Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

赤坂ACTシアター『いのうえ歌舞伎・壊<Punk>蜉蝣峠』マチネ S席前方センター

2009年03月29日 | 演劇
赤坂ACTシアター『いのうえ歌舞伎・壊<Punk>蜉蝣峠』マチネ S席前方センター

かなり辛口です。ネタばれはあまりしてないですが観ていない方は要注意。

座席の前が通路で視界がいっさい邪魔をされない良席でした。わ~、こんな良い席で観れるなんてラッキーと思っていたのですが肝心の芝居が…う~ん、う~ん。今まで観て来た劇団☆新感線の舞台のなかで一番、ノレなかったというか…今まではなんだかんだ言っても出したお金の分は満足できたというか、どこかしらにきちんと観るべきものがあったのだけど、今回はなんかそれがほとんどないというか…。ラストの殺陣がなきゃ、「金返せ」と言うところだったかも。

なーんも残らない。すでに記憶から薄れてきてる。なにもかもが薄い。特に1幕目、必要だったのか?無くても芝居になったぞ。2幕目で本筋を表面に出してきたところで、まあまあやりたい事が見えたし、宮藤官九郎(以下クドカン)がやりたかったであろうダーク?な部分の物語の拾い方は興味深くはあったけど、「物語」としてこなれてなさすぎ、練れてなさすぎ、浅すぎ。やってみたことは十分わかるけど、それで?何を描きたかったのか?と検証してあげようと気になるほどのモノがなかったよ。

でもって、いのうえひでのり氏の演出も「おっ!」と思わせるだけのものが無かった。ちんまりいつもの引き出しを使いましたって感じ。それと映像多様しすぎ。観客の想像力をなめんな。どこにも余韻なし。あらゆるところで今回は「間」の作り方がイマイチ。間の緩急がない。脚本の弱さを補えてない。

役者インタビューなどで私が期待するいのうえ歌舞伎とはどうやら違うらしいと事前情報は得ていたので自分的にかなり期待値を下げて臨んだけど、その期待値すら下回ったという…。クドカン脚本がイマイチ&いのうえさん演出、切れ味なし。そして役者はいつもの彼ら、以上のものがなかった。

クドカン、あんなに書けない人でしたっけ?私、この人のドラマは好きだし劇団☆新感線とタッグを組んだ『メタルマクベル』も演出は気に入らない部分がいくつかあったけど、クドカンの脚色は十分楽しんだ。今回、本筋の部分はいいとこ拾ってきたと思う。けど書き込みが足りなさすぎ。ネタ部分は私はまったく笑えず。下品だから、というだけじゃなく「ネタ」になってないよね、あれ。あと状況の説明台詞ばかりでドラマをあまり描けてない。濃い役者ばかりなのに誰一人としてキャラ立ちしてないつーのはどういうことだろう?なにもかもが薄い。なんかね、彼らがそこに生きてないんだよなあ。

クドカンがマザコン、幼稚園児な男の子の下品ネタ好き、ジェンダー交換好き、というのはまあドラマでも判っていたけど、やっぱりそうなのね、と再確認。12月に勘三郎さんがやるかもしれないクドカン歌舞伎が非常に心配になってきた私です…。

個人的に堤真一のふくらはぎの筋肉萌え&まだまだ切れ味鋭い殺陣にまだまだ『アテルイ』の田村麻呂できるね(^^)の確認作業できた、それと古田新太のまともな歌声が素敵だつーのが収穫、くらいかな。あ、それから高岡早紀が役に合ってて永作博美降板でのキャスト変更は良い方向に出たね、というのもプラスの方向だった。

役者でいえば、天晴@堤真一はこの芝居に出る意味がなかった。いや、つっつんじゃないと舞台に華がなくて困ったろうけど…。確かに凄くカッコイイよ、でもそれだけ。衣装も素敵だし、何より姿が綺麗だし、動きのキレもいいし、役者だけ観てれば満足できるかもしれない、でも天晴のキャラには似合わない。強いて言えばつっつんは闇太郎のキャラだ。天晴というキャラは生きる事に倦んでなければいけないと思う。すべてに諦観し、心が冷え切ったキャラであれば設定上、活きてくるキャラだ。でもつっつんはいつもの骨太な生命力に溢れている、陽性キャラとして演じてしまった。なので闇太郎とキャラまるかぶり。役者二人の対比が活きてこなかった。いや、それだけじゃないな、クドカンが天晴を書き込めてないんだ。だからつっつんはいつものつっつんで演じるしか無い感じもした。

闇太郎@古田新太もいつの古ちんでしかなかった。重い太刀筋の殺陣はやっぱりカッコイイよ。生きることへの執着をもち、女性に甘えるタイプ、という部分では闇太郎は役者の柄に合っている。でもね、それだけなのよ。それ以上のものが無い。闇を抱えるという部分での得体の知れなさ、みたいな部分、必要だと思うんだけどその闇を抱えているようにはみえない。陽が勝る。まあ闇太郎に関してもやはり脚本の書き込み不足だよなあと思う。もう役者が深めようがないんだよね。そのなかで私には古ちんは苦戦しているように見えた。

お寸@高田聖子さん、可愛綺麗だしパンチもある。でも、聖子さんのキャラだけでなんとか見せてるけどやっぱお寸という人物像がまったく立ち上がってこない。天晴とお寸姉弟の行動原理には芯がなさすぎる。その場その場でコロコロ変わる、のはいい。でもその背景が見えないのが…。

銀之助@勝地涼くん、頑張ってた。可愛いし。難しい役の分、もっと存在感が欲しかったけど。銀ちゃんの役、かなり大事だと思うんだよね、設定上は。でもやはり書き込めてないよね。それと演出もね、もっと役者本人で余韻を持たせてあげればよかったのに、と思った。

とりあえず、なんにせよ、脚本の書き込み不足はどうにもならなさそう。これ以上、進化していく芝居と思えず。役者はそれなり、自分の本分をしっかり演じてきてるしね。

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いのうえ歌舞伎☆壊(Punk)『蜉蝣峠』

脚本:宮藤官九郎
演出:いのうえひでのり
出演者:
古田新太
堤 真一 
高岡早紀
勝地 涼 
木村 了 
梶原 善 
粟根まこと 
高田聖子 
橋本じゅん