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地味ログ東洋硬化.うろつき雑記

寒い時も暑い時も、寒い場所も暑い場所も、処かまわず神出鬼没な東洋硬化の表面処理を、ポップに語ります。

野田知佑とクーパーとバーグマンとアーネスト・ヘミングウェイ

2006年04月27日 00時28分13秒 | 毎日がつらつらと過ぎていきます


ゴールデンウィークに山に行くか、川に行くか、迷っています。

山になるのだったら、四国の石鎚山か剣山を登るつもりだし、川ならば、中国地方の
江の川か錦川をカヌーで下ろうかと思っています。

我等が筑後川は、この季節はまだまだ水量が少なすぎて、下る気になれません。

夏の終わりから秋にかけての増水期ならば、筑後川温泉付近から西鉄宮の陣駅ぐらい
までなら、なんとかなるし、水の臭いもそれほどではありませんので、その頃にでも
下ろうかと思います。

菜の花の季節に筑後川を下った野田知佑氏は、久留米付近の印象をかなりの量、書き
込んでおられます。長くなりますが、流用します。

                     (新潮文庫「日本の川を旅する」P294付近から)

 早朝出発。
 春らんまんの筑後川を下る。川の両側の広い土手に菜の花のカーペットがずっと続
く。
 風が吹くと、土手向うの桜の花びらが菜の花のそれといり混って川を舞った。
 筑後川は上流から河口まで、ぎっしりと人間が住みついた川だ。暖かい山陽や九州
ではどこでもそうだが、山深い源流部にも人家が多く、川の水は早くも人の臭いがす
る。川の風景の中にはいつも人がいた。川旅の感傷など少しもない賑やかな川だ。
 九州一の大河というが、数字の上で見るとこの川が小さいので意外な思いがする。
川の長さ、流量ともに日本で20傑の中に入らない。全体に川の小さい九州では、長
さこそ1位だが、流量は4位。ただ、最大流量と最小流量の差を表わす河況係数が国
内では紀の川に次いで2位。つまり、雨の多い時はどっと流れ、あとはいつもカラカ
ラ。まるで江戸っ子のフトコロみたいな川だ。
 下流の久留米の人曰く、
「ああた、夏の日照りの続いた時にゃ、この川は尻からげて渡れますばい」
 この川が大河と呼ばれるのは、数字の上からではなく、流域に抱える人口の多さ
(流域人口110万)、人々にとっての川の存在感を尺度にしているのであろう。
                    (中略)
 久留米市内に入ると川は淀んで更に濁り、沼のようになる。水門式の舟通しを持っ
ている小森野堰を越えた。堰下に海から遡ってきた稚アユが溜っている。それをねらっ
て大勢の人が釣り竿を出していた。アユはもう10cmの大きさになっている。
 うしろから見ているぼくを意識して一人のおっさんが大声で呟いた。
「これはな、アユじゃなかと。朝鮮バヤたい。チョーセンバヤ」
 朝鮮バヤとは筑後川の猟師が解禁前に密漁したアユを売る時の別名である。
 水天宮が左手に見えてきた。筑後地方の中年以上の人は「水天宮」の名を耳にする
とみんな懐かしそうな顔つきをする。八月の夏祭りはこの地方最大の祭りだ。自動車
が普及するまでは、村人を満載した舟が、支流、枝川を下り、本流にやって来て、川
を埋めた。上流から来た舟は満ち潮を待って川を遡り村に帰るのだ。
 お宮の下に舟着き場があって、川から境内に上る広い階段がついている。
 そばのテトラポッドの上に座ブトンを敷き正座したお婆さんが釣りをしていた。カ
ヌーを見て目をパチクリさせる。
「あらーッ。あんた面白かもんに乗っとるねえ」
 婆さんが酢コンブをひと掴みくれる。口に入れるとミミズの匂いがした。ヤマベを
釣り上げると、大声で釣れた、釣れたと連呼している。血液がとても濃厚な人である。
                                                     』




どんなもんです? 小森野や水天宮のエピソードが出てきて、地元民の立場からする
と、とてつもなく身近に感じる文面でしょうが。他にも長門石の話も出てきますが、
少し遡った、田主丸のエピソードが、これまた傑作なので、抜き出してみます。

                     (新潮文庫「日本の川を旅する」P292付近から)

 夕方、ひとしきり春雷が轟き、雨止む。田主丸の街に出て、赤ちょうちんで飲んだ。
 田主丸は植木の町で、あたりの畑には様々な植木や苗がずらりと植えられている。
隠居後もちょっと植木をいじるといい金を稼げるので、この町の老人たちは鼻息が荒
い。良く目の光った一人の爺さんが、ぼくのコップにどんどん酒を注いだ。断ると殴
られそうなので、どんどん飲む。昔、工兵隊に居た、という。久留米の工兵隊といえ
ば、戦前の教科書に載っていた「肉弾三勇士」で有名な部隊である。爺さんはいまで
も、息子や孫が気に食わん時は張り倒す。殴って足払いをかけるから、やられた方は
体が宙に浮いてドサリと落ちるのだそうだ。老人は自信満々である。
「今夜はうちに泊まらんの」
 彼は半ば暴力的にぼくを家に連れて行った。
 彼の娘だという中年の婦人が出てきた。彼女は「良かもんば見せちゃろ」と有無を
いわせず、ビデオに撮った映画「誰が為に鐘は鳴る」をかけた。
 ラストで若きクーパーがバーグマンに別れを告げるシーンになると、おばさんは小
さな眼に涙をいっぱい浮かべて、せりふを先取りした。
「ホラホラ。<お前が行けば、おれも行くことになる>ちいわっしゃるよ」
 すると、感心なことにクーパーがその通りにいった。おばさんだけのために鐘は鳴
り、映画が終ると、彼女はぼくの顔をのぞきこんできいた。
「どうね。良かったろが?」
「ハイ。とてもオモシロかったです」
「そんならもう一回やろうか」
 まあまあと家の者が止める。おばさんは気分が良い時は、一日に三、四回このビデ
オをかけ、しっかり泣いて楽しむんだそうである。
                    (後略)                            』
 



田主丸って凄い、と知らない人は間違いなく思ってしまう迫真の描写です。



上に出た「誰が為に鐘は鳴る」のストーリー中で、主人公が砲撃により左足を折られ、
独り戦場に残らなければならなくなり、恋仲になった娘に別れを告げるシーンを、ヘ
ミングウェイの原作から抜粋してみたいと思います。

                (新潮文庫「誰がために鐘は鳴る 下」P401付近から)

「べっぴんさん」と彼はマリアに言い、彼女の手をとった。「よく聞いてくれ。もう
マドリードへは行けなくなったよ」
 彼女は泣きだした。
「いけないよ、兎さん、泣いちゃいけない」と彼は言った。「よく聞いてくれ。ぼく
たちはもうマドリードへ行けなくなった。しかし、ぼくはどこへだって、きみの行く
ところへついて行く。わかったね?」
 彼女は、何も言わず彼にすがりつき、頭を彼の頬に押しつけた。
「これからぼくがいうことを、よく聞くんだよ、兎さん」と彼は言った。非常に急が
なければならないこともわかっていたし、汗もひどく出たが、これだけは言って、よ
くわからせておかなければと思った。「兎さん、きみは出かけるんだ。だが、ぼくは、
きみのそばを離れない。ふたりのうちひとりがいるかぎり、ふたりともそこにいるん
だ。わかったね?」
「いやだわ。あたしは、あんたといっしょに、あとに残るわ」
「いけないよ、兎さん。ぼくがこれからやる仕事は、ひとりでなければいけないんだ。
きみがいては足手まといになるんだ。きみが行ってくれれば、そのときは、ぼくも行
くんだ。どうしてそうなのか、きみにはわからないのかい?ふたりのうちどちらかが
いるところには、いつもふたりともいるんだよ」
「あんたといっしょに残るわ」
「いけないよ、兎さん、よく聞いてくれ。こればかりは、ひとといっしょにはできな
いことなんだ。どうしても自分だけでやらなければならないんだ。だが、きみが行っ
てくれれば、ぼくも、きみといっしょに行くんだ。ぼくも行くというのは、そういう
ことなんだ。ねえ、これで行ってくれるね?きみは、いい子だ、親切な娘だ。ぼくた
ちふたりのために、きみは行くんだ」
                      (後略)                        』


で、何で原作まで持ち出して書き写したかと言うと、つまり、僕が昔からヘミングウェ
イのファンであるものだから、ついでに載せてみたくなったという理由からなのです。

この「誰がために鐘は鳴る」も良い作品なんですが、ヘミングウェイにしては、やや、
感傷的に流れている様にも思えます。やはり、何と言っても、「日はまた昇る」が最
高かな、と個人的感想を持っています。設定から文体まで、それはそれは全て格好良
いです。ヘミングウェイのハードボイルドな作風に痺れまくります。

それと、ヘミングウェイは、短編がまた良いです。短編集「われらの時代に」「女の
いない男達」「勝者には何もやるな」あたりの「ニック・アダムス」ものが、長編に
も増して、無駄のない贅肉を削ぎ落とした文体と構成で作り上げられており、読後、
唸ることしきりです。



野田知佑氏の文筆家としての腕前は、かなりたいしたものです。そのうちまた、この
ブログに、紹介がてら掲げてみたいと思い始めました。


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