「サンキュー」と赤帽おじさんに手を振ると、おじさんは運転席で前をむいたまま左手を上げて、はしり去ってしまいました。
私はハイウエーを歩いて、車まで戻ると、その辺に落ちていたタイヤの破片を拾って尻に敷き、車の後ろの日陰に膝を抱えて座りこみました。
午前7時50分ごろだったと思います。
座ったまま、今朝走ってきた彼方を眺めると、道は一直線に地平線まで続いていました。
この場所から人の住む所まで、前後100キロ以上は離れているはずです。
赤帽おじさんは多分トリプルA(アメリカ自動車協会)に連絡を取ってくれたでしょうが、最寄の町にオフィスがあったとしても、休日土曜の早朝ですから、作業員はまだ出勤していないでしょう。
出勤してから、此処へ来るまでに一時間以上は掛かるはずです。
周囲を見渡すと、茫々たる砂漠が広がっているばかりで、他には何にも見えません。
狼やコヨーテなどは居ないのかな? 取り囲まれたらどうしよう。
多分、レスキューの到着は昼過ぎだろうと予測して、覚悟を決めました。
少なくとも4時間以上は待つことになるだろうと思いました。
黙って座っているだけでは芸がないよな~。
と言って、砂漠をうろついても花など咲いているはずもありません。
所在なく、財布に入っていたレシートを取り出すと、目の前を通過するトラックと乗用車の数を数え始めました。
トラックは口で一台、二台。乗用車はレシートの裏に正の字で通過する車数を記録していきます。
初めはトラックが圧倒的に多いだろうと思っていたのですが、数えてみれば、乗用車もほぼ同じようなものです。
トラックは69台、乗用車は64台まで数えました。
するとトラックの70台目が途中からハザードランプを点滅して、私の目の前に停まってくれたのです。
時は8時58分。助手席に可愛い少女がちょこんと座っていました。
多分作業員のお嬢さんでしょう。
作業員は運転席から降りると、黄色いベストを身に着けて、車の右ドアの上部に工具で隙間を作り、そこから針金を車内に伸ばして、ドアをロックしているノブを引き上げ、まるで何事も無かったかのように、いとも簡単にドアを開けてしまったのです。
私は思わず賞賛の声を上げました。
「グッドジョブ、ナイスプロ!」
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