フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 10~12月期のテレビドラマも中盤を過ぎました。毎クール恒例にしていた私のテレビドラマ批評ですが、7~9月期は私が忙しかったのと、テレビ・新聞・雑誌などの取材でコメントの掲載することが多かったので(→ 「各新聞・雑誌の取材に協力」  「サンデーモーニングにビデオ出演」 など)、このブログは休ませていただきました。いつものようにコメントを長く書こうとすると時間がとれないので、今後は一言コメンだけでもで何とか掲載しようと思います。

 いつも通り、ドラマ名の後にここまでの視聴率を示しておきます。
          
『海の上の診療所』 (フジ、月9)  15.6%→12.4%→11.4%→10.6%→12.1%
 月9だし、設定から言ってもっとロマンチック路線かと思いきや、かなりのコメディ狙いのドラマでした。しかし脚本のせいなのか、今ひとつ笑えません。松田翔太も武井咲もいい俳優さんですが、演技だけで笑わせるのはちょっと難しいように思います。どうせなら思い切りはじけた月9が見たかったと思います。
          
『ミスパイロット』 (フジ、火9)  15.0%→12.4%→10.3%→12.7%→11.0%

 よくある「専門職業もの」ドラマで
すが、女性パイロット訓練生という設定が斬新です。堀北真希は『梅ちゃん先生』同様、当たり役の「へたれキャラ」がとてもよく似合っています。ただ、『梅ちゃん先生』は女性医師になるという夢を見つけるのに時間がかかっただけ、本人もその夢に向かって努力を続けていたので応援したくなりました。こちらは手当たり次第蹴活したらたまたまパイロット訓練生に受かっちゃった…というのがどうも安易に見えてしまいますし、そんなに出来のよくない訓練生なのに妙にお気楽な主人公が、私はどうも好きになれません。
          
『陰陽屋へようこそ』  (フジ、火10)  11.5%→9.4%→9.3%→9.0%→8.4%→7.8%

 天野頌子の小説のテレビドラマ化。驚きはありませんが、毎回そこそこ楽しめる安定感のあるドラマです。しかし、ネット上では錦戸亮の滑舌の悪さが強調されています。う~ん、役によっては気にならないのですが、陰陽屋という設定上、ありがたい感じで占いの言葉をすらすらと喋らないといけないので、そのせいで滑舌の悪さが気になるのかもしれません。
          
『ダンダリン』 (日テレ、水10)  11.3%→7.8%→7.4%→7.2%→5.2%→7.6%→7.2%

 竹内結子が、融通のきかない一生懸命な労働基準監督官を演じる「職業もの」ドラマ。毎回、主人公が、労働者に不当な扱いをする企業を摘発して、その扱いを是正していきます。とはいえ、視聴率は低下傾向。主人公はもっととぼけた味のあるコメディエンヌがふさわしく、竹内結子という女優さんの凛々しい魅力が、この役では活かされていないのではないでしょうか。
          
『リーガルハイ』 (フジ、水10)  21.2%→16.8%→18.5%→18.3%→17.7%

 堺雅人主演『半沢直樹』の高視聴率の勢いをかって、こちらも高視聴率をとっているという論調が多いようです。しかし、私も以前に書いているように、『リーガルハイ』は第一シリーズから面白かった!→ 「面白いぞ!『リーガルハイ』」
 あいかわらず堺雅人の怪演は見ものです。そのわりに第一シリーズの視聴率はそれほどでもありませんでしたが、ようやくその面白さにみんなが気づいてきたということでしょう。
 第一シリーズの敵役は生瀬勝久だったのに対して、今回は岡田将生。通常は以前よりもっと悪役らしい人をもってくるのに、今回は敵役の方が正義感のある2枚目という工夫も面白いです。それによって、主役の古美門(堺雅人)の奇人ぶりがこれまで以上に強調されています。新米弁護士・黛真知子(新垣結衣)の天燃ボケぶりもおおいに笑えます。

          

『Doctor-X』 (テレビ朝日、木9)  22.8%→23.1%→18.4%→21.3%→23.7%

 今期クールの最高視聴率作品です。前期に記録的高視聴率をとった『半沢直樹』のように、「見ていて痛快」「スカッとする」といった感想を呼び寄せるドラマと言えるでしょう。それに、一匹狼のフリーランス医師である主人公の対極にある大学病院の権威と階級の滑稽さが、これ以上ないくらい誇張されて描かれています。それはもうドラマというよりもコントと言っていいくらい。見る人の中に漠然とある権威への不信感や反感を集約し、笑いに転化することにも成功しています。


『夫のカノジョ』 (TBS、木9
)  4.7%→4.8%→3.7%→3.1%

 こちらは記録的低視聴率に苦しんでいます。「夫の会社の若い女性社員と体が入れ替わってしまった妻」という設定自体は悪くないと思うのですが、「体が入れ替わる」という話はもう30年以上も前の映画『転校生』(1982年公開。原作は山中恒『おれがあいつであいつがおれで』)など、もう長年使い古された趣向です。キャスティングの驚きもありませんし、視聴者の興味がわかなかったのではないでしょうか。
     
『独身貴族』 (フジ、木10)  12.6%→11.3%→11.6%→10.6%→12.7%→10.1%

 タイトルから言って、『結婚できない男』のようなコメディを想像していましたが、かなりのロマンティック路線作品でした。草剛のこだわり独身男はなかなかよく演じられていると思いますが、全体のロマンティック路線が強すぎて、一部の視聴者にはやや気恥ずかしい感じられるのではないでしょうか。個人的には毎週わりに楽しみに見ていますが、幅広い視聴者に対応するタイプの作品とは言えないでしょう。

『ハクバノ王子サマ』 (日本テレビ、木深夜)  5.6%→3.4%→3.2%→3.4%→2.6%→4.0%→3.6%

 32歳の独身女性・原多香子が主人公。過去の不倫相手への気持ちや、新しくあらわれた年下男性へのときめきなど、かなり感情の動きを丁寧に描いた作品だと思います。ただ、ある意味では、「32歳になってまだこんなにぐずぐず迷っているのか」と見られてもしかたない主人公なので、主人公のような女性や主演の優香が好きな人でないと、あまり共感できないように思います。
          
『クロコーチ』 (TBS、金10)  12.0%→11.2%→9.2%→9.1%→7.2%→8.8%

 意欲作です。少なくとも、これまでたくさんある一話完結の謎解きもの、犯罪解決ものとはかなり違います。主人公の黒河内(長瀬智也)のダーティーヒーローぶりと、全体を貫く45年前の三億円事件への推理に大きな特徴があります。ただし、『半沢直樹』や『DoctorX』のようなわかりやすさの対極にある作品ですから、一部の視聴者には強く支持されるものの、視聴率としては上がらないでしょう。マニア向けの作品です。

          

『東京バンドワゴン』
(日テレ、土9)  8.8%→8.2%→7.8%→6.3%→6.2%→6.8%

 「あの頃、たくさんの涙と笑いをお茶の間に届けてくれたテレビドラマへ」というキャッチコピーからわかるように、「なつかしさ」を前面に出した作品です。「下町」「古本屋」「大家族」といったほのぼのとした味を出すように作られた作品です。しかし、ほのぼのとした分、目新しさはありません。いくらなつかしさを感じさせる作品といっても、「なつかしさ」が「既視感」になっては視聴者がついてきてくれないかもしれません。
          
『安堂ロイド』
(TBS、日9)  19.2%→15.2%→13.2%→10.3%→11.5%→11.4%

 これは今期一番の話題作品と言っていいかもしれません。木村拓哉主演でありながら、まるでアニメのようなSF仕立ての作品。キムタクが、現代の天才物理学者と未来からやってきたアンドロイドの二役を演じます。とはいっても、物理学者の方は初回に死んでしまうので、その後はずっとアンドロイドだけが出続けます。正直言いまして、初回はその非日常の世界に私はついていけませんでした。豪華俳優陣が大真面目にアニメ作品の世界を演じているようで、なじめなかったというのが私の感想です。ただし、アンドロイドが感情を持ち始めてしまう、中盤以降になって、私はようやく面白くなってきました。我慢して見続けてきたおかげか、キムタクのアンドロイドがなんだかやけにカッコよく見えてきました。SF世界になじんできたのかもしれません。しかし、ここまで多くの視聴者が我慢してくれたかどうか……。

『天国の恋』 (フジ、毎日13時半)

 夜の放送枠ではありませんが、昼ドラ『天国の恋』も見逃せません。横暴な夫と別れたばかりの41歳の女性が、若い男性二人と恋をするというストーリー。まさに昼ドラのドロドロ路線の王道を行く作品で、ここまで昼ドラに徹していたら、かえって気持ちがいいくらいです。

          
今クール(3か月)期間のドラマではありませんが、NHK朝ドラについても書いておきましょう。

『ごちそうさん』 (NHK、毎朝8時) 
 前期の『あまちゃん』があまりに好評だっただけに、比べられるのはつらいかもしれません。世の中には、『あまちゃん』の放送が終了して喪失感におそわれている「あまロス」の人がおおぜいいるそうですから。はじめ『ごちそうさん』を見ていて、『あまちゃん』のテンポの良さに比べてじれったい気もしました。しかし、『あまちゃん』とは違う、あたたかくてやさしい世界が描かれていて、私はすぐ『ごちそうさん』が好きになりました。
 ですが…。主人公が大阪に嫁いで、夫の家族にいじめられるようになってからはいけません。私は大阪編になってからは嫌いです。これから「いじめる」側にもさまざまなつらい内面があることが描かれていくと思いますが、それがわかっているとしても、毎朝か毎晩か、毎日「いじめ」の話を見たいとは思いません。視聴率が好調であっても、私は「いじめ」話が終わるまで見るのを休もうと思います。

⇒(11月20日追記)上記のように書いたのですが、「いじめ」の話はそう長くはありませんでした。やはりまた見るのを再開しています。

『ガラスの家』  (NHK、火10)

 既に放送は終了していますが、この作品にも一言。NHKでアラサーまたはアラフォー女性と年下男性の恋愛ドラマと言えば、近年話題になった『セカンドバージン』が思い浮かびます。『ガラスの家』は『セカンドバージン』と同じNHKと大石静脚本との組み合わせ。今回は、年の離れた再婚相手の息子と恋愛関係になってしまう30代女性を主人公にしています。
 いくつかの描写はさすがにちょっと「えげつない」かな
と思いつつも、大石脚本特有の、心の裏側までえぐるような脚本に目が離せなくなります。父親の再婚相手と知っていながら、父親への反発と義母への恋愛感情にとらわれていくエリート官僚青年の心理。そして、それに戸惑いつつも義理の息子である青年にひかれていく女性の心理。さらにはその他の脇役まで、鋭く描かれています。
 近年のこの枠には『いつか陽のあたる場所で』『激流~私を憶えていますか?~』といった良作もありましたし、以前にBSで放送されていた『真夜中のパン屋さん』も『ガラスの家』の次に放送されます。朝ドラと大河以外もNHKドラマが頑張っていることを示すもので、民放とは違うテレビドラマをこれからも作っていってほしいと願っています。



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テレビドラマについて (キヌガワ)
2014-01-07 12:57:25
彼女はそのことを申しましたのか、なぜ宇佐美先生はテレビドラマに執心するのか、という疑問を抱いてクリスマスイブ(別にそれに意味はありませんが)に、某後輩に結果的に尋ねさせたのは私です。冗談半分に「訊いてきて」と言ったのですが、疑問を抱いていたのは本当です。
ずいぶん丁寧に答えてくださったようでありがとうございました。時間が長くて緊密に構成されていないところ、人物関係が細かいところ、という理由が興味深かったです。また、見ているその時間が好き、というのは何かを好きになる初心を思い出させてくれました。

私は映画は好きなんですけれども、テレビドラマはまったくみないので、テレビが置いてあるから何となく見る、ならともかく、それ以上に見ようとするその心理には関心があったのです。
最近思うのは、これはテレビドラマだけじゃなくテレビ全般にいえることですが、話題の共有、というものならテレビが圧倒的ですね。私の場合、見ない以前にテレビを持っていないので、それを感じます。つまり、趣味などが合っている人以外で何かを共有している場合、それはテレビから発するものがほとんど(ネット全盛といわれる現代でも)、ということで、私は人と全然話せませんね、それは昔からですが。
その中でテレビドラマというものは、今現在でも大衆が共有する物語というかドラマなのだな、と思います。
流行語大賞の候補もそれからのものでしたし(私はニュースになってからそれを初めて聞くことがほとんどなのですけれども)。
ありがとうございました。
 
 
 
キヌガワさん、ありがとう (宇佐美)
2014-01-12 23:24:04
キヌガワさん、コメントどうもありがとう。
私はテレビドラマを趣味で見続けてきたので、趣味で終わらせるのももったいないという気持ちがありました。
私も映画が嫌いなわけではありませんが、映画評論家・研究者はたくさんいるので、私がしなくてもいいかと思っています。
 
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