Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

サントリーホール『キーシン・フェスティバル 2011 ピアノ・リサイタル』 C席RA後方列

2011年10月23日 | 音楽
サントリーホール『キーシン・フェスティバル 2011 ピアノ・リサイタル』 C席RA後方列

オール・リスト・プログラム。

素晴らしかったです。超絶技巧を聴かせるってだけに収まらない。なんとも繊細な美しい音色。そして不思議な世界観。キーシンの演奏って独特の空気があります。奇をてらわない正攻法な演奏で曲想をしっかりと伝えてくれるのだけど、そこに何か不思議な感覚というか面白い感覚が一刷けさりげなく潜そんでいる感じを受けるんです。私が勝手に思ってるだけなんですけどね。

曲に対して感情過多ではなく真摯に律儀に曲そのものを追求しているなかで、キーシンと作家(曲)のなかに対話が生まれている。そのキーシンの内省的なものが時々ふんわり浮かび上がってきてるというか。それはドラマチックなものではないのだけどそこになんともいえない空間が出来上がる。そしてそのなかで曲のなかの情景、心の軌跡といったものが音そのものとして提示される。リストであれだけの表現ができるって半端じゃない。特に後半の三曲が秀逸でした。『詩的で宗教的な調べから第7曲「葬送」』はまさしく鎮魂歌だった。東北地方太平洋沖地震にあった私たち日本人のために弾いてくれたのではないかと思いました。そして『巡礼の年』では鮮やかに情景を描き出しておりました。何か「祈り」を感じた私です。

それにしてもキーシンさんピアノの音色ってボリュームがあるだけでなく一音一音が粒だって綺麗なんですよねえ。しかも繊細。高音は透明感溢れキラキラと光り、低音は深く深く響く。

アンコールはベタなんですけどやっぱりショパンの『幻想即興曲』が良かった。かなり気分が盛り上がってしまいました。この曲は華やかですけどキーシンさんが弾くとどこまでも透明感のあるとても美しい曲になります。

アンコール4曲は彼にしては少ないですけど、プログラム本編でかなり消耗されていたように見えるのでここまでのサービスはやはり凄い。キーシンさんはサービス精神が旺盛すぎるのでいつもそこまでしてくださらなくてもって思ってしまう。ホールのほうで客電つけてあげればいいのにと思う。

余談:キーシンさんは今回のワールドツアーの出演料の一部を東北地方太平洋沖地震のために寄付してくださるそうです。

【プログラム】
リスト:超絶技巧練習曲集第9番 変イ長調 「回想」
リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調
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リスト:詩的で宗教的な調べから第7曲「葬送」
リスト:巡礼の年第1年「スイス」から「オーベルマンの谷」
リスト:巡礼の年第2年補遺「ヴェネツィアとナポリ」全曲「ゴンドラを漕ぐ女/カンツォーネ/タランテラ」

【アンコール】
リスト:愛の夢第3番
シューベルト/リスト:ウィーンの夜会 第6番
ショパン :幻想即興曲
ブラームス:ワルツ