまい。


1.「夫婦同姓規定、合憲 最高裁「社会に定着」 女性再婚禁止、100日超は違憲」朝日新聞2015-12-17朝刊。
2.「原材料はモンゴロイド~ノーベル物理学賞受賞者は誰のものか~」2014-10-08の1参照。
3.「何だか古ぼけた昔~三四郎のふるさと」2014-10-23参照。
4.「職業人の足もと」2014-02-15の1参照。
5.このことは「本物の老人は昭和生まれなんかじゃない、もしくはパラレルワールドについて」2012-04-05に書いた。
6.「「沖縄・宜野湾にディズニー誘致を」政府が協力を約束」朝日新聞デジタル2015-12-08 21:37。スダレ=官房長官。念のため。
7.しばしば目撃する「雄叫び」については、例えば「にゃんまげスイッチ」2014-12-16参照。
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