Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

新橋演舞場『三月大歌舞伎 夜の部』 3等A席前方上手寄り

2012年03月17日 | 歌舞伎
新橋演舞場『三月大歌舞伎 夜の部』 3等A席前方上手寄り

夜の部は三演目それぞれに座頭の役者の個性が現れて色んな意味で面白かったです。

『東山桜荘子「佐倉義民伝」』  
4年前にも幸四郎さん、福助さんコンビで拝見しております。今回のほうがしみじみとした味わいだったような気がします。前回は別れの愁嘆場が少し長すぎるように感じたのですが今回はその「時間」が別れ難いんだなとすんなり心に入ってきました。宗吾と家族の別れの場で幕が閉まった後も子供たちの「ととさまいのう」が残響のように聴こえてきました。私の空耳だったのかそれとも子供たちが幕が閉まったあともととさまを呼んでいたのか…。「東叡山直訴の場」の今までは紅葉の季節だったはずですが今回桜にしておりました。家族との別れからが直訴に到る期間のことを考えたら桜の春のほうがしっくりきますね。桜のほうが未来を暗示させますし。

宗吾@幸四郎さん、前回は宗吾を高潔な英雄としての側面を強く出し描いたと思いますが今回はもう少し情に落したというか一個の悩める男として演じてきたように思います。家族想いの部分を強調し、それゆえの宗吾の決断の苦悩の部分を際出せていました。

おさん@福助さんは今回はかなり抑制の効いた芝居。そのため芯がしっかりした健気な奥さんぶりが際立って非常に良かったです。

彦七@金太郎くんを筆頭に子役が三人がとっても可愛らしくて、いじらくしかった。子供たちも処刑されてしまうという行く末がわかっているだけに泣けてしまいます。金太郎くんは6歳という年齢より大人びてる雰囲気ですが素直で行儀のよい芝居。

渡し守甚兵衛@左團次さん、頑固じじいな無骨さが前にでる。

松平伊豆守@の彦三郎さん、いわゆる肚芸はないんだけど直線的な芝居がなかなか印象的。

家綱@染五郎さん、前回に比べだいぶ風格が出ていました。家綱は宗吾のことをまったく見ようとしないんですよね。今回それに気がつきました。立ち姿と長袴の扱いが相変わらず綺麗です。


『唐相撲』
狂言をもとにした舞踊劇。色んな意味で菊五郎劇団クオリティ(笑)。重い題材の『佐倉義民伝』」の後の演目としては最適だったかもしれません。まったり楽しい。この演目には座頭の菊五郎さんの劇団への愛情がみえました。名題下含め皆それぞれにに見せ場をきちんと作ってあげていました

通辞夫人@萬次郎さんの中国語、四声がきちんとしていました!!耳が良いのでしょうね(感心)

官人@亀三郎さんのポージングがなにげに綺麗でした。

『小さん金五郎』
あまり期待してなかったんですが楽しかったです。上方のお芝居らしいばかばかさが良い。全体的に金五郎@梅玉さんと小さん@時蔵さんの持ち味で品のよさでばかばかしい芝居に品のよい可笑し味を与え可愛らしい芝居にしていたと思います。本来はもう少しこってりが必要なんでしょうがこの雰囲気もなかなか良いと思う。梅玉さんは少し前までは時蔵さんとコンビで積極的に上方狂言を手掛けていましたが最近やってなかったんですよね。今回久しぶりでしたけどこういう狂言の掘り起こしはこれからもやっていただきたい。梅玉さんと時蔵さんコンビの上方世話の狂言では『おさん茂兵衛』がかなり面白かったのを思い出しました。

今回の芝居ではなんといってもお鶴@秀太郎さんですね。秀太郎さんが出ると芝居が弾む。活き活きと楽しそうに弾けて芝居をなさっていました。こおういうお芝居には照れのない突っ込んだ芝居のほうが楽しいんですよね。

お鶴の連れの子役の子もとっても可愛かった。

お糸@梅枝くんが芸者の風情がしっかりあり、また六三郎への可愛い恋慕や嫉妬などの細かい表現がしっかりしていて上手いです。梅枝くんは今のところ何を演じても安定しています。これで個性がもっと出るようになると華が出るのではないかと思います。