新宿厚生年金。なんだか、さえないファッションのおっさんばっかりだなあ、と思っていたら鏡に映ったおれだった。つまり、そういった、感じの旧めの客層。80年代の後半ぐらいから、来日公演はかかさず聴きにいっていて、毎度、そうなんだけれど、ちょっとこれはもったいない。とりわけ、今回の『Time The Conqueror』は、ほんとうにいい出来で、できれば若い人たちにも聞いてもらいたい。そういった意味では、“Late for”のおかげで、“The Drums of War”が飛んでしまったのは、ほんとうに残念で、まあ“Late for”が悪いってわけじゃないんだけれど、せっかく女性のコーラス、なんってったけ、シャヴォンヌ、アリシアか、が参加しているのだから、その持ち味がもっとも生きている“The Drums of War”は、ほんとうに聴きたかったなあ、と思う。
もちろん全体としては、いつもどおりよいライブで、なにより、中ぐらいのメジャーな感じの曲がアレンジがこなれていて、かなり印象が変わった。たとえば、“Everywhere I Go” とか“I Am A Patriot”とか。こういうのを聴くと、JBという人は、ずっと活動し続けているんだなあ、ということをあらためて感じる。
以下、セットリストに沿って、極私的な勝手レビューを。
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■pt1
[1]Boulevard
今回のツアーのセットリストを、事前に知らずにオープニングを迎えたとしたら、ちょっとした感動があったかもしれない。残念ながら、ああこれがくるね、と構えていたので、鳥肌が立つというところまではいかなかった。しかし、ジャクソン・ブラウンのライブのオープニングにふさわしい曲ってじつは難しく、たしか、“Barricades of Heaven”なんかで始まることも過去あったような気がするけれど、どうもしっくりこない。意表をついて“Knock On Any Door”なんかどうだろう。
[2]Barricades of Heaven
このあとの、“Fountain Of Sorrow”とあわせて、もはやライブ前半の定番となっている。この流れは、JB自身がかなり好きなんだろうと思うし、もちろん悪い曲ではないんだけれど、あまりにも聴きすぎて、どちらかというと、ああいつものJBだなあ、という安心感以外のなにものでもなくなってきている。ただし、言うまでもなく、“Barricades of Heaven”は、いわば最近の曲であり、こんないい曲を創り続けている、現在のJBをしっかり評価したい。
[3]Everywhere I Go◎
これまでのセットリストだと、ここで“Off Of Wonderland”が入ってくるので(※)、ああ今日は、日本の最後だし、ちょっと変えてくるのかなあと期待しつつ、それほど好きでもないので、あまり期待していなかった“Everywhere I Go”だけれど、これは予想に反して、かなり良かった。この手の90年代に作られた曲が、今回のリストにいくつか組み込まれているけれど、アレンジに工夫がされていて、とくに曲の後半の盛り上げ方がすばらしい。デフォルトよりもずっとよいので、オリジナルアルバムをリ・アレンジで出すという発想はないのだろうか。ないだろうな。浜田省吾じゃないので。
(※)という流れはリストを公開してくれた方の書き間違いだったようで、基本的にはこの流れのようだった。
[4]Fountain Of Sorrow
J.D.サウザーとか言っていたっけ。
[5]Time The Conqueror
繰り返すけれど、アルバム『Time The Conqueror』は、タメがあった分、かなり素晴らしい仕上がりになっていると思う。旧いファンの人たちから見れば(おれも相当旧いけれど)、きっとブーイングの嵐で、新しい曲が中心となるリストなんて我慢できない、なんて商業主義なんだ!なんて怒りだすかもしれないが、できれば、旧い曲はそこそこにして、今回のアルバムのすべての曲を演ってほしかったと思うぐらいだ。
[6]Off Of Wonderland
[7]Live Nude Cabaret◎
『Time The Conqueror』の3つのバラードは、どれも見事で、そのポイントは、じつはこれまでのJBらしくないところだ。そんな、「らしくない曲」と「らしい曲」がうまいバランスで混在しているのが、今回のツアーの魅力だな。
[8]Culver Moon◎
むしろ嫌いな曲だったんだけれど、このライブのアレンジを聴いて、考えをあらためる。場合によっては、今回のライブで一番良かったかもしれない。
[9]Giving That Heaven Away
これは、最近のジャクソン「らしい曲」。
[10]Doctor My Eyes ~
[11]About My Imagination◎
『The Naked Ride Home』は、まあ“About My Imagination”ぐらいしか聴きどころないよなあ、とかなりひどいことを感じていたんだけれど、“Doctor My Eyes”とメドレーにできるんだとわかって、ますます好きになった。前半部分のまさにtake it easyともいえるゆるやかな感じ、やさしいオルガンの音、それとは対照的な後半の盛り上がり。この曲を、選んでくれたよかった。
■pt2
[12]Something Fine
[13]These Days
[14]Your Bright Baby Blues◎
これは、思いがけない出来事。これまでのセットリストでは、“For Taking The Trouble”となっていて、まあ中休みかなあ、と思っていたので、目が覚めた感じだ。
[15]Lives in The Balance◎
いろんなアレンジパタンがあるけれど、最近のものをちょっと崩した感じ。てきとうなものを打楽器にして、これだけシュアになるなんて。バックのボーカルもよかったなあ。
[16]Going Down To Cuba◎
なんというやさしいメロディなんだ。USAに帰りたくなるよ。
[17]Just Say Yeah
早く、Just Say Yeah!って言ってくれ、って感じになる曲だ。さすがに Just Say はい!にはならなかった。
[18]Late For The Sky
もちろん悪くはない。しかし、何回も聴いてきたし、ライブの音源もたくさんある。これをいつまでもリクエストし続けるのは、森進一のリサイタルで2回も“おふくろさん”を歌わせるような気もしてちょっとやだ。もし、聴きたいとすれば、アルバムと同じアレンジのバージョンかな。いずれにしても、”Late For”の代わりに新曲のどれが飛んでしまうのか、とじつはちょっとがっかりしていた。ファンのみなさんごめんなさい。
[19]Far From The Arms Of Hunger◎
これまでのリストから判断すると、こっちが飛ぶのかなあ思っていたけど、結局、落選したのは“The Drums of War“、だった。残念。しかし、“Far From The Arms Of Hunger”と、どちらを選ぶか?といわれれば難しいところだ。イントロで、本日はじめて鳥肌がたった。トレビアン。
[20]The Pretender
残念ながら、”Rock Me on the Water”は来ず、ライブはフィニッシュへ。
[21]Running On Empty
オープニングの曲が難しいのと同様に、ラストの曲も難しい。“Before The Deluge”とか?盛り上がらんか?一回ぐらい、“Hold on Hold Out”とか演ってみてくれんかな。
■Encore
[1]The Load Out~
[2]Stay
たぶん過去1回ぐらい、この名物がないジャパン・ツアーがあったような気もするけれど、もうきっとなくせないんだろうな。おれ自身もこれがないときっと消化不良だったと思う。“Stay”があっさりバージョンでよかった。
[3]I Am A Patriot◎
“And the river opens for the righteous Someday”という歌詞は、ほんとうにかっこよい。苦しいときに呪いのように唱えたくなる。たぶん、“World In Motion”のツアー以来だと思うけれど、それとは違う脱力バージョンで、これもまたよかった。スプリングスティーンもそうなんだけれど、こういうので、ポリティカルな変化を讃えて騒げるのは、アメリカのいいところかもしれない。ボス同様、ジャクソンも記念アルバム出さないかな。
[4]Take It Easy
ボーナス・トラック。あるクラスターの人たちにとってみれば、ジャクソン・ブラウン=Take It Easy、Take It Easy=ジャクソン・ブラウンなんだろうけれど、おれはそんな感じじゃないなあ。いや、もちろん、“Take It Easy”は代表的な曲ではあるんだけれど、五木ひろしにいつまでも「横浜たそがれ」を唄わせるのはどうよ、と思うわけです。だって、ほかにも“Take It …”以上に、いい曲たくさんあるんだもん。たとえば“Somebody's Baby”なんか最後にやったらかなり盛り上がるじゃないかな。あるクラスターの人たちは激怒しそうだけれど。
最後に、もうひとつ勝手解釈で、聴きたかった曲を列挙してみると、こんな感じかな(過去、演ったもの、万が一にもないと思われる無理目のものも含む)。
◎Hold on Hold Out ◎Sky Blue And Black◎Lawyers In Love◎Tender Is The Night◎Knock On Any Door◎Say It Isn't True◎Lawless Avenues◎Candy◎Till I Go Down◎Black And White◎The Next Voice You Hear◎The Fuse◎Sleep's Dark And Silent Gate◎How Long◎Lights And Virtues
というわけで、いろいろ勝手なことを書いてきたけれど、久しぶりのバンドのツアーだったし、いつものジャクソン・ブラウンらしい親密でコンパクトなライブだったのでじゅうぶんに楽しめた。厚生年金の盛り上がりもよかったし。ジャクソンの年齢を考えると、そんな無理は言えないのかもしれないけれど、あと1~2回ぐらいは聴きに行きたいなあ。それも新曲中心のやつを。