[参院選公示]対立軸をもっと明確に
いよいよ国政選挙が始まるというのに、有権者の中から熱気や期待といったものがあまり伝わってこない。踏ん切りがつかず、どこか戸惑っているような気配なのだ。
変化への期待が失望に変わり、徒労感だけが残っているのかもしれない。沖縄では特にそうだ。
政権交代後、初めての国政選挙となる参院選が24日、公示される。
昨年8月の衆院選は、有権者の一票が文字通り政治を変えた選挙だった。選挙後しばらくは、官僚主導から政治主導への転換に多くの国民が注目し、事業仕分けに拍手喝采(かっさい)した。鳩山政権のスタート時の高い支持率は、政治が変わるかもしれないという有権者の期待感と高揚感を反映したものである。
だが、新政権は普天間問題でつまづいた。他の選挙公約も、財源の壁を越えることができず修正や変更を余儀なくされた。内閣と党の関係もしっくりせず、しばしば二重権力状態が生まれた。
政権与党の混乱に乗じて、最大野党の自民党が支持を伸ばしたかというと、必ずしもそうはなっていない。たちあがれ日本、新党改革などの第3局が相次いで誕生したのは、民主支持でも自民支持でもない有権者層の広がりを示すものだ。
それぞれの政党の政策の違いも今のところ、有権者にはほとんど浸透していない。こんな分かりにくい選挙はない。多党乱立の中で対立軸もはっきりせず、有権者が立ちすくんでいる、という構図なのだ。
菅直人首相は消費税の増税について、「自民党が提案している10%を一つの参考にしたい」と述べ、超党派の議論を呼びかけた。
9党の党首討論会で自民党の谷垣禎一総裁は、菅政権の経済成長戦略について「われわれの時代につくったものとそっくり」だと語った。
要するに、民主党と自民党の政策が似てきて、有権者にはどこがどう違うのか分かりにくいのである。
国民の「漠とした将来不安」は、社会保障制度の将来像が不透明なことや、景気、雇用の改善めどが立たないところからきている。相互に関連し合うこの問題に、どう対処するのか。この課題と財政再建の課題をどのように処理していくのか。
各党は、社会保障制度改革、消費増税、経済成長戦略、財政再建策、公務員改革などに関する政策論争を深め、争点を明確にしてほしい。
菅首相は23日、沖縄全戦没者追悼式であいさつし、沖縄の基地負担に関連して「おわび」と「お礼」という二つの相反する言葉を使った。
沖縄の負担のおかげでアジア・太平洋地域の平和と安定が保たれていることを強調し、「お礼」の言葉を使ったのである。「おわび」の姿勢を示しながら、その一方で、「お礼」をするという神経が理解できない。
菅政権はほんとうに負担軽減に取り組む意思があるのだろうか。普天間問題も参院選の大きな争点であることを忘れないでもらいたい。