いよいよ1年間の締めくくりの3月を迎えます。
3月の和名は「弥生(やよい)」。寒い冬を乗り越えて、草木が弥(いや=勢いよく)生い茂ることからこの名が付けられました。また3月に入るとすぐに二十四節気のひとつ「啓蟄(けいちつ)」(今年は3月5日)を迎えます。こちらもまた「冬ごもりしていた虫たちが地中から出てくる頃」とされています。「蟄」には虫が土籠(つちごもり)りする、「啓」には閉じていたものを開くという意味があります。
英語で3月は「March」(マーチ)です。それは農耕と軍事を司るMars(マルス)というローマ神話の神の名前に由来するそうです。古代ローマでは、厳しい寒さが続く冬の間は農耕もできず、また領土を広げる戦(いくさ)も休んでいました。そして、春の訪れと共に農耕に取り掛かったり、戦に出かけたりしたことから、3月がMarchと名付けられたとのこと。「行進曲」もMarchと呼ばれますが、これも軍神Mrasにちなみ、勢いよく前進するという意味が込められています。
このように、洋の東西を問わず3月には暖かくなるこの月ならではの名が冠されました。
3月といって思い浮かぶのは「雛(ひな)祭り」。その起源は中国から渡来した「上巳(じょうし)の節句」です。中国ではこの日、水辺で身を清め穢(けが)れをはらう習慣があったそうです。それが日本に伝わり紙で作った人形(ひとかた)に穢れを託して川に流す「流し雛」が生まれ、やがて平安貴族の間で宮中の暮らしをまねて遊んだ「雛遊び(ひいなあそび)」につながり、今のような豪華な雛飾りができました。また雛祭りは「桃の節句」とも呼ばれます。それはちょうど桃の花が咲く頃だから、あるいは桃には魔除(まよ)けの効果があるからと言われています。今の暦では、まだ桃の花が咲くには早い時期ですが、今年は3月26日が旧暦の3月3日にあたり、ちょうど桃の花の季節に重なります。
3月20日は「春分の日」です。昼と夜とが同じ長さになるこの日は、1948(昭和23)年から「自然をたたえ、生物をいつくしむ」日として国民の祝日になりました。またこの日は、春のお彼岸の中日(おひがんのちゅうにち)にあたります。仏教では太陽が真西に沈むこの日は、西にあるご先祖様がいる世界「彼岸」と私たちの世界「此岸(しがん)」が最も通じやすくなるとされ、この日はご先祖様を供養したりお墓参りに行ったりする日とされています。
お彼岸といえば春は「ぼたもち」秋は「おはぎ」を食べる習慣があります。それは餡(あん)に使われる小豆には悪いものを追い出す力があるとされているからのこと。「ぼたもち」は春に咲く牡丹から、「おはぎ」は秋に咲く萩からその名が付けられ、また小豆を収穫した秋はまだ殻(から)が柔らかいので粒餡に、殻が固くなる春は小豆をつぶしてこし餡にしているともいわれています。
カトリック教会でも「春分の日」は特別な意味を持っています。イエスさまが復活されたことを記念する復活祭は「春分の日の直後にくる満月の次の日曜日」と決められています。月の満ち欠けは1か月かかるので、早い年は3月下旬に遅い年は4月下旬に復活祭を迎えますが、その基準は暖かくなるこの季節に迎える春分の日になっているのです。
「弥生」にゆかりのあるものは他にも「春雷」「春一番」「おぼろ月」「椿」「鰆(さわら)」そして「卒業」……。まだまだたくさんのものがあります。このような暮らしに根差した行事や習慣、出来事、言葉には、昔から生きてきた人々の思いや由来がかくされています。何となく迎えている日々の行事などに込められた願いや理由を掘り起こしながら、一つひとつの行事を味わってみられるといいですね。
(園長 鬼木 昌之)