自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

肉牛生産の原点を若い人に伝えたい。

2017-12-12 14:33:54 | 自然と人為

 平成29年(2017年)10月21日、第31回畜産システム研究会が広島県福山市松永で開催された。今回は当日のビデオ録画を紹介して、テーマ「自然と地域につながる肉牛生産」を考えることで、規模拡大によるコストダウンの狭い道の時代から、もっと我が国の肉牛生産の可能性を大きくする時代への転換を若い人に伝えたいと思い、これまでのブログをまとめたものである。

 この研究会には市民の参加をいただき、テーマの趣旨を説明するために3本の映画を上映した。
 森の哲学者 メイナク族 (37分)
   参考:ブログ「『すべてが一つの世界』 映画監督 森谷博」
 牛が拓いた斉藤晶牧場 (19分)
   参考:ブログ「牛が拓いた斉藤晶牧場」
 「アインシュタインからビッグヒストリーへ」(2) (33分)
   参考:ブログ「10分で語る『我々は何処から来たのか? 何処へ行くのか?』」
 また研究会開催の翌日に、ブログ「『自然と地域につながる肉牛生産』について論じる」で、研究会の概要は紹介している。

 経営はそれぞれの時点における利益最大化を求めるので、規模拡大や先端技術を導入するのは常識となっている。濃厚飼料多給による肉牛肥育を当然だと思っている人も多い。しかし、その常識が我が国の肉牛生産の道を狭くしている。

 受精卵移植技術や乳牛と和牛のF1を借り腹とした受精卵移植による双子生産という突出した技術がある。しかし、それは和牛改良を担当する経営の先端の事例であり、将来の肉牛繁殖の方向が受精卵によって行われることとは違う。部分に特化した技術は日本の工業の特徴でもあるが、農業は自然を相手にした生産である。肉牛生産も牛と人との関係、資源と経営との関係で選択の道は多様であるので、部分の技術が全体の方向性を示すかのような肉牛生産の考え方は将来につながらない。この肉牛生産の「現在と未来」を「特殊と普遍」として、ブログ「里山管理が日本の肉牛生産の原点になる~特殊と普遍」を約1ヵ月後に報告している。

 今回の研究会では、安部氏と岡村氏に「現場の肉牛の放牧」について報告していただき、柴田氏には「粗飼料の利用」、瀬野氏には総合的な問題として「これからの肉牛生産」を報告していただいた。
 現場への思いはあるが私は歩行困難で現場に行けなくなったので、この研究会の地元開催を機に瀬野氏に次期の畜産システム研究所所長をお願いしたいと思っている。当日の報告は畜産システム研究会会報に掲載され現在は編集中だと思うが、総合討論のビデオ記録が面白いので、「肉牛生産の原点は繁殖雌牛の放牧による土地管理」に拘りすぎて司会をしている私の恥ずかしい姿をさらすのは躊躇したが、文章にしただけではもったいない多くの発言を頂いたので、私の説明不足を補う意味でもここに記録として残しておきたい。

 なお、ビデオ撮影は固定しているので、当日の発表者および総合討論発言者の写真を紹介させていただく。
 写真をクリックすると拡大
 会場からの発言で「19歳?の美味しい経産牛の肉、骨が脆くなって肉を剥がしにくくなった経産牛の解体熟練の必要性、霜降り肉に替わる牛肉の物語性等」について理路整然と説明していただいた楠本貞愛氏 (株)きたやま南山(2)と、北海道白老の上村正勝氏「和牛改良のためのF1雌牛を利用した受精卵移植による双子生産」の話はいずれも貴重な情報であり特に感謝したい。なお、上村氏には和牛改良と一般の肉牛繁殖を分けて説明しなかったことを反省している。

図をクリックすると拡大します
 上映 広岡会長挨拶の一部
 本日のテーマ(上映説明の一部 三谷)
 総合討論『自然と地域につながる肉牛生産』 (最初の部分が欠けている。)

 私の司会について発言者の全ての方にコメントの追加はできないが、F1雌牛の放牧繁殖を日本でただ一つ実践されている岡村牧場の子牛の哺乳の話は面白かった。一つには私の試験はF1雌牛の分娩後も子牛を育てさせることが目的であり、岡村牧場のように母牛から離して人工哺乳をする方法ではない。しかも舎飼い繁殖であり放牧繁殖の経験はなかった。一般に酪農は牛乳が商品なので、分娩したら親子関係が出来る前に分離してしまう。岡村牧場は酪農家から子牛を買ってくるので、全てが人工哺乳である。だからF1雌牛の分娩後の親子関係が出来ているときに分離して哺乳しなければならない。牛の親子関係から牛と人との親子関係に移行する問題がある。しかも放牧集団から親子を分離して舎飼いに移すストレスを親子に与える。スムースに移行するためには、子牛が人を親のように慕わせる心遣いがいる。私の場合は牛の親子関係を切る時は哺乳の必要はなくなっている。だけど牛の親子関係を切るので、子牛を捕まえるのが格闘になる。岡村牧場は世界で唯一の家畜心理学の実験場でもあると言えるが、現場の技術というものは状況によって違うことを岡村さんから分かりやすく説明していただいた。

 このように現場の技術は状況により異なるので、一つの技術から全てを説明しようとする研究者は注意が必要である。肉牛生産の原点は自然の土地管理にあり、アメリカでは砂漠化防止のためにカーボーイによる繁殖牛の放牧移動がある。日本では放置しておけば人が山に入れなくなる里山を繁殖牛で放牧管理する。世界の肉牛生産の基本は繁殖牛による土地の放牧管理であり、雄子牛はその副産物である。日本の濃厚飼料多給による肥育が異常な肉牛生産であることから考え直さなければなるまい。

 日本の肉牛生産にはやるべきことが一杯残っている宝の山だ。この研究会では瀬野さんの講演で指摘された今後の日本の肉資源としては乳牛に和牛を交配したF1雌牛しかないことで、F1雌牛の繁殖利用の話題になったが、東北に放牧適性に優れた日本短角種がいる。これに和牛を交配して18ヵ月齢で仕上げている牧場もあるそうだ。若い人にはこれまでの肉牛生産の技術蓄積を活かしながら、夢のある新しい肉牛生産のシステムを開拓していただきたい。
 参考:ブログ自然の力とチームの力~地域を豊かにし次の世代に伝える

初稿 2017.12.12 更新 2017.12.13
  

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