Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『白鸚二十七回忌追善 二月大歌舞伎 夜の部』3回目 1等1階前方センター

2008年02月25日 | 歌舞伎
歌舞伎座『白鸚二十七回忌追善 二月大歌舞伎 夜の部』3回目 1等1階前方センター

昼の部に続き夜の部も千穐楽を拝見。夜の部は3回目観劇です。2日前に観たばかりですので簡単に。

『対面』
前回も感じましたが理詰めの『対面』。不思議な『対面』を観たという感じなのです。いつもだと祝祭劇として歌舞伎の記号化されたキャラクターを楽しむのですが、今回は個々のキャラクターがその生き様を垣間見せておりました。いかにも粒が揃った芝居という感じでした。

工藤@富十郎さん、声が絶好調でした。ぽーんと突き抜け感のある良いお声です。

五郎@三津五郎さん、いつも以上に力のこもった五郎でした。前回感じなかった若々しさもありました。

大磯の虎@芝雀さん、ついさきほどまでお軽だったと思うと不思議な感じ。まったく雰囲気が違うんですよね。もう少し華が出てくるといいなあ。


『熊谷陣屋』
役者の皆さん、力が入ってまして押し出しの強い芝居でした。それとかなりたっぷり感がありました。それぞれニンにあった役をしっかり見せてきたなあという印象。

熊谷の幸四郎さんの送り三重に乗っての引っ込みが前回と少し違いました。前回、ドンと座り込まずに笠を被り小さく体をまるめるだけだったんですが、今回はドンと座り込んで小さく小さくなっていました。それからドンチャンで小次郎を討ったその戦場を思い出したかのように遠い目をし、そこから逃げるように去っていく。初代吉右衛門の映像で観た熊谷の引っ込みそっくりでした。

キリの段の義太夫の綾太夫さん三味線の宏太郎さん、いつも以上に気迫ある演奏で、つい床を見てしまうこと度々。


『春興鏡獅子』
個人的に夜の部は『春興鏡獅子』が目当てでした。凄かった、凄かった。いえ、たぶんにまだまだな部分はあったと思います。でも、もっと踊ってて欲しい、もっと観たいと痛切に思いました

しかし良い席での罠が…。舞踊を観るには4列目は前すぎました。ギリギリ、足裁きも見え姿全体は観られるのですが全体のバランスを観るには近すぎです。しかも役者の表情がよく見えてしまうのでつい上半身ばかりを観てしまう。

染五郎さんの弥生、ほんとに可愛いです。硬質さがあり、そういう部分でまだ女性としての柔らか味はあまりないのですがそこに透明感があって清楚で初々しさがあります。近くで観ると可愛い仕草をした後、ふわっ~と顔を次の仕草に流す瞬間の目がかなり色ぽかったです。無心さからでる意識しない色気。あと襟足からのぞく背中が綺麗でドキドキしてしまいました。なんだかおやじ目線になってる気がする私…。

それにしても手捌きが本当に柔らかくとっても綺麗だった。あと胸の使い方がとっても柔らかになって風情とか華やかさが出てきた感じ。それと前回もちょっと感じたのですが弥生の途中、二枚扇の石橋のところで獅子が完全に憑いたと思いました。あっ、今入ったな、と感じた瞬間を感じたのです。

そして後シテの獅子。こちらが本当に素晴らしかったです。勇壮で優美。迫力があって、まさしく獅子でした。胡蝶との戯れはやはり可愛い。

左右に振る毛の勢いもよく、最後の毛振りは今回なぜか毛洗い(毛を前でふるふると揺らし滝のような振りをする部分)をやらずにいきなり廻し始めました。その勢いは止まらず、ラストは体をナナメにして超高速毛振り。いったいどうやってるの?「染五郎さん、大丈夫ですか?」ってくらいの凄まじい毛振り。獅子の狂乱も狂乱、凄まじい勢いとキレでした。最後の片足立ちもピタリと決めてきました。そこにまさしく獅子がいたような気がしました。

胡蝶の梅丸くん、錦政くんの二人はお互い持ち味を十分活かしつつお互いを見ながらバランスよくしっかり踊っていました。錦政くんは途中、鈴太鼓を落としてしまったのですが動ぜずそのままきちんと続けていました。後見の錦一さんがタイミングよく代わりの太鼓を渡し、その後も何事もなく踊りきりました。内心、かなり焦ったでしょうけどよく踏ん張りました。