酔漢のくだまき

半落語的エッセイ未満。
難しい事は抜き。
単に「くだまき」なのでございます。

誇りを守る為に

2008-09-29 09:50:13 | スコッチウィスキーの話
スコットランド1月25日と言えば、「ロバートバーンズ」さん(日本では「蛍の光」が有名です。スコットランドの詩人です)を祝って「バーンズナイト」という「呑んだくれ?」のお祭りが催されます。「ハギス」を食べて、スコッチを飲んでという、お祭り。(行ってみてぇなや)このバーンズさんが詠みました「ハギスの詩」は代表作ですが、そのバーンズさんのお手紙の中にこのようなのがございます
ロバートさんスコットランドはローランドにおられます。
「この地方(ローランド)のウィスキーはもっとも哀れな酒であって、それ故、もっとも哀れな人達に呑まれている」
1788年、重価税に対抗して、ローランド地方では「高速蒸留」が行われておりました。これを嘆き悲しみましたバーンズさんでした。
これより先、1707年スコットランドは、イングランドと合併いたします。誇り高きスコットランドの人達は「イングランド主体」と受けとめるのでした。
同時に酒税が統一されます。これまでイングランドでは、麦芽税のみありましたが、これがスコットランドへも拡大します。ですが、麦の質が悪いという事で「税率が半分」でした。
ここでお酒と違った話を一つ。スコットランドの人たちはよく「オートミール」を食します。
「あんな馬のえさのようなものがよく食えるな」とイングランド人が言えば
「んだから、スタミナねぇくてサッカーよえんだべ」とスコットランド人の返答。
こんな逸話が多くございます。
さて、「ローランドモルト」その特徴は、蒸留を3回行うと言う事。
この方法がバーンズさんが嘆き悲しみました「高速蒸留」の結果なのでした。
ローランドには、ローランド地方だけの課税方法がございました。
ポットスティルの容量によって、課税を取り決めるというもの。
先に1785年、ハイランドモルトの輸出禁止令が発令されます。
その翌年1786年ローランド地方へ「蒸留器容量に基づく免許制度」が拡大されます
「1ガロンあたり2ポンド10シリング、更に輸入穀物を使用またはイングランド輸出(この表現が面白い→同じ国内に関わらず、輸出と表現されています。やはりまだ、イギリスは、4カ国存在していたことがわかります)する場合は追徴課税」
この間、法律はどんどん改正されてまいります。1796年には、「1ガロン当たり6ポンド10シリング」へ引き上げられます。面白いのは「ローランドとハイランドの中間地点は「1ガロン当たり9ポンド」と更に高くなります。
「冗談でねぇべ、やってらんねぇべさ」と蒸留所を閉めるところも多々。
「なんとかしねくてねぇべ」と、残ったローランドの蒸留所はポットスティル一基分の容量を小さくして、その数を増やして「生産性を高めよう」とした結果なのでした。苦肉の策だったわけです。
「オーヘントッシャン」はその軽さが売りです。(本当に軽いお酒です)
本当に「樽の香」を楽しむ他にこのお酒を味わう意味があるのか。と、思うほどです。この軽さが、ローランドの味の特徴なのでしょう。
法律によるハンディを克服した頑固さです。
ですが、この時代、数多く存在しておりました蒸留所が無くなっております。
一つは「課税を払えず、業績悪化のための閉鎖」そしてもう一つが「粗悪品を大量に製造したために、法律廃止の後に評判を落としての倒産」と二つに分かれます。
後者は特に「アメリカ禁酒法」などとも重なって莫大な利益をえた業者もおりますが、大概はその後に衰退していったのです。
今ご紹介いたしました「ローランド」は、3回蒸留方でなんとかその存在を残しておるのでした。
もっとも悲惨な運命を見ましたのが「キャンベルタウンモルト」です。
今、キャンベルタウンには2箇所の蒸留所しかございません。
「スプリングバンク」と「グレンコシア」です。
嘗て、ニッカ創業者「竹鶴政孝氏」が留学していた時代には20個所もの蒸留所がございました。その少し前までは30個所。殆どの蒸留所が無くなっております。
アメリカの禁酒法は1919年に成立いたします。アメリカ独立の要となりました「清教徒派」はもともと「禁酒」が戒律。ですから法律成立には彼らの意向が多くはいっているのでした。ここで一つ皆さんの誤解を解かなくてはなりません。この法律「酒を呑むな」とは一言も書いていないのです。(世界史の先生からどんなお話がございましたでしょうか。ちなみに酔漢の高校時の先生→仙台一高出身→は、「呑むなとなかったからこの法律をより複雑な方向へ向った」と語っておりました)
具体的にはこうです「製造・販売・運搬の禁止」なのです。
自宅で飲むのはOKですし。自身で作って自宅で飲むのもいいわけです。
この時代、アメリカでは、闇のバーが横行します。大方マフィアの金づる。映画「ワンス・アポン・ナ・タイム・イン・アメリア」で見ることができます。
「キャンベルタウン」はアメリカから近いため、多くの密造酒が作られました。
本当の「まがいもの」です。
「高い・まずい・うそっぱち」の三拍子。
禁酒法がなくなると同時に衰退するのも頷けます。
ここで紹介するのは初めてですが「グレンコシア」は旨い酒です。日本で良く知られております「スプリングバンク」は、よほどのボトラーズものを探しませんと、最近「あのフローラルな香」は楽しめなくなっております。(本当に)
この「グレンコシア」も1930年には一度閉鎖。1980年に再開。ですが1984年にはまた閉鎖。借金苦で前オーナーが仕込み水を使う湖に飛び込み自殺という不幸もありますが、現在は健在です。日本では、あまり知られておりません。
本当ならスペイサイドを凌ぐキャンベルタウンであったはずです。目先の利益にとらわれた輩が多数いた為にこの衰退
「キャンベルタウンロッホお前の水が全部酒だったら、俺は飲み干すまで死んでられない」という民謡。「まがいもの」を作り続けた結果、この詩もかすんでしまいます。

「俺、やんだ!ぜってい密造ばやんねぇ」と叫んでおりますのはスペイサイドにおります「ジョージ・スミス」さん。
グレンリベット蒸留所の創業者でございます。
「あんだ、今の時代に『密造酒』ばこさぁえねかったら、この蒸留所もつぶれっぺ、時間の問題なんだと!」と周りからは、やんややんや言われております。
「そんなまがいもの作んだったらや、蒸留所つぶれたほうがましだっちゃ!」
頑固ものです。
周りからは裏切り者の烙印を押されます。
スミスさん「こげな事したぐぅはねぇんだけんどっしゃ」と護身用の拳銃を肌身離さず持ち歩いております。
「こんな馬鹿な法律がいつまで続くわけねぇっちゃ。それまで辛抱すんべ。んだから、酒の味だけは、落としてらんねぇ」と。
「臥薪嘗胆何時ク日ゾ」(白石高校応援歌?)
1924年、法律改正。最初の政府公認蒸留所となりました。
正統派の誇り。「ザ」を名前につけます。偽物が多数出回った為でした。
「あんだのやってきた事は、正しかったのっしゃ」
今度は回りからこう言われております。

今、現存するスコットランド蒸留所の殆どが経験している「重税」と「禁酒法」。
頑なに、頑固に、真面目な職人がいた「自身の味」を追及したところだけが残っております。法律のハンディが、例えば「ピート製法」だったり「3回蒸留」だったり隠した樽がマデラ酒だった為に、風味が良くなったりなどなど・・偶然の産物でもありますが、作り技にこだわった者が最後に笑ったのでした。

昨今、その誇りたるや、何処へ。「なしてだべ?」
目先の利益に目がくらみ、先々の幸せ、(それも他人もまで)を奪う事実が横行しております。
歴史から学ぶべきです。
頑固にそして最後までポリシーを貫いた「味」を最も我々が評価している事を、生産者は改めて肝に命じていただきたいと存じます。


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17 コメント

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後で (ひー)
2008-09-29 12:05:22
またきま~す
また後程 (酔漢です )
2008-09-29 12:22:47
ひー様へ
心よりお待ち申し上げております。
似てますね (丹治)
2008-09-29 14:50:10
スコッチの質が落ちたのは重税と禁酒法ですか。戦時中の三倍醸造で日本酒の質が落ちたのと似てますね。

最近、日本酒も地方の小さくとも良心的な酒蔵がいいヤツを作ってます。

ウィスキーや日本酒に限らず、醸造業の皆さんにはいい酒を造って欲しいものです。

それには消費者も(某大臣の言を借りれば)「やかましく」なくていけません。単に宣伝を鵜呑みにするだけではなく、自分の口に合った酒を探したいものですね。
ところがそうでもなくて・・ (酔漢です )
2008-09-29 17:28:33
丹治様
重税のおかげで、「美味しくなった」のも事実なんです。ご紹介いたします。
1)樽での熟成→樽に隠し持っていたら、色がついちまった。「のめんのかや?」と思ったら「うめかった」
2)ピートの香→樽を、泥炭の中に隠していたら「煙くせぇぐなったおんなや」と呑んでみたら「うめかった」
3)ハイランド・ローランド→「山奥さぁ逃げってぺ」と逃げたところ「水は軟水」だし「空気はきれい」だし「熟成させるのにいい気候だし」おまけに税務署(当時あったかどうか?)から見つかりにくいし。

他にも、偶然にもいろいろございます。
不思議です。逆に、旨さが増してくるような気がいたします。ですが、今「うそっぱち」「まがい物」を作った蒸留所は、淘汰され、無くなっているのも事実。

「自分の口にあった酒」偶然でしょうか。これで意見が合わなかったことはなかったですね。
反権力は蜜の味? (クロンシュタット)
2008-09-30 06:18:24
昔々、某国際空港建設反対運動の一環で、
「どぶろくを飲む」催しがありました。
確信犯としての密造酒づくりですな。
やったら、うめがっだ。
あんなにうまい酒には二度と出会えません。

スコットランドやアイルランドの歴史には、悲しみが満ちています。
荒涼とした大地は、何も語ってはくれませんが。
勉強になります (丹治)
2008-09-30 08:58:40
酔漢さん

そうでしたか。色々あるものですね。勉強になります。口に合う酒、旨い(と思う)酒は十人十色(でもホントにこれで意見が違ったことはありませんね)。

きっかけはどうあれ、結果がよければ全てよし。結果オーライですよ。

昔ペンギンさん(しかも雌ペンギン)に騙されて随分と金を貢いだサントリー。佐治某の発言依頼ピタリと飲むのをやめていましたが、モルツの旨さは認めます(時たま飲んでます)。

小生とて酒飲みの端くれ。「不飲盗泉之水」なんて、ヤボは申しません。

これからも色々教えて下さいね。
実際に見てみますと (酔漢です )
2008-10-01 08:42:09
クロンシュタット様へ
行った経験がありませんから、映像からの風景から想像です。
高い山があるわけではないのですが、切り立った崖の上に荒涼たる草原が続いております。
風が強く、イングランドのような穏やかな感じではなさそうです。
厳しい自然環境の中での酒作りです。
「宮城峡」(ニッカ蒸留所)が、竹鶴氏をして「スコットランドに気候が似ている」と言わしめた場所ではございますが、スコットランドの方がより厳しいような気がいたします。
なんとおっしゃられましたか (酔漢です )
2008-10-01 08:46:21
丹治様へ
佐治会長が、どのような発言をされてのでしょう。気になります。
丹治様があの「ピコピコペンギンボトルビール」(懐かしいなぁ)をお止めになるほどの発言だったのでしょうか。
差し支えが無ければ、お知らせ下さい。
それは・・・ (丹治)
2008-10-01 09:16:41
「東北はクマソ」というものでした。何の機会にどんな脈絡でだったかは忘れましたが、サントリー会長としてではなく大阪商工会議所会頭としての発言(失言)だったと思います。

「東北をバカにしている」という反応が圧倒的でした。しまも「東北=クマソ」では事実誤認もいいとこであります。

あの時はサントリーの仙台支店に抗議が殺到。電話で応対した女性社員が泣いておったそうですよ。「サントリー会長としての発言でもないのに、どうして私たちが・・・」って。

商議所会頭としての発言に腹を立てて一時期とはいえ(結構長い間)サントリーのビールを飲まなかったんですから、小生も仙台支店に抗議した人たちと五十歩百歩ですね。

事の大きさに「まずい」と思ったのでしょう。佐治氏は河北新報社を訪れて一力会長に会い、謝罪しました。これが記事になったことは、今でも覚えております。

宮城には佐治氏が直接現れましたが、他の東北各県にはサントリーの社員を詫びにやらせました。それがなおさら各県の態度を硬化させたようです。中には「大阪商工会議所会頭としての発言なのに、サントリーの社員が詫びに来るのは筋違い」として門前払いを食わせた県もあったということです。

とかくこの失言問題、前後の脈絡から切り離されて「問題箇所」のみが独り歩きするものです。それを考えれば、誰しも口のきき方には気をつけねばなりません。

もっとも小生、現在は「エミシの子孫」「まつろわぬ民の子孫」を以て自ら任じております。
自分の生れ育った「故郷」には、御互い誇りを持ちたいものですね。

いやいや (ひー)
2008-10-01 11:12:12
この記事を5回読んでやっとコメントできました。
最初は夜遅くなり、文字が二重に見えてきて、明日にしようと・・・
勤務中の休憩時間に読んでいたらウトウト・・
仕事が終わって仮眠前に読もうとしたらやはり携帯からなのでPCより時間が掛かり、読みながら寝てしまい・・・
やっと今、朝帰りでコメントしてるというわけです。
でも、今夜また泊りなので、今日の分記事アップします。
また、いつもの無駄話が・・・
蒸留所の数だけ、その歴史があり逸話があるんでしょうね。
ポットスティルの大きさや蒸留の数で味わいや香りが変わり、樽に詰められ寝かせれば、また深みも加わる・・・
ホントに奥が深い酒ですね。

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