世にも恐ろしい日本昔話:さるかに

2012-03-05 17:57:47 | レビュー系

前回「浦島太郎」の感想を書いたので、続いて「さるかに」の話をば。

 

「人は自然に生きることなど欲していない。『個性』よりも『役割』、『自由』より『必然性』を求めるものなのだ」
そんなことを言ったのは福田恆存だったが、これは人間がいかに意味的存在であるかを指摘した名言だと私は思う。なぜか?過去においては、ナチス・ドイツ誕生の背景=「自由からの逃走」、あるいは大正時代のアノミーとそれへの反応など、歴史的にその正しさが裏付けられる。また現在を例にとっても、多様性と選択過剰によるアノミー及び諸々の反応、すなわちキャラ的人間関係(cf.「調和と地雷」)やamazonのリコメンデーションシステムのような、枠にハメて欲しい人たちとそれに応えるシステムの共犯関係などにその一端がうかがえるからだ(この傾向は作品にも言えるが、ノイズの排除について書いた「ソウルイーター」の記事や「デスノート~乾いた死~」を参照)。

 

もう少し抽象的な話をしてみよう。例えば「人間が生まれてきた意味や生きる意味などない」であるとか、「他者の理解不可能性はむしろ前提にすぎない」という話をあなたはどう感じるだろうか?もしそういう言辞に狼狽したり驚愕できてしまうのだとしたら、あなたが十分に意味的存在であることを示していると私には思われる(「『神の罰』の起源」なども参照)。たとえば「全ての人間には生まれてきた意味がある」という言葉が喧伝されたりするが、少し考えればわかるように何の裏付けもない。つまり、「あると思えばあるし、無いと思えば無い」という程度のものだ。そしてまた、生に意味があると考えた方が生きる上である種の合理性があるということと(=機能主義的な問題)、実際に意味がある(=真理の問題)のは全く別物なのである。

 

以上のように、根源的に未規定であることを自覚していたら、「出生にも人生にも意味がない」と言われて「(当然のように)それがどうしたの?」と答えこそすれ、狼狽したり驚愕などするはずがないわな。ちなみに孔子というずっと昔のオッサンも「未だ生を知らず、焉んぞ死を知らんや」と言ってるくらいなので、それが今でも変わってないだけのことだ。ただ、それが未だに狼狽の種になっちまうくらい人間は意味的動物である、ということやね。ちなみにこの手の話をすると、人命軽視と混同なさる安翻端さまがいらっしゃいそうなので、「人を殺してはならん(とされる)のは社会契約的な理由があるよ」と書いた記事と、承認と救済に関する「灰羽連盟」の記事があるんでそちらを参照してくださいなモンドセレクション。

 

とまあ余談はここまでにして。表題の「さるかに」のテーマを一言で言えば、「不条理」である。このことは、

(a)暑さと長旅によって主人公の飢えを連想→柿を取る必然性 

(b)神木に柿は一個しかなっておらず、囲いもない→主人公に悪意なし

(c)最後で明かされる理由の不釣り合いな印象

の三つから明らかだろう。もう少し説明すると、(a)(b)で示された行為の必然性に対し、問答無用で襲われる形で宙吊りにされ続けた割に理由説明があまりに淡白である点が、「かちかち山」と同様反カタルシス的性質となり、視聴者に「不条理」の印象を与えるであろう、ということだ。一応これを閉鎖社会(=ムラ社会)の非合理性として時代・地域限定的に捉えるのと、より一般的な枠組み(=世界というものの不条理さ)で捉える二つの解釈が可能だが、諸々の設定やムラの掟(?)に関する言及が皆無であることから、後者の解釈により説得力があると考えている。

 

この見方が正しいなら、グレゴール・ザムザが虫になった理由が明かされぬゆえに茨のごとく読者の心に絡みつくのと同様、この「さるかに」もまたその不条理さによって、意味的存在である我々の印象に強く残るのではないかと思うのである・・・いや、残らねーかwもちっと演出方法は工夫できんかったのかな~と思う。絵柄があんまし合ってなかった気がするし。なんか悪ガキが懲らしめられてるようにしか見えんかったったいね~w「かちかち山」が暗くなる話なんでバランスを取りたかったのかもしれんし、テーマはわかる・・・という具合に意図は理解できるんだけど、演出的には失敗だったというのが個人的な印象。

 

ちなみに、「さるかに合戦」はご存知の人も多いだろうが勧善懲悪のお話であり、「さるかに」で描かれる不条理とは真逆の内容だと言える。これは「わかりやすさ」への志向=意味的な馴致と教育的狙によるものと推測されるが、そういった点は「ヘンゼルとグレーテル」の書き換え(ex.実母→継母)と近代家族の問題(cf.「母性という神話」、「家父長制と資本制」)などと比較してみるのもおもしろいだろう。

 

では今回はこの辺で。


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