蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

親族の基本構造ムルンギンの親族体系 5

2021年05月31日 | 小説
(2021年5月31日)パワーポイント図でMurngin族の親族体系を説明しています。
男系半族の形成。

図(上下)は子の移動の流れを表している。子は半族内部を移動する。その流れは図の赤い破線。

男子は半族にとどまり、女子は中央線を越えて別の半族に贈られる。


半族内の親子、祖父孫の関係。


これまで説明していた女の交換の図、交換された女の系列が女系半族を形成図、本投稿の男系半族の図をあわせた図となります。これがMurnginの親族体系です。


写真は本書216頁から。女系、男系半族の位置が逆転している(男系がたすき掛けに)。これは女を交換する仕組みではなく、オーストラリア先住民で一般の「男を交換」する(婿に出す)体系をシミレーションしているから。

親族の基本構造ムルンギンの親族体系 5の了(2021年5月31日)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

親族の基本構造ムルンギンの親族体系 4

2021年05月28日 | 小説
(2021年5月28日)
前回(5月26日)で女と子の交換サイクルを解説しました。結果、女系の半族が形成された。その同じ動きを交換の流れを別方向にした図を載せます。
起点に最上列のa1Ngaritがb1Balangから女を貰うとします。



赤の実線が女の経路、破線はその婚姻によって生まれた子の経路です。前回と同様ながら経路は逆。


サブセクション間の母と娘、祖母と孫娘の関係。

サブセクション間の母と娘、祖母と孫娘の関係。

前回の女系半族と重ね合わせた。かくして女系の2の半族が形成される。


親族の基本構造ムルンギンの親族体系 4の了(2021年5月28日)
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

親族の基本構造ムルンギンの親族体系 3

2021年05月26日 | 小説
(2021年5月26日)図の1は本書196ページにある「Murngin婚姻体系」の表を図式化したものです。第一回投稿(5月21日)で掲載した略図(レヴィストロース作表)を「女と子の交換手順」として分解しました。




元の図はこちら


あるサブセクションが女を贈るを起点とします。図ではNgarit a1が規則に正しくBalang b1に女を(嫁として)贈ります、赤の実線。これが①。b1夫と子をなすけれど、その子はb1に留まらない。子はc2に移動します。②赤の破線。この仕組を前回投稿にMurngin体系の特異としました。養子とも書きましたが意味合いは異なる。社会の規則なのでともかく子の全員、例外なしに移動させられる。
以下赤の実線、破線とを追うと、c2が女をb2に、b2は子をa2に、a2は女をb2に、b2は子をc1に、c1は女をd1に、d1は子をa1に。これで1サイクルが終わります。この制度は何を意味するか;

1 系統と同盟の固定(近親婚の禁止)
2 社会制度として婚姻を規制(ここでは交差いとこ婚)
3 女と女の交換ではない、女を貰い子を贈る(交換の不等価)
4 与えなければ受け取れない。女を貰って子を贈る(交換の相互性)

上4点は親族体系の基準点です。親族と交換の基本(別PDF)の第1ページ図を引用。


次なる伝えかけ(メッセージ)として1 子を贈るのはセクション内部(青の破線が分断線)。女を贈るのは分断の線を越して贈る。するとセクションYritchaとDuaは男系で固まる。一方、女系集団も固定する。図2のサイクルから女の移動経路を再現すると;


1 b1女はd2女の母親、 2 d2はb2の母、 3 b2はd1の母、4 d1はb1の母。
5 d1とd2およびb1とb2は祖母孫娘の関係。

図のみではわかりにくいから説明を加えると、b1は子をc2に贈る。c2は男子を残し女子はd2に嫁として贈る。故に、b1の娘がd2の嫁となった。以下、同様。
第3図で女系集団を黄色破線で表した。男系の水平展開に対し、たすき掛けに絡まる女系となる。


親族の基本構造ムルンギンの親族体系 3の了(2021年5月26日)

補遺:社会制度として子を他集団に贈る。どのような手順で子が移動するのだろうか。理論と制度のみを語るレヴィストロースが本書にその実際を語る文はない。
生まれてまもなくか。すると母は子に愛情を注げない。あるいは、移動は名目で実際的生活は生まれたサブセクションに残る。しかしこれでは個がどのサブセクションに帰順するのかに不安が生じる。系統が成り立たない。
2の両極端か折衷案があるのだろうか。息子はイニシエーション(成人式)、娘は初潮を機に移動するかもしれない。第一回目(5月21日)にYolngu語族(Murnginが属する)娘の写真をあげた。横の中年女性が親であろう。

娘の自身の交換価値に気づいているかの自信たっぷりの表情、そして親の満足げな様子、これらからして部族民蕃神は、この二人は貰われ養女と嫁がせ母と感じる次第です。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

親族の基本構造ムルンギンの親族体系 2

2021年05月24日 | 小説
(2021年5月24日)Murngin族は2 の半族、8のサブセクション(sous-section)に分かれる。
原文にある半分moitieを半族と訳した、他著書(構造人類学など)ではこうした形式を「支族Clan」とする場合が多いが、底本(Warner著)にhalfとあったのだろう。サブセクションをhordeと言い換えている。この語は中央アジアのnomade(遊牧)民を意味していたが、民族誌学で地域の限定を外し移動する民族を表し、また移動せずに農耕採取、狩猟で生活する比較的小規模集団にも用いられてもいる。
Murnginを理解するに族の規模、定住か移動かは重要となる。悲しき熱帯でレヴィストロースが紹介したNambikwara族は半定住半移動の生活を送る。規模を20人前後、4~5家族の「バンド」としている。Hordeの概念はバンドよりは大きいが村落に劣る。そこを拠りどころにMurnginの規模を推論すると、1のhorde単位が100人20家族ほどで構成されると考えた。8の半族hordeで計1000人未満の人口か。この規模であると狩猟のみの生活は難しい。定住(小規模農業と狩猟採取)の族民に結びつく。後に述べる親族の構成などと辻褄が合いそうだ。8hordeが分離して居住、全体でそれなりに広い地域を占める。
推測に過ぎないがこれを前提にする。
下図は半族の構成。Yiritcha、Duaの半族が各々4のサブセクションを有する。中央分割線に両方向の矢印が重なる意味は女の交換である。女は嫁として中央線を越すが、男は生まれた半族にとどまる。




Yiritcha…半族は男系、たすき状にかかる楕円破線は女系の半族(moitie matrilinaire)でこちらには呼称が無い。MとLとしてWarnerが記号化した。水平の四角は族内婚集団。Ngarit (a1)を基準にしてBalang(b1)と女を交換するが、時にはBuralang(B2)とも交換する(青の破線)。故に四角にしたが、斜めの交換は例外とする見方もあって、その論を汲めば四角は縮小する(赤の破線)。図が煩雑になるので上の4サブセクションのみを図式化したが、下の4サブセクションも同様の女交換を実施している。


Ngarit(a1)がBalang(b1)の嫁をもらって子をなす。その子はa1にもb1にも属さない。Bangardi(c2)に里子に出される。ここが<一風変わった(aberrant様変わり、理屈外れ,英語ではoff pattern)前回>制度である。


親族の基本構造ムルンギンの親族体系 2の了(2021年5月24日)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

親族の基本構造ムルンギン族の親族体系 1

2021年05月21日 | 小説
(2021年5月21日)「親族の基本構造Les structures élémentaires de la parentéレヴィストロース著)の紹介を続けています。今回から「Le système Murnginムルンギン族の親族体系」を何回かで採り上げます。この章は本書通し章番で第12、限定交換の部、最後半に位置します。よって複雑系ながら限定交換となります。
Murngin族について。
オーストラリア北部、Carpentaria湾に臨むArnhemの地に居住(していた)。ネットにて調べるとMurnginそのものでの紹介サイトはない。Yolngu族がより多くヒットし、その居住地区はMurnginのそれと重なる。Yolngu族の居住域はより広い。想像するにMurnginはYolnguの一支族であって、Warner報告から90年を経た現在、族として消滅したかもしれない。
Arnhem地の現在と地図、Yolngu族民の写真をネットから借用し貼り付ける。

Yolngu族は言語で分類される族名。ムルンギンも属していた。

オーストラリア全図とカーペンタリア湾の部分図。ムルンギンは湾西の半島、突端に居住していた。

底本は「Morphology of the Murngin Kinship」W.L.Warner American Anthropologist vol32に収録。学会誌の当ノンブル発行は1930年、レヴィストロースは米国亡命中(1940~45年)に英語圏の民族学誌を渉猟していたので、その時の出会いです。本書「親族...」の初版発行は1947年、Warnerの報告に限定せず関連の濃い民族の報告、民族学者各位の学説の紹介、それらの批判にも論を進めている。
Murngin族の体系は他オーストラリア先住民のいずれとも異なり、一風変わった(aberrant様変わり、理屈外れ,英語ではoff pattern)仕組みを見せている。
<Le système Murngin ressemble au systeme Kariera, parce qu’il possède quatre sections et au systeme Aranda, parce que ces quatre sections sont divisées en huit sous-sections. Mais il diffère de l’un et de l’autre en ce que ces sous sections existent toujours, bien qu’elles no soient pas toujours nommées.>(本書194頁)
訳:ムルンギンの親族体系はカリエラ族のそれと似通う。なぜなら両者とも4のサブセクションを持つから。またアランダ族の体系とも似る、両とも4のセクションが8のサブセクションに分かれるから。しかしそれらいずれとも異なる。なぜならムルンギンのサブセクションは呼称が当てられていないけれど、常に存在しているから。
カリエラ、アランダ族ともにオーストラリア先住民(アボリジニと総称される)。両族はより広範な地に住み、ムルンギン族報告以前から知られていた(と推察する)。報告されたムルンギンの体系を隣部族と比較すると、「似ているけど異なる」当時の民族学者が首をひねった様が窺える。
レヴィストロースが言う「呼称が当てられていないサブセクション」とは写真(195頁)で見るとNgaritサブセクションとBuralangサブは女を交換するendobamie族内婚を形成する。下列のBulain,Balangサブについても内婚集団。8のサブセクションが数えられ、それらが4の内婚集団を作っているが、8サブには呼称が当てられている。4の内婚団には呼称、分類の識別が当てられていないが、確かに機能している実態をレヴィストロースがかく語った。

サブセクション(本書から)

報告者のWarnerは下図を発表した。これは8のサブセクションを4の通婚系にして2の内婚集団にとりまとめた。順当な解釈である。レヴィストロースは<C’est ce que Warner suggère dans son schème théorique du système Murngin , qui trait, à notre avis, l’esprit du système.>Warnerはムルンギン族体系を理論的図式にしたが、これは体系の精神を曲解、裏切り(trahire)しているときっぱりと否定した。

レヴィストロースが否定したWarnerの説明図

以下の2の図を提案する。


左図はWarnerの内婚集団を核にして、通婚を示すイコールがWarnerでは2を4に分け、さらに左右の矢印を加えた。右図、矢印は左図と変わらず、4のイコールがたすきがけに変化させた。
レヴィストロース図の意味するところは;
Warnerの2イコールはたすき掛けの通婚の意義を無視している。水平イコールの通婚が正常で、たすき掛けイコールは予備(オプション)となり、その意義を内包しかつ社会規則の範囲であるとしている。
左右に展開する矢印をレヴィストロースは加えたが、これがMurnginの風変わり体系の極致、子を与えるである。私egoはイコールの規定通りに嫁を迎え、子をなす。私の子等は私のサブセクションに留められない。矢印の流れ通りに別サブセクションに与える。
この動きをWarnerは(おそらく例外的な)養子縁組として理論図から除外した(のだろう)。レヴィストロースはこの矢印流れが、これまで述べてきた親族構造の「基準点」を具現しているとする。
それは近親婚の禁止、優先婚の設定、交換の原理(不等価)理論であり、これらがかくと存在する事を証明する族民知恵であり、究極としのムルンギン体系である。
3の基準点に沿って嫁と子の交換とムルンギン社会の成り立ちを、次回以降追う。

親族の基本構造ムルンギンの親族体系 1の了(2021年5月21日)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「近親婚と限定交換」「族外族内婚」をホームサイトに

2021年05月20日 | 小説
4月23日からグログ投稿していた親族の基本構造解説「近親婚と限定交換」「族外族内婚」をホームサイトに加筆、一部訂正して上梓した。




序章(近親婚の禁止が文明の魁)から始まり交差いとこを系統から除外した。すると近親ではないから婚姻対象になる、というか優先対象に格上げする。ここに先住民に特有の交差いとこ婚と族外族内婚を核とする社会制度が確立した。レヴィストロースの思弁と演繹をこの図(=再掲)が語ります。部族民通信ホームサイトにアクセスして一気に読み下してください(www.tribesman.net).。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

親族の基本構造 族内婚族外婚の章4(最終)

2021年05月17日 | 小説
(2021年5月17日)このスライドは前回(5月16日)投稿で発表しております。解説はこの回でとしました。「親族の基本構造」には2の大原理を提案しています。
1 近親婚の禁止(原則と制度)
2 交換の原理(不等価、相互)


その2を左右端において、内側にそれら理念を形態化する「制度」を起きました。中央の柱は両の制度を融合させた社会制度となります。


このスライド内容が本書前半の60頁文のまとめとなります。
序章(inroduction)で近親婚の禁止という理念を確立した。系統(filiation)を決め、族外婚制をとる。当然、女(嫁)の手当を他集団からの前提に成立する、「バンド」数家族単位の集団の社会制度を生んだ。この族外婚バンド単位と女交換が文化の魁とレヴィストロースはしています。
序章で文化以前の「自然」について言及しています(親族の基本…投稿初回1月5日以降を御参照)。それは世代再生産においては系列(遺伝)にのみ拘泥し、配偶には無頓着の状態としました。彼は「子は親から生まれ、親に似る」と自然原則を説明しています。文化は「遺伝」には無力です。そこで配偶を選ぶ工程を作り上げた。
「近親婚の禁止」それに連なる「系列、外婚集団」と「同盟、女の手当」の創成となります。これも文化です。

スライド最終の列には族内外婚を包括する集団と不等価交換を巡回させる集団(交差イトコ婚)を位置づけました。交差イトコ婚は貰ったら贈る、贈らないと貰えない、すなわち限定交換の「交換様態の限定」モードを実現した制度です。

本投稿で限定交換、その概念説明を終了いたします。
族内婚族外婚の章4(最終)了(2021年5月17日)

次回(21日を予定)には各論としてMurngin 族(オーストラリア先住民)の婚姻制度、限定交換の綾織り模様、極致の親族と交換の構造を説明します。お楽しみに。


コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

親族の基本構造、限定交換の部、族内婚族外婚の章3

2021年05月16日 | 小説
(2021年5月17日)これまで族内婚の成立過程をレヴィストロース筆の流れに沿ってたどってみた。ここで2の基準点を振り返る。
1 親族とは:近親婚の禁止
2 交換とは:不等価の原理
この原理がどのようにして部族社会を形成したかを再現する。スライド1は親族と交換の理念を2の項目に現しています。




スライド2,3,4は過去投稿(限定交換4、5月5日)で説明しています。一部をコピーすると>一の系統(族外婚集団)がいかにして女(嫁)を手に入れるか。規則を定めなければ効率が悪い。娘の一人に1000人の若者が嫁取りに勤しみ、若者一人に1000の娘が殺到する可能性だって生まれる。そこで嫁ぎ先(婿入り先)をあらかじめ決めておく。一人の娘に特定の若者が優先権を持つ仕組みです。ここに2の系統が婚姻同盟を結び、族内婚の集団を形成する。<(スライド3)






スライド5は同4の集団の女交換の依存が固定化した状況を示す。系統A,Bともに族外婚集団で、AとBを合わせて族内婚集団となる。


6番目スライドは過去作成、投稿した。5の内婚集団は交差イトコ婚を通している。交差イトコの原理を表した。先住民の多くは生活技術の取得実行で男と女を区別している。女が採取耕作、家事の技術を持ち関連する財産を所有する。男は儀礼、狩猟、対外に従事する。それらの技術、地位は父から息子へと伝授される。交差イトコ婚はそうした技能、財産を分散、集中のおそれを除外できる。この点を図式化した。


7番目の図(ノンブル6)は婚姻の理念、制度と交換のそれらが重なり合い、社会を維持、変革誌、交差イトコ婚と限定交換の様を表している。
この図の詳細解説は次回に。


族内婚族外婚の章3 了(2021年5月17日)
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

親族の基本構造 族内婚族外婚 2

2021年05月14日 | 小説
(2021年5月14日)
<Deux cas sont a distinguer…前回(12日)の最終>この後の文で「systemes classificatoires de parente」から「優先preferentiel=婚姻の優先規定」を求めることは難しいとしている。その意味は「優先婚」なる言葉も、その関係を表す親族用語も見つけられない事情を意味する。結婚前に優先権を公示する「婚約者いいなずけfiance」なる語はどの民族にもあるだろうが、これは対外にその地位を示す目的にあり、親族用語とは異なる。
このあたりは蕃神の解釈です。特定の係累関係にあれば必ず「婚姻優先」が設定され、いいなずけと呼称される慣習が日本である、ないしいずれかの民族で優先を示す親族用語が存在するかもしれない。ご指摘を。なおこの優先婚の概念は「一般的」人類学者から「予約婚」である。近親ではあるが、係累関係から機械的に優先を決めるのではないとの批判を受けている(第2版の序章で取り上げられている)。
この「優先」は親族制から離れた「経済、地理的」条件でより強く決められるのかもしれないが、レヴィストロースはそこには踏み込まず族内で、近親の意味を持つ語で特定され者同士はそもそも多く数えられると述べるにとどまる。
用語として近親関係を特定される集団が族の内部と規定される。多くの民族が族の仕組みの中で交差いとこの婚姻を推奨している。

<Ainsi, tout systeme de marriage entre cousins croises pourait etre interprete comme un systeme endogamique, si tous les individus, cousins paralleles entre eux, se trouvaient designes par un meme terme, et tous les individus, cousins croises entre eux, par un terme different.
訳:交差いとこ婚とは一つの族内婚として評価できる。なぜなら平行いとこを言い表す用語が一つに統一されているとして、そうした場合、交差いとこは別の言葉を用いることになるから。
平行いとことは父の兄弟(あるいは母の姉妹)の子女。交差いとこは父の姉妹(母の兄弟)のそれら。先住多くの民族では両者を区別する。呼称におけるいとこ峻別の意味についてレヴィストロースの説明は;
<Cette double appellation pourrait meme subsister posterieurment a la disparition du systeme matrimonial considere et, comme consequence, un systeme exoganique par excellence ferait place a un nouveau systeme , qui presenterait au contraire toutes les apparences de l’endogamie.(53頁)
訳:この2重の呼称は一の婚姻規定が消滅したあとも、用語のみが残ったと解釈できないだろうか。どのような過程かといえばかつて厳格な族外婚が機能していて、それが新たな体系、全く異なる様相をみせる族内婚に取り替わった名残であろうか。(動詞は仮定法現在を用いる、推測がにじむ文意となる)
2の引用の意味合いを探る。
原初には族外の婚姻体系が存在していた。これは前節(Introduction)で説明している「近親婚を禁止して、他の系統から嫁を貰う」理念を具体化した社会制度である。それが族内婚に入れ替わった。この考え方も前節にある「特定の近親関係にある女」への優先権(union preferentielle)を確立するために「優先婚」を制度として採り入れ(憶測に近い)に対応する。
レヴィストロースは語る。いとこに対する2通りの区別呼称が族内婚への変遷の証拠であると。このあたりのつながりに小筆は考えが至らない。「解説」してるんだから何がしかの解釈を開陳しないとならない。そこで;
原初の婚姻形態は「近親婚の禁止」のみ。族民社会に応用すると、族外婚強制の制度となる。内部には交差いとこ、平行いとこの呼称区別はあったが、それは系列とし分別するのみで、いずれも近親だから婚姻は禁止であった。これがconvertion factice人工的過程(後述)を経て、交差いとこを婚姻優先させる制度に切り替わったと読みたい。
近親を表す用語となる父母、息子娘、叔父叔母など、そうした呼称を持つ相手との婚姻は厳禁だった。並行、交差に関わらずいとこにも呼称が設定されていたのだから、婚姻を禁止していたはずだった。この論理です。
続く文章(未引用)では、原初の族外婚制度は「authentique正統」で後に入れ替わった族内婚は「見せかけostensible」と加えている。
そこで;
3の文章の段落での主張をまとめると;
レヴィストロースはそもそも族外婚制度が厳格に維持されていた。しかしその制度は一人女を多数男の「妻問い」競争に晒し、男同士の争い激化が族民社会の損失と知るに至って、<convertion factice>人工的転換を経て、近親ながらも交差いとことの婚姻を認めた。交差いとこに優先権を与え、他男からの「粉かけ」を防ぐ制度に練り上げたと(部族民解釈)。
その証拠がいとこ呼称の2重であるとする。


画像は前投稿のスライド、

ここでの系統は家族を念頭にしているが、大家族を想定して父の兄弟の息子娘(並行いとこ)をも系統に入れると「族外婚」集団となる。嫁を迎える相手先は特定しない。それが正統派族外婚制度となる。

「正統」族外婚を族内婚に切り替えた。
この過程をfactice人工的とレヴィストロースは呼ぶが、その理由は「いとこ系統」を創生する人工作業に尽きる。並行いとこを族内に残し婚姻できないままに置く。交差いとこを族外に放逐すれば婚姻できる。この判定では生物学的、あるいは続柄の遠近を全く考慮していない。人工的に「父の姉妹の娘」との婚姻を優先すると決めただけである。そしてここには族外婚の小集団をより大きな集団が囲み、それは族内婚を実践するに至る工程です。
この主張が族外婚の実践から始まって族内婚を採り入れた族民の思考を想定(シミレーション)となります。

親族の基本構造、限定交換の部、族内婚族外婚の章2 了(2021年5月14日)
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

親族の基本構造、限定交換の部、族内婚族外婚の章1  

2021年05月12日 | 小説
(2021年5月12日)本投稿は「親族の基本構造を解く、本年1月5日に初投稿」の続きとなります。族内婚...の初回ですが、通し番号で19回目。
前の投稿(序章と近親婚の問題)にて近親婚の禁止、交換の原理(必ず不等価)、そしてそれら2の理念を制度化する工程「L'univers de regle規則の宇宙」(4月23日~5月5日の投稿)が文化であるとした。ここまでが「理念」としての人類学とすると、「族外婚、族内婚」以降は理念を応用する想定(シミレーション)となります。章の題名に沿って、族民らから調査した実際の制度と突き合わすのではなく、社会にはこうした仕組みが必要だからそれに見合った制度があるべき、こうした接近方法を取ります。実態を思想に対比する構造主義の理念に則った演繹ですが、一方では人類学の取り組み方とは逆方向となります。
このやり方が抽象化しすぎとの批判を招きました。小筆が読む版は第2版第2刷(1968年)、1版(1947年)出版以降「抽象化」の批判が多く、2版での書き足しにはそれらへの反論が散見される。多くの人類学者とは方向を異にするレヴィストロースの主張が伺え、参考となるがすべて割愛した。


章題の頁、引用文が判読できるかと。


限定交換の部第2章(文全体を通して第4章)Endogamie et Exogamie族内婚族外婚に入ります。冒頭の一文を;
<le groupe affirme son droit de regard sur ce qu’il considère légitimement comme une valeur essentielle. Il refuse de sanctionner l’inégalité naturelle de la distribution des sexes au sein des familles, et etablit, sur le seule fondement possible, la liberté d’acces aux femmes du groupe, reconnue à tous les individus.(49頁)
訳:(遵守すべき一般規則を確立した後)集団の構成員は規則にかなったと考えるところのものを基本的価値とするに至る。すると家族内の性分布の不平等に気づき、これを不当と感じる。行き着く先はただ一つ、集団中の女性への接近の自由である。
<Ce fondement est le suivant : que ni l'état de fraternité ni celui de paternité ne peuvent être invoqués pour revendiquer une épouse , mais que cette revendiction vaut selement au titre par lequel tous les hommes se trouvent égaux dans leur compétition pour toutes les femmes : celui de leurs relations respectives définies en terme de groupe , et non pas de famille.
(同)
訳:この行き着く先(規則の基礎)は以下の通り。兄弟、あるいは父親であったとしてもその係累特権で妻を得ることはできない。妻を求めるには家族での範囲ではなく、集団の範囲となり、集団内の妻問い競争では全員が同じ立場で参加しなければならない。

上2の引用が本章の第一節である。何をレヴィストロースは語るのか。
前回「規則の宇宙」で家族内の女性を近親とみなし、婚姻の対象にならない。これを原初の規則とした。(身近で自由にできる筈の)女は他家族へ嫁ぐことになる、父権、兄弟権なるがあってもそれを家族内で婚姻の具にしてはならない。これをしてレヴィストロースは「家族内の性的不平等、前引用のl’inegalite…des familles」と伝える。ここで彼は女の手当範囲として、家族(系列)を囲むグループ(集団)なる概念を導入する。この集団に属する女、系列を異にするすべて女への接近が許される。
しかしそれら女性には集団内の男すべてが同じく接近可能となる。
父、兄弟の特権を否定する規則が策定された。その規則の結果、男のすべてがすべての女に接近できる別の制度を生むことにつながる。

<Cette règle se montre avantageuse pour les individus, puisq’en les obligeant à renoncer à un lot de femmes immédiatement disponibles , mais limite ou même tres restraint, elle ouvre à tous un droit de revendiction sur un nombre de femmes dont la disponibilité est différée par les exigenaces de la coutume , mais qui est théoriquement aussi élevé que possible, et qui est le même pour tous>
訳:しかるにこの規則は個々には冒険的とみなされる。なぜなら限定され数も少ないけれどすぐに可能なはずの女性群との婚姻を禁止され、その代わりに一定数の女への妻問いの道が開かれる。理論的にはそちらのほうが数は多いけれど、慣習の違いやらで可能性はそれぞれのうえ、誰にでも接近が許されている(それだけ競争が厳しい)のだから。
一つの制度(近親婚の禁止)が立ち上がっても、その制度は過酷な競争を個に課す。成り立つかに疑問が生じる(とレヴィストロースは思弁する)。婚姻できない範疇を決める制度のみでは社会が成り立たない。
男の全員が妻問い競争での対敵者、この社会は効率が悪い。もう一つの制度、婚姻すべき対象を特定する制度が必要となる。

<En effet les règles du mariage ne font pas toujours qu’interdire un cercle de parenté : parfois aussi , ells en assignent un , à l’interieur duquel le mariage doit nécéssairement avoir lieu , sous peine de provoquer un scabnadale du même type que celui qui resulterait de violation de la prohibition elle-même>(53頁)
訳:婚姻規則は必ずしも親族間の交流を常に禁止するものではない。時には親族内部でも特定の関係ならば可能たらしめる場合もある。それが(他の社会では)近親婚の禁止破りとされる危険を犯しても。
続く文は;
<Deux cas sont à distinguer ici; d’une part l’endogamie, d’autre part l’union préférentielle、c'est à dire l’obligation de se marier à l’interieur d’un groupe défini objectivement dans le premier cas , et , dans le second, l’obligation de choisir pour conjoint un individu qui présente avec le sujet un rapport de parenté déterminé.
訳:この場合には2の可能性を推定できる。その1は族内婚、もう一つは優先組み合わせ。前者は具体的に規定されている集団の内部でのみ結婚を可能とする。後者では特定の近親関係にあるもの同士を優先させる制度である。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする