すずめ休憩室

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気の向くままにつづってみました。

親なるもの 断崖

2008年01月04日 | 漫画・本
 
「親なるもの 断崖」上下巻 曽根富美子 宙出版

昭和2年、北海道の室蘭にある遊郭に東北の寒村から16才の松恵を筆頭に4人の少女が売られてきた。飢えに苦しむ家族を救うため、自らの運命を受け入れやってきたのだが、身を売る生活に耐え切れず、初日で松恵は首を吊る。11才だった妹の梅は姉の墓を建てるため、女の地獄とも言える女郎の道へと進むのだった。遊郭で生きるしかなかった梅、武子、道子を待ち受ける運命とは・・・


ネットを始めて少しした頃、自分の地元を題材としているこの「親なるもの 断崖」という作品を知りました。検索すると北海道新聞のコラムでも取り上げられていたそうで、知るほどに「読みたい」という意識が強くなりました。ですが絶版・・・それがこの度文庫として復刊したので早速買っちゃいました

ここ舞台となっている地球岬は私も釣りに良く行くところ。太平洋にしては珍しく切り立った崖です。岬から眺める海は180度の水平線が広がります

ずーっと地元で過ごしてきましたが、室蘭に遊郭があったのはこの作品を知るまで知りませんでした。作中にも出てくるイタンキ浜にはタコ部屋労働の果て亡くなった人が埋められているというのは小学生の頃に教わりましたが、さすがに小学生にはその時代を影で支えていた「遊郭」のことは禁句だったらしい(苦笑)

曽根さんの漫画はお借りして数作読ませて戴きましたが、底辺で生きる女性、女であるが故の悲しみ苦しむ女性の姿を綺麗ごとを一切加えず、生々しいまでに書き上げる方だなぁと感じます。

遊郭を題材にした漫画は他にもありますが、ここまで掘り下げて底辺で生きる女たちを書いた作品があっただろうかとすら思う。親のため、家族のために売られた来たのに、まるで人として認められないような偏見と生活を強いられ、借金に縛られ死ぬまで逃れない女たち。
実際そういう生き方しか出来なかった女性も多かったんでしょう。

作中のお梅のように途中で身請けされる女性はまれで、道子のような最期をたどった女性も少なくなかったはず。仮に身請けされても一生「元・女郎」という偏見は付いて回ったのでしょうし・・・。

幕西遊郭の文書は殆ど残っていないそうですが、数年前に見つかった「精算帳」には1000円で家一軒立つ時代に娼妓1人平均の借金が963円、1カ月の稼ぎである「玉代(たまだい)」は11円から49円との記述があったそう。
そういう生活を強いられていた女性が江戸時代ではなく、昭和32年まで存在していたとはかなり衝撃でした

「自分が女郎でいることを当たり前だと思うな」
「自分が女郎でいることを疑問に持て」

その言葉に異常とも思える現状を不思議と思わない社会、現代にも通じそうな社会の中にある「麻痺」というものへの危惧が込められている感じすらします

賛否両論あるのかもしれませんが、目をそむけてはいけない1つの歴史を描いた傑作だと思いました。

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25 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
満を持して (なごいく)
2008-01-04 06:05:04
のレビューですね。さすがレビュー上手のぶちょー、ものすっごく興味のわく、そして印象深いレビューでした。ありがとう!

読みたい…でも怖い…でも読みたい…(いや、読むけど・笑)。

遊女を描いた作品は、得てして「きらびやかな世界に見えるけど実は…」という感じで、裏の凄惨な世界までは触れてない作品が多いですよね。まあよほどの作家さんでない限り、編集側からNOと言われそうですけども。私の中では唯一「JIN」でそういう世界を垣間見たくらいかな。それでもあの中で描かれていた梅毒で亡くなる女郎の話は…きっともう二度と読めないと思う(辛すぎて)。

以前「お産の歴史」という本を買ったんですが、途中で止まってるの(笑)。今度改めて読んでみます…なんかものすっごく怖そうでね…実際ちらっと読んだ箇所は怖かったのよ~。

そう言えば。京都にいる親友が友達の家に遊びに行った時、その家の建物は元遊郭だったらしくて、部屋が…小部屋がいっぱいだったんですって。あまりに生々しくて落ち着かなかったって言ってました。京都辺りだと今でもそういう建物が残っているのね。
室蘭って空襲に遭った?全然そういう建物とか残ってないのかな。
書き忘れ (なごいく)
2008-01-04 06:09:35
(何度もすんま村~)

曽根さんの他の作品を読んでいて思ったのだけど、この時代、確かに遊女は人として認められないような社会ではあったけど、遊女じゃなくても…女性は人として認められなかった時代ですよね。そう考えたら、遊女だから、ともあながち言えなかったのかもな~と少し思ってみたり。
「清流」を読んだらそんな感じがしたのでね~。
辛いよ~(←脅しか!爆) (たれぞ~)
2008-01-04 10:52:27
なごいくさん
うんうん、曽根さんは辛いの多いよね
私も辛いのは苦手だけど、それでも今回は目を離すことができなかった・・・これも曽根さんの力量なのかしら??

辛さでいえば「JIN」の梅毒で死ぬシーンよりずーっと辛い(←脅しか・爆)
生き地獄という感じがすんごく出てます

>女性は人として認められなかった時代
そうなんだよね~
「清流」「女に翼なんてないのに」(だったかな?)も共通するその感じはそのまま「断崖」にも書かれています
つーかはっきり「女の性は物以下」「娘は売りもの」という表記すらあります。ようは生活に困ったら娘をや妻を売れと・・・
家族のためなのに一旦、女郎というトコロに落ちたら、男どころか同じ女にまで卑下される日が待っているんですよね。

1巻と2巻で主人公となる女性が違うんですが、2巻は戦争色も強くなってるし・・・

子供を持つ人が読んだら、2巻の方が辛いかもしんない。

かなーり怖がらせたけど、なごいくさんが完読される日を待ってます(笑)

あっそうだ!!今度その「お産の歴史」を貸してください~
私もそういう話好きなのよ

たまーに温泉や源泉を読み返すと遊郭や宦官の去勢など腰から下の話に嬉々として出没している自分がいる(お恥ずかしい・爆)

親なるもの 断崖 (ひぃ)
2008-01-04 10:53:20
内容が生々しくて・・・読める度胸がありません。
たれぞ~さんのレビューで内容はよくわかります。
こういう風に自分の言葉で感じたことを文章化できる力のあるたれぞ~さんを尊敬します。
こういう時代があったことは忘れないでいたいと思います。
追伸 (たれぞ~)
2008-01-04 10:57:00
遊郭もの繋がりでアヤネさんの紹介の「じょなめけ」も読みました。
こちらの舞台は江戸の遊郭
辛い話しあり、コメディありと、かなりお気に入りの話になってます

読むなら「JIN」の続きと一緒に貸すよん
http://www.geocities.jp/onyadosuzume/newpage9-kanouyuten.html
あはは~判る (たれぞ~)
2008-01-04 12:48:25
ひぃさん
判るわかる・・・私も辛いのは基本的に苦手。
特に戦争が絡むものは避けて通っている人です。
なんかトラウマになっているのよ~

今回の漫画も戦争も関係あって、まして遊郭で生きた人が物語の中心とあってすんごく辛いのですが、何せ舞台が自分の住むところにすごく近いのでとっても読みたかったの。

こんなにすぐ傍なのに何にも知らなかったんだもの・・・
きっとそういう人多いんじゃないかな?
とかく、負の歴史と言うのは闇に葬られることが多いけど、事実は真実として、しっかりと覚えて生きたいなと感じました
吉原炎上 (ひいらぎ)
2008-01-04 14:17:47
思い出します
私は名取裕子のほうが好き、出てる役者が
豪華
吉原炎上は御覧になられたことはありますか?
似たようなお話ですよ。
たれぞーさん、目のつけどころがいつもすごい
ですね
こういうとこも、たれ様の人気なのでしょうね
さて、今から洗濯物を干してきまーす
そちらは洗濯物は外に干すのですか?
乾燥機で乾かすのでしょうか?
たれぞーさんのこの前のUP見てから
おでんが食べたいひいらぎです
レビュー、待ってましたよ~ (パール)
2008-01-04 15:41:09
私も、年末に手に入れて
下巻を年明けに読みました。
辛い、お正月から辛すぎるのを読んでしまいました・・・
でも、お梅にしても道生にしても
運命に負けてない、強いですよね。
武子の生き様なんか、かっこいいですし
大河内のばあちゃんも、けっこう好きです。

大丈夫、なごさん、辛いだけじゃないわよ~

私的には、チロのとこがかなり辛かったですけどね・・・


>女性は人として認められなかった時代

清流で、教師を目指すヒロインが
「娘を教師にするなんて、まだ女郎屋に売った方がまし」
みたいなこと言われるシーンがありましたよね~?
女が学問を身につけれない時代とは知っていたけど、
あんな言われ方してしまうのに驚愕でした・・・

曽根作品に共通してるのは
どの作品のヒロインも、かなり悲惨な境遇でも、負けない。強い。
しっかり地に足つけて、前向きに生きていきますよね。
そこが好きなんだな~~



遅れましたが (miki)
2008-01-04 17:47:25
遅れましたが・・
おめでとうござます。
今年もよろしくお願いします。
きょ、きょわい…(ぶるぶる) (なごいく)
2008-01-04 19:43:08
ぶちょー、梅毒のシーンより辛いのね…うひょ~。でも読まずにはいられないわ!パールさんからお借りしたいと思っているので(いいかしら、パールさん?笑)、多分2月頃には読めるかしら。実は…今日気になって気になって近所の本屋で探しちゃった。でもさすがになかったわ~。

「お産の歴史」、今度の返却便に混ぜ込んでおきますね。1月中にアガサさんとミニオフをすると思うので、その後に送ります。

「JIN」の続きと一緒に「じょなめけ」も貸して~♪いや、確か他にもお借りしたいと思ってた本があったハズだ…!(笑)


>パールさん

チロ…察するにわんこ?うわあ、それ系は尚辛いんだよな~(涙)。

でもパールさんの「辛いだけじゃない」という御言葉を信じて読むわ!いや、もう読まずにはいられないもの~!

言われて思い出しました、確かに「清流」で「娘を教師にするなんて~」発言、ありましたね。あのヒロインの嫁ぎ先も凄かったが…あれでもきっと「親なるもの 断崖」よりはず~っとまともな環境なのだろうと思うと…今の世の中に生まれて良かったというか、当時に生まれてたらと思うとゾッとする…。

「風光る」の明里さんなんかを見てる分にはそんなに悲惨ではないもんね。前にもどっかで書いたけど、「たけくらべ」に出てくる美登里さんのお姉さん(たまきさん?)だって世間的な扱いは悪くない(馴染みがお偉いさんだというのが自慢になる程だもんね)。
この差は、作者の描き方の差なのか、時代の差なのか、女郎とは言え格の差なのか…。その辺をもう少し詳しく知りたいとも思うんですよね。

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