八幡浜出身の二宮忠八。明治時代に飛行機原理を発見した人物としてよく知られているが、現在、八幡浜市民ギャラリー・郷土資料室では、二宮忠八の飛行機に関する業績だけではなく、彼の書いた掛軸や書簡が数多く紹介されている。
忠八の号は「幡山」。八幡浜の八幡神社の近くに生家があり、京都八幡に住んでいたことからこう称したのだが、「幡山」の詠む句を「幡詞」。それを掛軸に墨で書き、絵を描いたものが「幡画」とされる。
二宮忠八が「幡詞」、「幡画」の定義をまとめている。これは大阪製薬株式会社社長時代で、昭和4年に発行された『幡詞歌』の中で紹介されたものである。
<幡詞の文義>
1 幡詞の文縁
著者の故郷は、伊予八幡浜、京都八幡に廬をむすび、
飛機の思い出、文にもらして、ここに創むる、新体幡詞。
2 幡詞文味
男山なる、岩根に湧きて、新にいづる、幡詞を汲めば、
胸もすがすが、気もさわやかに、口すさびよき、味わひ知れず。
3 幡詞文意
幡詞の文が、時代に副へる、雅俗の葉、綾おる栞。
作り難かる、平仄詩なり。読み書き判り、易く楽しむ。
4 幡詞文例
幡詞はすべて、七音口調、四句を単句に、八句を連句。
詩は自然でふ、思ひの侭に、起承転尾に、綴る文芸。
5 幡詞文格
幡詞の文は、音訓自由、国語漢詩の調子を揃へ、
作り楽しみ、奏でて共に、意気揚々と、歌ふ格なり。
6 幡画筆意
幡画の式は、景色世相を、想像実写、思ひの侭に、
毛筆のみに、彩り作り、幡詞を題し、描く法則。
7 幡詞筆致
粗密撰ばず、巧拙問はず、筆致墨色、気韻を持たせ、
趣味を豊かに、筆を揮ひて、雅号落款、そらふ芸術。
8 著者の希望
和歌や今様、俳句に続き、歩み出せる、幡詞の文が、
世に愛でられつ、親しむならば、如何に行手の楽しかるらん。
以上は、八幡浜市民ギャラリー・郷土資料室で開催中の企画展「風をとらえた人々」の解説文および『二宮忠八展』(泰申会出版、平成23年発行)から引用し、新字体に改めたものである。
この幡詞。七言四句で思いのままに綴ってみるという決まりで、あとは特に縛りのないものである。二宮忠八はこの幡詞を数多く綴り、二宮幡山著『幡詞』などに著している。ただし、忠八亡き後、現在に到るまで七言四句の幡詞が詠まれているかどうか。地元八幡浜出身でもよく知らない。上記の定義からすれば、幡詞は忠八が定型化したものであり、後世の人、今の人、これからの世代が継承してもおかしくないものだと、今日、八幡浜市民ギャラリー・郷土資料室の展示を観覧してあらためて思った。