蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

親族の基本構造 族内婚族外婚 2

2021年05月14日 | 小説
(2021年5月14日)
<Deux cas sont a distinguer…前回(12日)の最終>この後の文で「systemes classificatoires de parente」から「優先preferentiel=婚姻の優先規定」を求めることは難しいとしている。その意味は「優先婚」なる言葉も、その関係を表す親族用語も見つけられない事情を意味する。結婚前に優先権を公示する「婚約者いいなずけfiance」なる語はどの民族にもあるだろうが、これは対外にその地位を示す目的にあり、親族用語とは異なる。
このあたりは蕃神の解釈です。特定の係累関係にあれば必ず「婚姻優先」が設定され、いいなずけと呼称される慣習が日本である、ないしいずれかの民族で優先を示す親族用語が存在するかもしれない。ご指摘を。なおこの優先婚の概念は「一般的」人類学者から「予約婚」である。近親ではあるが、係累関係から機械的に優先を決めるのではないとの批判を受けている(第2版の序章で取り上げられている)。
この「優先」は親族制から離れた「経済、地理的」条件でより強く決められるのかもしれないが、レヴィストロースはそこには踏み込まず族内で、近親の意味を持つ語で特定され者同士はそもそも多く数えられると述べるにとどまる。
用語として近親関係を特定される集団が族の内部と規定される。多くの民族が族の仕組みの中で交差いとこの婚姻を推奨している。

<Ainsi, tout systeme de marriage entre cousins croises pourait etre interprete comme un systeme endogamique, si tous les individus, cousins paralleles entre eux, se trouvaient designes par un meme terme, et tous les individus, cousins croises entre eux, par un terme different.
訳:交差いとこ婚とは一つの族内婚として評価できる。なぜなら平行いとこを言い表す用語が一つに統一されているとして、そうした場合、交差いとこは別の言葉を用いることになるから。
平行いとことは父の兄弟(あるいは母の姉妹)の子女。交差いとこは父の姉妹(母の兄弟)のそれら。先住多くの民族では両者を区別する。呼称におけるいとこ峻別の意味についてレヴィストロースの説明は;
<Cette double appellation pourrait meme subsister posterieurment a la disparition du systeme matrimonial considere et, comme consequence, un systeme exoganique par excellence ferait place a un nouveau systeme , qui presenterait au contraire toutes les apparences de l’endogamie.(53頁)
訳:この2重の呼称は一の婚姻規定が消滅したあとも、用語のみが残ったと解釈できないだろうか。どのような過程かといえばかつて厳格な族外婚が機能していて、それが新たな体系、全く異なる様相をみせる族内婚に取り替わった名残であろうか。(動詞は仮定法現在を用いる、推測がにじむ文意となる)
2の引用の意味合いを探る。
原初には族外の婚姻体系が存在していた。これは前節(Introduction)で説明している「近親婚を禁止して、他の系統から嫁を貰う」理念を具体化した社会制度である。それが族内婚に入れ替わった。この考え方も前節にある「特定の近親関係にある女」への優先権(union preferentielle)を確立するために「優先婚」を制度として採り入れ(憶測に近い)に対応する。
レヴィストロースは語る。いとこに対する2通りの区別呼称が族内婚への変遷の証拠であると。このあたりのつながりに小筆は考えが至らない。「解説」してるんだから何がしかの解釈を開陳しないとならない。そこで;
原初の婚姻形態は「近親婚の禁止」のみ。族民社会に応用すると、族外婚強制の制度となる。内部には交差いとこ、平行いとこの呼称区別はあったが、それは系列とし分別するのみで、いずれも近親だから婚姻は禁止であった。これがconvertion factice人工的過程(後述)を経て、交差いとこを婚姻優先させる制度に切り替わったと読みたい。
近親を表す用語となる父母、息子娘、叔父叔母など、そうした呼称を持つ相手との婚姻は厳禁だった。並行、交差に関わらずいとこにも呼称が設定されていたのだから、婚姻を禁止していたはずだった。この論理です。
続く文章(未引用)では、原初の族外婚制度は「authentique正統」で後に入れ替わった族内婚は「見せかけostensible」と加えている。
そこで;
3の文章の段落での主張をまとめると;
レヴィストロースはそもそも族外婚制度が厳格に維持されていた。しかしその制度は一人女を多数男の「妻問い」競争に晒し、男同士の争い激化が族民社会の損失と知るに至って、<convertion factice>人工的転換を経て、近親ながらも交差いとことの婚姻を認めた。交差いとこに優先権を与え、他男からの「粉かけ」を防ぐ制度に練り上げたと(部族民解釈)。
その証拠がいとこ呼称の2重であるとする。


画像は前投稿のスライド、

ここでの系統は家族を念頭にしているが、大家族を想定して父の兄弟の息子娘(並行いとこ)をも系統に入れると「族外婚」集団となる。嫁を迎える相手先は特定しない。それが正統派族外婚制度となる。

「正統」族外婚を族内婚に切り替えた。
この過程をfactice人工的とレヴィストロースは呼ぶが、その理由は「いとこ系統」を創生する人工作業に尽きる。並行いとこを族内に残し婚姻できないままに置く。交差いとこを族外に放逐すれば婚姻できる。この判定では生物学的、あるいは続柄の遠近を全く考慮していない。人工的に「父の姉妹の娘」との婚姻を優先すると決めただけである。そしてここには族外婚の小集団をより大きな集団が囲み、それは族内婚を実践するに至る工程です。
この主張が族外婚の実践から始まって族内婚を採り入れた族民の思考を想定(シミレーション)となります。

親族の基本構造、限定交換の部、族内婚族外婚の章2 了(2021年5月14日)
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