モノトーンでのときめき

ときめかなくなって久しいことに気づいた私は、ときめきの探検を始める。

ときめきの植物雑学 その16:1千年以上の時空を越えたディオスコリデス

2008-01-17 05:18:02 | ときめきの植物雑学ノート
その16:1千年以上の時空を越えたディオスコリデス

ディオスコリデス『マテリア・メディカ』
薬学の祖といってもよいヒトがいる。
デイオスコリデス(Dioscorides 1世紀頃)という。
氏素性はよくわかっていないが、小アジアといっていた現在のトルコ、アナトリア半島キリキア地方の出身で、
ローマのネロ皇帝(在位54- 68年)の時代に、軍医として従軍し、各地を旅行して薬物を調査研究したという。

デイオスコリデスは、俗に“マテリア・メディカ”といわれる、
『薬物について(De Materia Medica Libriquinque)』という草本書を、1世紀の頃に書いた。

この本が、ヨーロッパだけでなくイスラムの世界でも、15世紀まで文献として通用し、
16世紀、本草書の時代のNewが出て、普及・浸透するまで使われたというからすごい。

ビザンチン写本(ウィーン本)で時空を超える
また、『マテリア・メディカ』は、現存するものがなく写本が残っているだけだが、
ギリシア語・ラテン語・ペルシア語・ヘブライ語・トルコ語などの書き込みがあり、
西ローマ帝国崩壊後は、イスラムの世界で活用されていた。

写本で有名なのは、512年につくられたビザンチンの画家が写した写本で
ディオスコリデス・ウィーン写本とも呼ばれているが、(Here⇒オーストリア)
1202~1204の第4回の十字軍で、ヨーロッパ側が偶然にこれを手にいれ、
1569年,神聖ローマ皇帝マクシミリアン2世が購入し,ウィーン帝室博物館に収められた。

1492年 フェラーラ大学医学教授ニコロ・レオニチェーノによって
『プリニウス及びその他の著作家が犯した薬草についての記述の誤り』が公表され、
ディオスコリデスと同時代人のプリニウスの『自然誌』が批判された。
ここから、『自然誌』『マテリア・メディカ』への盲目的な信頼が崩れ始め、新しい思考が誕生する。

アートとサイエンスの結合
それにしても『マテリア・メディカ』は、1千年以上も薬物学・植物学のテキストとして権威を保持し続けたが、
その理由・要因を探ってみよう。

『マテリア・メディカ』は、写本によって異なるが、600種ほどの薬の説明があり、
そのうち500種ほどが植物で占められている。
原著は、文章だけと思われるが、前述の“ウィーン本”では、
植物画の父といってもよいクラテウアス(Crateuas 紀元前132-63年)の写実性の高い植物画を使用しており、
この周囲にテキストを配置している。
確かに、優れている。1500年前の作品・本草書とは思えない。

「百聞は一見にしかず」ということわざがある。
音・コピーは創造を刺激する。
ということは、発想を豊かにするので、見たことのないものは、様々な形状と色彩が可能となる。
アートは、生き方を豊かにするのでこれでよい。
科学は、再現が重要であり、そのためには、同じもの異なるものその違いが明確でなければならない。
植物・ハーブが面白いのは、アートとサイエンスと経験とが一体になって動いている。
しかも、他の領域よりも早く動いているところが面白い。

コピーライター・ディオスコリデスとデザイナー・クラテウアスとが優れていたから
千年も超えられた。
ということで終わりにしたいが、コピーライターのコピー作成の考え方をまとめておかないと終われそうもない。

科学は細分化である
『マテリア・メディカ』は、600種もの薬物を区分けし、体系を作りそれを全5巻に記載した。
区分け、体系がここでは重要であり、これまでは、ABC順とか薬効とか利用の仕方で区分けしていた。
ディオスコリデスは、以下のように分類し
1巻:芳香薬・香油・軟膏・樹脂・樹皮・果木・低木・果物
2巻:動物・蜜蝋・牛乳・獣脂・穀物・疎集・香辛料・毒草
3巻:日常的に使われ薬草になる根・汁・苗・種子
4巻:以上でふれていない草・根
5巻:ぶどう酒・その他の酒・酢・金属・鉱物

個別の薬物に関しては、名称・産地・形態・性質・効用・使用法について記載した。

16世紀までは、新しい知識の追加もなく、薬草だけが植物としての関心であり、
ディオスコリデス以上の分類が考えられるのは、18世紀のリンネとなる。
15世紀以降アメリカ大陸などからの珍しい植物などが増加し、これらを理解するための道具が必要になった。
従って、薬草だけでなく植物自体の分類に関心が向いていき、また、自然の理解の仕方も大きく変わることになる。

蛇足:古代ギリシャの医薬分業
一朝一夕で素晴らしい成果を出せるものではない。
その時代までの社会に存在しているナレッジの水準が高かったので、
これらの集大成と統合の切り口がよかったのだろう。

この時代の医者と薬剤師に当たる者とは、分業体制にあり、
身分の高いヒトを見る医師は神殿の僧侶であり、
世俗の医師・薬剤師的なリゾトモス(rhizotomos)は、大工と同じ様に身分が低い職業であったようだ。
リゾトモスは、野山を駆け巡り、薬草・根などを採取するので“草根採取人”ともいう。

このリゾトモス・世俗の医師・神社の僧侶などの薬草と効果に関してのナレッジ水準の向上
そして薬草園の薬草育成などに1000年以上も貢献したというからすごい。



<<ナチュラリストの流れ>>
・古代文明(中国・インド・エジプト)
・アリストテレス(紀元前384-322)『動物誌』ギリシャ
・テオプラストス(紀元前384-322)『植物誌』植物学の父 ギリシャ
・プリニウス(紀元23-79)『自然誌』ローマ
⇒Here ディオスコリデス(紀元1世紀頃)『薬物誌』西洋本草書の出発点【その16】
⇒Here 地殻変動 ⇒ 知殻変動【その15】
・イスラムの世界へ
⇒Here 西欧初の大学 ボローニアに誕生(1088)【その13】
⇒Here 黒死病(ペスト)(1347)【その10】
・レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)イタリア
⇒Here コロンブスアメリカ新大陸に到着(1492)【その4~8】
⇒Here ルネッサンス庭園【その11】
⇒Here パドヴァ植物園(1545)世界最古の研究目的の大学付属植物園【その12】
・レオンハルト・フックス(1501-1566)『植物誌』本草書の手本で引用多い、ドイツ
・李時珍(りじちん 1518-1583)『本草網目』日本への影響大、中国
⇒Here 花卉画の誕生(1606年) 【その1~3】
⇒Here 魔女狩りのピーク(1600年代)【その14】



コメント    この記事についてブログを書く
« ときめきの植物雑学 その1... | トップ | 黒い花 ディスコロールセージ »

コメントを投稿

ときめきの植物雑学ノート」カテゴリの最新記事