フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



(写真は劇場前で『ヘアー』開演を待つ人たち)

 先日のニューヨーク・ワシントン滞在の報告最終回です。前に報告した 『ビリー・エリオット』 (→ 「ブロードウェイで『ビリー・エリオット』を見る」 とともに、もう一作品ミュージカルを見てきました。それが 『ヘアー』 です。
 しかし、『ビリー・エリオット』と『ヘアー」は作品としての性格がまったく異なります。『ビリー・エリオット』が2000年のイギリス映画をもとに舞台化した現代の作品であるのに対して、『ヘアー』は1967年初演(最初はオフブロードウェイでの上演)の古いミュージカルをリバイバルさせた作品です。
 1967年がアメリカにとってどのような年か、今の若い皆さんにはよくわからないと思いますが、このミュージカルの背景はベトナム戦争です。『ヘアー』が最初に上演された67年は約15年間続いたベトナム戦争の中間頃であり、当初は予想もしなかった苦戦にアメリカが陥っていた時期でした。小学生だった私でも、ベトナム戦争がアメリカだけでなく世界にもたらしていた重苦しい閉塞感を、なんとなく記憶しています。
 そんな中で開演したこの『ヘアー』というミュージカルは、軍隊に入隊することになったクロードという青年が主人公。クロードは入隊の前にニューヨークのヒッピーたち(規制の価値観や道徳にとらわれない生き方をしようとした人たち)と時間を過ごす、という基本のストーリーです。ちなみに、タイトルの「ヘアー」は、当時は珍しかったヒッピーたちの長髪からつけられたようです。また、全編に「ベトナム戦争」「フリーセックス」「麻薬」といった、当時のキーワードがちりばめられている作品としても有名でした。
 その作品がリバイバルしているということで、これはぜひ見てみたいと思って、今回ニューヨーク・ブロードウェイのアルハーシュフェルド劇場で見てきました。
          
 ただし、今回見た『ヘアー』は、私の今まで持っていたイメージとはかなり違っていました。私はどちらかというと、「反戦」「反既成道徳」を前面に打ち出した作品というイメージを持っていました。アフガニスタン戦争やイラク戦争を体験したアメリカが、ベトナム戦争を背景としたこのミュージカルをどのように再生させるのか、その点を注目していました。
 しかし、今回見た作品はコメディ色が強く、観客も開演前からノリノリといった感じでした。そして、「アクエリアス」「レット・ザ・サイシャイン・イン」などのヒット曲を一緒に楽しんでいるという印象でした。
 年配客は「懐かしのヒット曲コンサート」を、若い客は過去の曲をけっこうイケてる音楽として、それぞれの楽しみ方をしているように見えたのです。そして、最後には、観客を舞台の上に登らせて一緒に歌い踊ってフィナーレになるという構成で、私のイメージは完全に覆されました。
          
 それはけっして、つまらなかったとかがっかりしたという意味ではありません。むしろ、ベトナム戦争を扱った過去のミュージカルを再生させるということはこういうことなのか、という感慨も持ちました。この作品は上演の度に内容を少しずつ変えているようなので、今回もその一つのヴァージョンなのかもしれません。ただ、私は過去の作品を見ていないので、もう少し過去の上演時の内容を調べ、それを比較してみたいと思っています。
          



コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 中央大学の入... 情が濃いぞ!... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。