鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

雨中日記

2005-07-16 23:29:57 | 自然(全般・鳥、海獣以外)
 先週までの30℃を越える猛暑が嘘のような曇天が、ここ数日続いている。週間予報を見ても暫くは曇りと雨の繰り返しで気が滅入る。北海道には梅雨は無い筈なのだが、6月後半から7月前半のこの時期、すっきりしない天候が続くことが多く、蝦夷梅雨(えぞつゆ)などと言われたりする。これは熱帯気団と寒帯気団の境界である寒帯前線が、北海道にもかかることが多いためらしい。
 今日も十勝野には低い雲が垂れ込めていた。内陸では時折薄日も差したが、川沿いに出ると完全に霧雨の状態である。十勝川沿いにはかなりの内陸にまで霧が入ってくる。かつては湿原の中を蛇行して流れていた暴れ川を、直線的な水路に改修したためだろうか…。

霧雨に煙る十勝川
DSC_2191
Photo by Chishima,J.

 葉に纏わりついた水滴が瑞々しいオオイタドリ群落の背後、1本の枯れ木にチゴハヤブサの姿を認めた。本来はふわふわな羽毛も折からの霧雨でじっとりと濡れ、何ともみすぼらしい。普段なら飛ばれてしまいそうな距離だが、濡れた翼で飛ぶのが億劫なのか、横目でこちらを一瞥しながらも飛び立つ気配は一向に無い。

冷たい雨にじっと耐えるチゴハヤブサ
DSC_2179
Photo by Chishima,J.


<script src="http://j8.shinobi.jp/ufo/094328702"></script>
<noscript>

無料ホームページ</noscript>



 チゴハヤブサは、日本では北海道と東北地方の一部でのみ繁殖するハヤブサの仲間であるが、十勝地方では比較的普通に観察できる猛禽類といえる。5月10日前後に渡来し、10月上旬までは見られる。平野部の農耕地に多く、農耕地内の防風林にあるカラスの古巣は格好の営巣場所である。猛禽類というと他の鳥類や哺乳類を捕食するイメージが強いが、本種は専ら昆虫類を捕食する。写真のように捕えた昆虫を、脚で掴んだまま空中で食べている姿を観察することが多い。夏の終わりから秋口にかけては、湿原の上空などを旋回しながら、トンボ類をひっきりなしに捕えては食べているのをよく目にする。勿論鳥類もその食物には含まれており、秋に砂浜でトウネンを追いかけているのを見たことがある。

チゴハヤブサ4態

DSC_0092
Photo by Chishima,J.

飛翔時には、アマツバメ類に似た鎌型の翼が特徴的
DSC_0636
Photo by Chishima,J.

農耕地内の電柱に見られることも多い
_050627_0954_no04
Photo by Chishima,J.

捕らえた昆虫を空中で食べるチゴハヤブサ
DSC_2159
Photo by Chishima,J.

 堤防上を進んでいると、脇の叢から子ギツネが現れた。晩夏から初秋の子別れにはまだ早いが、どういうわけか母親の姿は付近に見当たらない。狩りにでも出かけたのか。久しぶりに見た子ギツネだが、1ヶ月前と比べるとだいぶ大きくなっている。それでも道端のクローバー相手にじゃれついて遊ぶ姿は、あどけない子供そのものである。私らの姿を見て一度は遠ざかって行ったが、路傍での戯れに夢中になる余りか、再び近付いてきた。折角の機会とばかりこちらもシャッターを切るが何しろこの天候、シャッターが落ちるよりも早く子ギツネが動く。

みすぼらしい雨中の子ギツネ
DSC_2209
Photo by Chishima,J.

 最近またキツネが増えたように思う。私が北海道に来た10年少し前は、本当にキツネが多かった。帯広の郊外には、夜になると市街地のゴミ捨て場を漁りに行く「都市ギツネ」達がいた。その後疥癬が流行したと言われた頃に、確かに目にする機会は少なくなった。それと同期して、定量的なデータを集めていたわけではないが、それまで余り出会うことの無かったエゾユキウサギの姿や痕跡を目撃することが多くなった。そして、ここ2、3年はキツネとの出会いの頻度がまた増えているように感ずる。エゾユキウサギやエゾライチョウは今後どうなってゆくだろうか。

五月の子ギツネ 
ただし上の写真とは別の場所で撮影
fox
Photo by Chishima,J.

 堤防斜面に打ち込まれた木杭の上で、ヒバリが喧しく囀っている。ヒバリは、ここ十勝では3月下旬、大地がまだ雪と氷に閉ざされている時期にいち早く渡来し、間近に迫った新しい生命で溢れかえる季節の存在を、歓喜の歌で高らかに鼓舞する春告鳥である。その春告鳥がこんな遅い時期の、それも日没間際の薄暮時に熱心に囀っているというのは、余程配偶者に恵まれない「もてない」個体なのか。それとも何回も繁殖を繰り返す旺盛な雄なのか。はたまた本種の囀り自体になわばりの誇示や異性の誘引といったものとは別の機能が存在するのか。

薄暗い原野で自己の宣伝に勤しむヒバリ
DSC_2227
Photo by Chishima,J.

 想像を逞しくしている内にも、ますます低く厚く地表を覆った雲は昼間の残光を遮り、夜の帳を招き入れようとしていた。こんな日は早く家に帰って、せめて南国の太陽に思いを馳せながら泡盛のロックでも呑むに限る。そう思うとエゾセンニュウとアマガエルの夜想曲に包まれつつある原野を後に、一路帰途についた。

(2005年7月4日     千嶋 淳)