ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ザ・トゥー・サイズ・オヴ・ジャック・ウィルソン

2016-04-28 21:50:40 | ジャズ(ピアノ)
本日はジャック・ウィルソンの1964年のアトランティック作品をご紹介します。ウィルソンの作品を当ブログで取り上げるのは3回目ですね。過去の2作品「ジャック・ウィルソン・カルテット」「サムシング・パーソナル」はともにヴァイブ奏者のロイ・エアーズを大きくフィーチャーしたもので、実質双頭リーダー作と言ってよい内容ですが、本作はトリオ作品で純粋にピアニストとしてのウィルソンの魅力に迫っています。サポートメンバーは西海岸を代表するベーシストのリロイ・ヴィネガーと、モダンジャズを代表するドラマーのフィリー・ジョー・ジョーンズ。鉄壁の布陣ですね。題名に「トゥー・サイズ」とありますが、これは昔のレコードで言うA面とB面のことです。A面つまりCDの1~4曲目はバップ・ピアニストとしてのウィルソンにスポットライトが当てられており、B面つまり5~8曲目はロマンチックなバラード中心と、両面でテイストが違う作りになっています。



まず、バップ・サイドから。1曲目“The Scene Is Clean”はタッド・ダメロン、2曲目“Glass Enclosure”はバド・パウエルとビバップ期を代表する名ピアニストの曲を演奏します。うち“Glass Enclosure”はもともとのパウエルの曲自体が現代音楽っぽくて正直あまり好きではないのですが、“The Scene Is Clean”はなかなかの好演です。この曲の代表的名演と言えばブラウン=ローチ・クインテットが真っ先に挙がりますが、端正なピアノトリオの本作も悪くないです。続く“Good Time Joe”はこれと言って特徴のないブルースなのでパス。4曲目“Kinta”はウィルソン作となっていますが、スタンダード曲の“After You've Gone”のコード進行を拝借したもので、ウィルソンがコロコロと玉を転がすようなタッチで4分近くにわたって弾き続けます。

B面のバラード・サイドはやや過剰と思えるぐらいロマンチックな演奏が目白押し。“Once Upon A Summertime”はミシェル・ルグラン作の美しいバラードで、波間をたゆたうようなウィルソンのピアノが幻想的な雰囲気を醸し出します。続く“Sometime Ago”はセルジオ・ミハノヴィッチ作の名曲で、アート・ファーマーやビル・エヴァンスの名演でも知られています。ここでのウィルソンは軽やかにワルツ風に料理しています。続く“The Good Life”はフランスのジャズ・ギタリスト、サーシャ・ディステルの書いた曲でトニー・ベネットやフランク・シナトラもカバーした曲。これも原曲の素晴らしいメロディを崩さず、しっとりしたバラードに仕上げています。最後は古いスタンダード曲“The End Of A Love Affair”、邦題“情事の終わり”のとおり失恋を歌ったラブソングです。これもウィルソンはややセンチメンタル過剰とも言えるぐらいムードたっぷりに仕上げています。ウィルソンと言えば代表作「イースタリー・ウィンズ」はじめややモードジャズ的なイメージが強かったのですが、バラード演奏もうまいし、ピアニストとしての実力もかなりのものなんだなあということがよくわかる1枚です。
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ブルー・ミッチェル/ステップ・ライトリー

2016-04-16 22:04:23 | ジャズ(モード~新主流派)

本日はブルー・ミッチェルがブルーノートに残した「ステップ・ライトリー」をご紹介します。ミッチェルは50年代から活躍するトランペッターでリヴァーサイドに「アウト・オヴ・ザ・ブルー」、「ブルース・ムーズ」「カップ・ベアラーズ」等の傑作を残しています。後は黄金期のホレス・シルヴァー・クインテットでジュニア・クックと結成したフロントラインもジャズ史に名高いですね。本作はそんなミッチェルが1963年にブルーノートに移籍し、その最初の作品として録音されたものですが、なぜか当時は発表が見送られ、80年代に日本のレコード会社から発売されて日の目を見ました。でも、内容はとても素晴らしいですよ。3管編成によるセクステットでミッチェル以外のメンバーはジョー・ヘンダーソン(テナー)、レオ・ライト(アルト)、ハービー・ハンコック(ピアノ)、ジーン・テイラー(ベース)、ロイ・ブルックス(ドラム)という布陣です。



演奏ですが、リヴァーサイド時代やホレス・シルヴァーとプレイしていた頃のミッチェルはハードバップど真ん中路線でしたが、本作はジョーヘンやハーバー・ハンコックが参加していることもあり、ややモードジャズ風の仕上がりです。特に“Sweet And Lovely”や“Cry Me A River”は他のジャズメンにも多くカバーされた有名スタンダードですが、ここでは抑制されたテンポでスタイリッシュにまとめられています。ロジャー・ボイキンと言うよく知らない人が書いた“Andrea”もモーダルな佳曲ですね。その一方で、モード時代の申し子と言ってもいいジョーヘンの曲が2曲収録されていますが、これが案外モードっぽくない。まず、オープニングトラックの“Mamacita”はラテンフレイバーあふれるファンキーチューンでクラブシーンでも使えそうなノリノリの曲です。もう1曲、タイトルトラックの“Step Lightly”は曲調はスローながらも静かに燃え上がるようなファンキーな名曲。ミッチェルはよほどこの曲が気に入ったのか翌年に発表した「ザ・シング・トゥ・ドゥ」でも再演しています。ラストの“Bluesville”は本名シルヴェスター・カイナーことソニー・レッドが作曲したジャズ・ロックです。ブルー・ミッチェルと言えば、続く「ザ・シング・トゥ・ドゥ」もチック・コリアと組んだ傑作ですし、以前にUPした「ブリング・イット・ホーム・トゥ・ミー」も良いので、ブルーノート時代をもっと評価してもいいのかもしれません。

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ジミー・スミス/ア・ニュー・サウンド・ア・ニュー・スター

2016-04-13 22:41:17 | ジャズ(ハードバップ)

日本のジャズファンにはあまりかえりみられることはありませんが、ジャズの名門であるブルーノートとプレスティッジには“オルガン・ジャズ”という確固としたジャンルがあります。ブルーノートだとベビーフェイス・ウィレット、ジョン・パットン、ラリー・ヤング、フレディ・ローチ、ロニー・スミス、ルーベン・ウィルソン。プレスティッジだとジャック・マクダフ、ジョニー・ハモンド・スミス、リチャード・グルーヴ・ホームズ、女流のシャーリー・スコットあたりの名前が挙がりますね。でも、彼ら全員が束になってもかなわないほどジャズ・オルガンの世界で絶対的な存在感を放っているのが今日ご紹介するジミー・スミスですね。そもそもスミスが登場しなければ“オルガン・ジャズ”というジャンル自体が成立したかどうか。それまでゴスペルやR&Bの伴奏楽器に過ぎなかったオルガンをメインの楽器に据え、ビバップ・スタイルのジャズを演奏したのはまさにこのジミー・スミスが最初で、彼の登場はまさに革命でした。本作は1956年2月にブルーノートから発表された彼のデビュー作で、タイトルが示すようにその演奏ははそれまで耳にしたことのない“ニュー・サウンド”であり、ライヴを目の当たりにしたマイルス・デイヴィスをして“世界8番目の不思議(Eighth Wonder)”と言わしめたほどです。この後、スミスは瞬く間にジャズシーンの“ニュー・スター”となり、50年代だけで20枚ものリーダー作をブルーノートから発表する同レーベル最大の売れっ子となります。



メンバーはリーダーのスミスに加え、初期に彼の相棒を務めていたギターのソーネル・シュワルツ(ドイツ人みたいな名前ですが黒人です)、ドラムのベイ・ペリーという顔ぶれ。たった3人ですが、スミスの圧倒的なオルガン・プレイのおかげで人数の少なさを感じさせません。全9曲、アルバムは冒頭ジェローム・カーンの有名スタンダード曲“The Way You Look Tonight”で始まりますが、のっけからエンジン全開のエネルギッシュなオルガン・プレイに圧倒されます。60年近く経った今聴いても十分エキサイティングなのですから、当時の聴衆が衝撃を受けたのも納得です。他にも“Lady Be Good”“But Not For Me”と言ったスタンダード曲もスミスの手によってファンキーなジャズに生まれ変わっています。一方でスミスはバラード演奏も素晴らしく、“Midnight Sun”“The High And The Mighty”“Tenderly”ではハモンド・オルガン特有の長く伸びる音を活かして、同じ鍵盤楽器でもピアノとは全然違う独特の荘厳な世界を作り出しています。他ではシンプルなR&B調の自作曲“You Get 'Cha”“Joy”、ホレス・シルヴァーの人気曲“The Preacher”もキャッチーな演奏です。以上、全9曲どれも水準以上の出来栄えで、ジャズ・オルガンの歴史を変えた1枚にふさわしい内容ですね。

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ジョー・モレロ/イッツ・アバウト・タイム

2016-04-07 23:28:52 | ジャズ(クールジャズ)
本日は白人ドラマーのジョー・モレロの「イッツ・アバウト・タイム」をご紹介します。モレロと言えば何と言っても“Take Five”で有名なデイヴ・ブルーベック・カルテットのドラマーとして知られています。ブルーベック、ポール・デスモンド、ジーン・ライト、そしてモレロの4人は「黄金のカルテット」と呼ばれ、50年代から60年代後半まで活動をともにしました。その一方でモレロは自身のリーダー作も何枚か残しており、中ではイントロという西海岸のマイナーレーベルに残した「コレクションズ」がアート・ペッパーも参加した隠れ名盤としてマニアの間で人気です。本作は1961年にRCAに吹き込まれたもので、全10曲中6曲がクインテット形式で(ジャケットにはセクステットと書いてありますがどう聴いても5人しかいません)、フィル・ウッズ(アルト)、ゲイリー・バートン(ヴァイブ)、ジョン・バンチ(ピアノ)、ジーン・チェリコ(ベース)、そしてモレロと言う布陣です。残りの4曲はアレンジャーのマニー・アルバムが指揮する8人編成のブラスセクションがバックに加わっており、ボブ・ブルックマイヤー(トロンボーン)やクラーク・テリー(トランペット)が参加しているようです。全編にわたって大活躍するのがウッズで、特に前半はウッズのソロが中心のため、彼のリーダー作かと思ってしまいます(後半ではドラムソロもフィーチャーされて、モレロの作品っぽくなっていますが)。その他のメンバーでは70年代以降にビッグネームとなるゲイリー・バートンが録音当時わずか18歳(!)とは思えない見事なマレットさばきで演奏にアクセントを付けています。



曲は1曲目から7曲目までがよく知られたスタンダード曲集で、その中でもバートンの涼やかなヴァイブが印象的な軽快なミディムチューン“Every Time”、メンバー全員が疾走する“Just In Time”、ウッズの情熱的なアルトが見事な“Summertime”が出色の出来です。ただ、ハイライトは後半のメンバーのオリジナル3曲ですかね。まず、フィル・ウッズ作曲の“Mother Time”は典型的なバップチューンで、バンチ、バートンが軽快にソロを取った後、ウッズがノリノリのアドリブを披露します。続くジョン・バンチ作“Fatha Time”はピアノ・トリオによる演奏でバンチのピアノとモレロのドラムによる絶妙な掛け合いで演奏が進んで行きます。ラストはタイトルチューンの“It's About Time”でビッグバンドをバックにバンチ、ウッズらがソロを取り、途中からモレロの2分近くに及ぶ圧巻のドラムソロが挟まれます。以上、モレロのドラムの技だけでなくフィル・ウッズやゲイリー・バートンの溌剌としたプレイも楽しめるなかなかの佳作と言えるのではないでしょうか?
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ビル・エヴァンス/アイ・ウィル・セイ・グッバイ

2016-04-02 22:10:00 | ジャズ(ピアノ)

前回のエントリーでオスカー・ピーターソンのことを“偉大なるワンパターン”と評しましたが、今日取り上げるビル・エヴァンスもある意味同じですよね。60年代から70年代にかけて音楽シーンはジャズも含めて激動の時代でしたが、その中にあって一貫してスタイルを変えず、リリカルなピアノトリオ作品を発表し続けました。それでいて、マンネリに陥ることなく、常に高水準の作品を生み出し続けたのは驚嘆に値します。本作「アイ・ウィル・セイ・グッバイ」は1977年にファンタジー・レーベルに吹き込まれたもので、先日ご紹介した「ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング」と同時期の録音です。メンバーも同じでベースがエディ・ゴメス、ドラムがエリオット・ジグムンドという顔ぶれなので、いわば兄弟的な作品ですね。エヴァンスは3年後の1980年に亡くなるため、最晩年の作品にあたりますが、若い時から変わらないメロディの美しさと、逆に年を取るごとにより純度が高まっていくかのような透明感あるサウンドはまさにワンアンドオンリーの魅力ですよね。60年代以降はいわゆる“エヴァンス派”と呼ばれるピアニスト達が雨後の筍のように出現しますが、やはり本家本元は別格です。



曲はボーナストラック2曲を含めて全10曲。いわゆる有名スタンダードはハービー・ハンコックの有名な「処女航海」に収録されていた“Dolphin Dance”と、ボーナス曲のスタンダード“Nobody Else But Me”ぐらいですが、どの曲も魅力的でアルバムトータルで完成された作品となっています。タイトル曲“I Will Say Goodbye”はこの頃エヴァンスのお気に入りだったフランス人作曲家ミシェル・ルグランの作品。(“You Must Believe In Spring”もルグランの作品でしたね)1曲目のテイク1と5曲目のテイク2の2バージョンが収録されていますが、タイトル通りやや切なさを感じさせるしみじみとした曲です。2曲目“Dolphin Dance”はハンコックのオリジナルとは違いエヴァンス風のリリカルな演奏です。3曲目のジョニー・マンデル作のバラード“Seascape”や4曲目ベーシストのスティーヴ・スワロウが書いた“Peau Douce”はどちらも他人の曲でありながら、まるでエヴァンスに演奏されるために生み出されたかのようなリリカルなナンバーです。6曲目“The Opener”はアルバム中唯一の自作曲で明るく清々しい雰囲気のナンバーです。アップテンポでの軽やかなピアノタッチも素晴らしいですね。7曲目は“Elsa”“How My Heart Sings”を書いたエヴァンスの御用作曲家とでも言うべきアール・ジンダース作の“Quiet Light”。名前のとおり静謐なバラードです。そして8曲目、オリジナルLPのラストを飾るのがバート・バカラック作曲でディオンヌ・ワーウィックが歌った“A House Is Not A Home”。スタン・ゲッツも名演を残しましたが、エヴァンスの手による本作の演奏もまさに珠玉の演奏です。以上、これで作品としては完成されているのですが、CDにはボーナストラックが2曲入っています。ジェローム・カーン作のスタンダードの“Nobody Else But Me”とこれまたルグラン作の“Orson's Theme”ですが、どちらも素晴らしい演奏で確かにこれはボツにするのはもったいない。それにしても「ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング」と言い、本作と言い、晩年のエヴァンス作品の完成度の高さは素晴らしいですね。若い頃のリヴァーサイド作品群と違い、有名スタンダード曲の比率が少ないため最初は取っつきにくいかもしれませんが、作品としての完成度は決して引けを取らないと思います。

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