Tomotubby’s Travel Blog

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残酷刑を見物するということ

2005-10-30 | Asia 「圓」な旅
ちょうど本年2005年が中国で酷刑が廃止されて百周年だったこともあり、このところ、中国の残酷な刑罰について(グロテスクという不評を気にせず)続けて書いてきました。だからといって、百年前までああいう残虐な刑を行っていた中国人は残酷な民族だとか人道的でないとか、ここで言うつもりは毛頭ありません。

残酷な処刑は、公開を前提としていたことから判るように、(権力者にとっての)悪事を働けばこのような罰が与えられるのだ。と見せしめにして、犯罪を抑止するために行われた筈です。中には夏の桀王や殷の紂王のように処刑を娯楽代わりにしていた皇帝もいたかもしれませんが。五代十国時代に凌遅刑が極刑として取り上げられたのは、その時代の権力基盤が脆弱で、恐らく犯罪が多発していたことに因るのではないかと思います。

このような犯罪抑止策は、寺に子供を連れて行き、地獄絵を見せて、悪事を働くと地獄に堕ちると諭すのに似ています。悪事を働いてはいけない。という決まりごとの書かれた本を子供に読ませるよりは、悪いことをすれば必ず罰せられることを、具体的な物語にして読ませた方が効果があるからです。さらに、その物語を絵画や映像にして見せるとさらに効果が高まるはずです。ところが、そこには落とし穴があります。物語性が強くなればなるほど子供は受け身になり、そこに本来意図していなかった娯楽性のようなものが生じてしまうのです。つまり「見物」の側面が強くなるわけです。

このブログで特集しているタイガーバームガーデンの園内に造られた膨大な塑像たちにしても、多くは物語世界の出自を持ち、寺の地獄絵と同様の役割を果たすべく造られた筈です。ところが、庭を訪れる行為自体がいつしか物見遊山と同等の行為になり、ついには偶像に込められた物語までが忘れ去られてしまいます。物語性を喪った偶像を眺めるのは、もはやコンクリートで作られたキッチュ・アートの鑑賞に過ぎないのです。(一部の愛好家にとっては、それはそれで楽しいことなんですが...)

少し話が飛躍しますが、世界宗教である、仏教、キリスト教、ヒンドゥー教は、偶像崇拝を利用して、教義を判りやすく表現し、信仰を広めることに成功しました。しかし、それと同時に、これらのどの宗教においても、偶像自体が教義や信仰を離れ、キッチュ・アートと化してしまう危険性を抱えています。特に大乗仏教は、随分前から危機に瀕していると思われます。かのイスラム教が偶像崇拝を禁じたのは、この危険性を遠ざけるためだったのではないかと思います。

話が刑罰から逸れてしまいましたが、残虐な公開刑も回を重ねると、本来意図した犯罪抑止の効果が薄れてくるようです。そもそも大衆にとっては公開刑の見学が自由なので、惨たらしい処刑をわざわざ見に行くものの大部分は「見物」が目的です。統一王朝が長く続いた天下泰平の時代であればなおさらで、現代で言えばホラー映画を見に行くようなものでしょうか。

それから、残虐な処刑により抑止効果が働くほどの犯罪とは、所謂「大罪」です。万人がそのような大それた犯罪を起こすわけではなく、ごく少数の肝っ玉の座った人間が起こすわけです。そのごく少数の人間が、都で刑を見物したり、マスメディアが発達していない時代に、人づてで残虐刑の様子について聞いたりしたかというと、その確率はぐっと下がる筈で、実のところ抑止効果はあまり期待できなかったのではないかと思われます。都に住む人たちにに対して、漠然と皇帝権力を感じさせることはできたかと思いますが。

もし百年前に写真技術が発達していて、凌遅刑に処せられたフー=チュ=リの写真が清帝国の津々浦々までに流布されたとすれば、どうだったでしょう? 子供が見ればトラウマになりそうな怖い写真ですから、おそらく犯罪抑止の効果は絶大だっただろうと思います。

こうしてみると、凌遅刑に処せられたフー=チュ=リの周りに群がる北京の群衆、それをカメラで撮影したヨーロッパ人、「遅れた東洋の残酷な慣習」として再生産された写真を収集して眺めていたジョルジュ・バタイユらヨーロッパ人たち、さらにはバタイユ「エロスの涙」でその写真を目にした百年後の私たちと、刑が行われた現実から、地理的にも時間的にも離れれば離れるほど、刑を見る行為における「見物」さらに言えば「娯楽」の度合いは強くなっていくようです。

その不道徳すれすれの「見物」「娯楽」を安心して行うようにするため、最初にも書きました「悪いことをすれば罰せられる」という教義と「死刑囚=大罪人」という暗黙の認識が利用されます。このストレートで判りやすい教義と認識により、刑とは無関係な私たちは守られています。


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