ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

バーバー/ヴァイオリン協奏曲他

2020-04-25 07:34:47 | クラシック(協奏曲)

本日はアメリカの作曲家サミュエル・バーバーのヴァイオリン協奏曲をご紹介します。バーバーは1月のブログで取り上げましたが、20世紀生まれの作曲家でありながら現代音楽の要素はほぼなく、あくまでロマン派音楽の延長線上にある作風で知られています。1940年に作曲されたこのヴァイオリン協奏曲もそんなバーバーの特徴が表れた作品で、「弦楽のためのアダージョ」と並んでバーバーの代表作の一つに数えられています。曲は3楽章形式ですが、特に第1楽章が素晴らしく、叙情的な旋律でありながら雄大さも感じさせてくれます。第2楽章はゆったりしたアンダンテでこちらもメランコリックでありながら非常に美しい旋律です。第3楽章は一転して無窮動、すなわちヴァイオリンが休むことなくアグレッシブなソロを奏でる楽章で、この部分だけが現代っぽいと言えばぽいです。とは言え、全体的にはロマンチックなヴァイオリン協奏曲であることには違いありません。

CDですがまだまだ数は少なく、メジャーレーベルからはほとんどありません。私が購入したのはナクソス盤で、演奏はマリン・オールソップ指揮ロイヤル・スコティッシュ国立管弦楽団、ヴァイオリンはジェイムズ・バスウェルによるものです。オールソップはアメリカが生んだ世界的女性指揮者で、近年若手の活躍が目覚ましい女性指揮者達の中でも重鎮的存在として知られています。このCDは他にもバーバーの楽曲がいくつか収録されていますが、その中でもお薦めが「思い出」と言う曲。ダンスホールでの男女の出会いを描いた計6曲からなる組曲で2分弱〜5分弱の小品ばかりですが、どれも軽妙洒脱でチャーミングな曲ばかり。特にお薦めが華やかな1曲目「ワルツ」とエキゾチックな香りのする5曲目「ためらいのタンゴ」、そして疾走感溢れる軽快な6曲目「ギャロップ」です。知名度は低いですがなかなかの名曲と思います。

コメント

ベルリオーズ/夏の夜&ドビュッシー/選ばれし乙女

2020-04-18 06:25:57 | クラシック(声楽)

本日は珍しく歌曲です。このジャンルは正直あまり得意分野ではなく、当ブログで過去に取り上げたのもリヒャルト・シュトラウスの「4つの最後の歌」やマーラーの「亡き子をしのぶ歌」と言った管弦楽付き歌曲のみで、シューベルトやシューマン、ブラームスらによるドイツ歌曲の世界はほぼ未踏の分野です。きっと奥が深い世界なのだとは思いますが・・今日ご紹介するのはフランス語による管弦楽付き歌曲で、ベルリオーズの「夏の夜」とドビュッシーの「選ばれし乙女」です。歌うのは世界的メゾソプラノ歌手のフレデリカ・フォン・シュターデ、演奏は小澤征爾指揮ボストン交響楽団、録音は1983年です。

「夏の夜」はベルリオーズが友人であるテオフィル・ゴーティエと言う詩人の6つの詩に曲を付けたものです。オラトリオやミサ曲等の宗教音楽の分野ではあまり歌詞に注目しない私ですが、この曲に関してはやはり詩が素晴らしく、歌詞対訳を見ながら聴くとより一層曲の理解が深まります。特にお薦めは第2曲「ばらの精」。舞踏会の花飾りのために手折られたばらの花が自らのはかない運命を歌う実に美しい曲です。別れた恋人への思慕を切々と歌う第4曲「君なくて」の静謐な美しさも格別です。他では死んだ恋人への思いを歌った悲哀に満ちた第3曲「入江のほとり」、墓地の木に止まる鳩を歌ったミステリアスな雰囲気の第5曲「墓地で」も捨て難い魅力があります。管弦楽は後年のマーラーやリヒャルト・シュトラウスと違いあくまで伴奏程度ですが、曲の美しさだけで十分聴くに値します。

一方、ドビュッシー作曲の「選ばれし乙女」はロセッティの絵画にインスパイアされて書かれた20分弱の短いカンタータで、こちらは独唱に加えて女声コーラスも加わっています。ドビュッシーと言えば「牧神の午後への前奏曲」「海」等が印象主義音楽の代表作として名高いですが、この曲はそれらの作品が発表される前の初期の作品です。まだ後年のような様式は確立されてはいませんが、極めてロマンチックな旋律に彩られた美しい曲です。管弦楽の使い方も素晴らしく、特に前奏部分はうっとりするような美しさです。歌のパートももちろん充実しており、フォン・シュターデの歌声と女声コーラスが幻想的な雰囲気を生み出しています。ドビュッシー初期の作品と言うことであまり取り上げられる機会はありませんが、隠れた傑作と思います。

 

コメント

ドヴォルザーク/聖ルドミラ

2020-04-04 18:50:31 | クラシック(声楽)

前回の交響曲第5番に引き続き本日もドヴォルザークです。あまり注目されることはありませんが、ドヴォルザークは宗教音楽にも力を注いでおり、有名な「スターバト・マーテル」をはじめ、レクイエムやテ・デウム、カンタータ、ミサ曲等も残しており、今日ご紹介するオラトリオ「聖ルドミラ」もその一つです。作曲は1886年。交響曲第7番とほぼ同時期で、円熟期を迎えつつあったドヴォルザークが書き上げた大作です。ただ、宗教音楽と言うこともあってか演奏機会はほとんどなく、CDも数えるほどしかありません。私が購入したのは最近発売されたナクソス盤でレオシュ・スワロフスキー指揮スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団のものです。

作品はチェコのキリスト教会にとって重要な存在である聖ルドミラを題材にしています。ウィキペディア情報によると、ルドミラは9世紀に実在した人物で当時のチェコを支配したボヘミア公ボジヴォイと結婚し、夫とともにキリスト教へ改宗したとのこと。曲の内容も当然その史実を下敷きにしており、第1幕はルドミラが民衆達と異教の神々に祈りを捧げているところに、イヴァンという伝道師が現れ偶像を雷で破壊します。第2部ではルドミラが森の中に住むイヴァンのもとを訪れると、ボジヴォイが狩りの途中で立ち寄り、ルドミラを見初めます。イヴァンに心酔するルドミラだけでなく、イヴァンが獲物の鹿を生き返らせる奇跡を目にしたボジヴォイも改宗を決意。第3部ではボジヴォイとルドミラが洗礼を受け、最後は神を讃えてめでたしめでたしと言う内容。ただ、現実の歴史はそこまでハッピーエンドではなかったようで、ボヘミアではその後もキリスト教徒と異教徒が対立。特にルドミラの息子の嫁であるドラホミーラと言う人物が異教徒で、宗教の対立に権力争いも絡んでルドミラは暗殺されてしまいます。そこら辺の骨肉の争いはドラマチックでオペラなんかにすると面白いかもしれませんが、オラトリオはあくまで神を讃える歌ですので、改宗の場面までしか描かれていません。

 肝心の音楽についてですが、全編を通じてドヴォルザークらしい歌心たっぷりの旋律とドラマチックな管弦楽法が融合した聴き応えのある内容となっており、2枚組1時間50分弱のボリュームながら途中でダレることもありません。特に第1部は全てが魅力的と言っても過言ではないでしょう。とりわけ素晴らしいのが第3曲、民衆が春の訪れを異教の神に感謝する場面、第5曲のルドミラ登場シーンの美しいアリア、第8曲イヴァン登場時の重々しくも厳粛さに満ちたアリア、第10曲ルドミラがイヴァンの教えにより真実に目覚める場面のアリアと続く第1部終幕の場面の壮麗なコーラス等です。クライマックスに当たる第3部も圧巻で、2曲目のルドミラとボジヴォイの二重唱からフィナーレの神を讃える大合唱まで名旋律のオンパレードです。宗教音楽&2枚組の長尺と言うことで聴く前は心構えが必要ですが鑑賞後は期待以上の満足感を味わうことができます。ドヴォルザークの知られざる名作としてもっと多くの人に聴いていただきたい作品です。

コメント