自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

意識と現場感覚~現場の研究が先端になる時代

2017-01-23 23:18:49 | 自然と人為

 シンポジウム「これからの日本、これからの福井~豊かな森と動植物から考える~」が福井県のNPO「ブータンミュージアム」4周年記念事業として開催された。その中で進士五十八氏(016~31:13)は「環境福祉時代の福井は如何に!」で、多様性が自然、社会、経済、文化の持続性を守ると語られ、養老孟司氏(31:20~55:40)は、「日本社会、このままで大丈夫?」で、「同じにする」ことが進歩をもたらしたが問題も孕んでいると、違いを見つける昆虫少年らしい軽妙な講演をされている。
 「多様性」は「同じにする」ことの逆(「多様性」=「同じではない」)であり、物事は見る視点で異なって見えたりするので、ホリスティックに見て考えることが大切だとも言えよう。また、人間は自然の一員であり、自然なくして生きられないだけでなく、人間だけの生活よりも花鳥風月の自然を含んだ生活の方が安らぎを与えてくれる。このシンポジウムは「これからの日本、これからの私の町」を考える示唆に富んでいる。

1.環境福祉時代(進士五十八氏)からのメモ
 人間の幸福=福祉:Welfare,Well-being
 保護と開発を調和させる
 細分化すると本質が見えなくなる
 里山の外側(外山)は放牧地
 緑:green-> ghra(ガーラ)-> 成長の意

 多様性が地球の持続可能性を支える
  1.地球自然(自然的環境)の持続性 -> Bio diversity
  2.地球社会(社会的環境)の持続性 -> Lifestyle diversity
  3.グローバル経済(経済的環境)の安定と持続性 -> Economy diversity
  4.地球風景(文化的環境)の持続性 -> Landscape diversity

2.「日本社会、このままで大丈夫?」(養老孟司氏)からのメモ
 講演の冒頭で、英国のEU離脱(Brexit)や米国の大統領選の話題に触れ、メディアの予測が誤った、と言うよりもメディアは逆のことを言ったのに、投票の結果が逆になった。両者にはグローバル化の国という共通点がある。英国は大英帝国時代から米国も皆さんが知っているように「情報」でグローバル化の先頭を歩んで来た。そのグローバル化を進歩だとメディアは言ってきたが、それが逆に動いた。私は、これは当然だろうと思っている。そうなる違いないので、先ほどの進士先生の話は多くの人、世界中の人の本音に近い。「暮らしていて、このまま行って良いのだろうか?」という不安がある。皆の中に、いわゆる進歩、グローバル化に対する疑いがある。農家は「自家用に作っている農作物は安全だ。」と思っているが、売らないものは統計に載らないので国としては大切に扱わないし、メディアも重要には取り上げない。現実と報道のギャップはそれに近い。トランプが当選した後、ヒラリーを応援したニューヨークタイムズが言い訳をした。どんな言い訳をしたのかという問題よりも、それは日本の報道でも経験した。戦時中は1億総玉砕と言い、戦後は1億総懺悔と言い訳したのと同じだ(、と私は思う)。

 メディアはどうして間違えるかというと、「同じにする」から。同じになって行くことが進歩だと思っている。「同じにする」ということの意味は、一般には考えないが奥が深い。同じだと考えられるのは人だけだ、と動物の唯脳論に入っていかれる。
 チンパンジーはカメラアイと言って見たものをそのまま覚える。人間でもそれえができる人はたまにいるがいるが、他のことは大抵何もできない。同じにすることは、人間しかできないが、そのことに自分でお気づきですか。
 同じだという時代を逆手にとって「違いが分かる男」とコマーシャル、「世界にたった一つの花」という歌。人も花も、それぞれはたった一つなのに、世界は同じ花や人ばかりだと思っている。ここにおられる人はみな違うけど、人として同じにしている。これは動物は絶対できない。「同じだ」とする典型がメディア。それがメディアの体質だ。
円安、輸出企業(日本のGDPの13%)が良くなる。87%には関係ない。
株高、株の60%は外国人が持っている。つまり日本人には関係ない。
多くの日本人には関係ないのに、メディアは「円高」を大変とし「株高」を喜ぶ報道をする。

 同じというのは意識、違いは感覚。「同じ」という能力を持ったことで言葉を持った。3+3=6の=は動物には分からない。A=Bが分からない人もたまにはいる。A=Bは交換の法則。これは動物には分からない。お金は等価交換の道具、等価も交換も=があり、動物には分かるわけがない。だから猫に小判。黒で白と書いても白、赤で青と書いても青。感覚の1人称(心理学の1人称)を無視するように教育を受けている。感覚を無視するのが大人で、 感覚に近づくほど子供。
 同じときに生まれたチンパンジーと人を一緒に育てた実験がある。3歳まではチンパンジーが能力は上、4歳から違いが出てくる。3歳は自分の認知がすべて、5歳は他者の立場で考えることができる。他者の立場で考えることができることで、民主主義の根本、平等が理解できる。人間は「同じ」と意識に依存して進歩してきたが、その欠点を誰も指摘してくれない。人間は意識を尊重してきたが、感覚の問題に気が付いても良いのではないか。
 参考: 日本語は環境で変わる一人称

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 私は意識と感覚の問題を意識と現場感覚として捉えたい。現場感覚を無視した研究を基礎研究とし、応用研究の基本とする傾向がある。試験研究機関が研究をして成果を一般に普及するという考え方もある。それは違う。意識も感覚も閉鎖的な、ある場合は人工的な世界に閉じ込めることなく、それぞれが仕事をし生活をしている現場感覚を重視した研究でありたい。そのような現場のビッグデータが研究をリードする時代は始まっている。1秒間に1京(1万兆回)の計算ができるスーパーコンピュータ「京」は2011年に日本で開発され世界一のスピードを誇っているが、それでも巡回セールスマン問題のように、30都市の経路の最短経路を見つける最適化問題は10の30乗の組み合わせがあり、「京」でも1000万年以上かかるとされている。このような最適化問題を短時間で計算できる量子コンピュータの実用化が進んでおり、20~30年後にはコンピュータにより社会の仕事は様変わりするのではないかと予想されている。
 一方、トマ・ピケティ「21世紀の資本」のように、1800年から20ヵ国の税金等の公的資料により、格差問題を実証的に解明している仕事もある。これからは公的資料を含めて現場のビッグデータを分析することが時代の先端の研究となろう。

 安倍政権は1億総〇〇と平気で言うが終戦前後を知っている者にとってはゾッとする言葉だ。それにも拘らずマスメディアは性懲りもなく、無批判にそのまま報道している。アベノミクストリクルダウンTPP特定秘密保護法、共謀罪・盗聴法・マイナンバー安保法制憲法改正は多様な暮らしをしている国民を守るためではなく、一部の者の国民支配の政治だということをマスメディアは批判しない。ことにアベノミクスやトリクルダウンの政策の妥当性についてトマ・ピケティに判断を求めている日本記者クラブのNHK記者の質問は、今ではエリートとなったジャーナリストの恥ずかしい姿を露見させている。マスメディアは国民のためにあることを間違えているというより、いつも本音では国民の支配者の側にいたいのだろう。

 なお、次の解説を追加しておきたい。英国のEU離脱も、米次期大統領にトランプ氏が当選することも、予想を的中させたという菊池氏は、「両方が意味するのは反新自由主義。『新自由主義というのは国民を幸せにしない。政府のエリートたち、わかっているのか?』ということを国民投票で証明した」と解説した。

 参考: 創薬技術と医薬品の進歩 | バイオ医療コース | みんなのバイオ学園
      スーパーコンピュータが解き明かす生命の不思議(動画)
      超高速 夢の量子Computer(動画)
      量子コンピュータ授業 #8 量子コンピュータの歴史

  
 日本記者クラブ 著者と語る トマ・ピケティ「21世紀の資本」
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初稿 2017.1.23 更新 2017.1.27

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