Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

新橋演舞場『秀山祭九月大歌舞伎 昼の部』1等A席1階前方花道寄り

2012年09月22日 | 歌舞伎
新橋演舞場『秀山祭九月大歌舞伎 昼の部』1等A席1階前方花道寄り

『秀山祭九月大歌舞伎 昼の部』2回目の観劇です。

『菅原伝授手習鑑「寺子屋」』
昼の部はなんと言っても『寺子屋』の充実ぶりが見事でした。まさしく大歌舞伎でした。

松王丸@吉右衛門さんが圧巻でした。やはり昨年の松王丸より今月のほうが芯に気が入っていて松王丸としての実感があるように思う。昨年は物語に奉仕している感が強くどこか第三者的目線での語り部的な部分があったような印象だったんです。しかし今月の吉右衛門さんの松王丸は物語に奉仕しながらも「そこにいる存在」としての血肉が見事にあったと思います。行動原理、そのなかでの感情にとても説得力がありました。松王丸の小太郎への想い、父や桜丸への想い、そして自身の立場の辛さ、そんなものすべて内包しハラに収めそして表出させる。

源蔵@梅玉さん、菅丞相への恩義を第一にしその想いゆえ菅秀才に菅丞相をだぶらせ大事に守っている、そんな源蔵です。この源蔵は「せまじきものは宮使え」と言いつつもそこに苦しみは感じていない。もし菅秀才を守れなかったらという罪の深さのほうに向いている。時代もののその立場ゆえの行動が透けてみえる梅玉さんらしい造詣の源蔵でした。

戸浪@芝雀さん、梅玉さんの源蔵の行動原理にぴったりと寄り添った戸浪です。源蔵と一蓮托生、そこが強い。そしてそのなかに女としての情を抱えている。芯がとても強い戸浪。芝雀さんには珍しい線の太い女性像を描き出していたように思えました。

千代@福助さん、母としての情味が溢れんばかりの千代でした。小太郎を気遣う様子、どこか覚悟しきれてない悲しさ、そういうものが浮き出てとてもても良かった。ただ好みからすると後半の部分は泣きすぎかな。情味の深さを十分に表現しているので泣きはもう少し抑えたほうが嘆きの深さが出るような気がします。

玄蕃@又五郎さん、こういうお役に必要な押し出しの強さがあってとても良かったです。単に憎たらしいキャラではなく仕事の範疇のなかで動いている役人風情があるのが面白かったです。

涎くり@種之助くん、初日に拝見した時よりノビノビとしておりやんちゃさが増して可愛らしかったです。

『河内山』
『寺子屋』に集中しすぎて『河内山』はまったりと観てしまった。

河内山@吉右衛門さん、愛嬌があって上品。憎めない河内山を造詣。爽快感のほうを大事にしている感があって喰えない小悪党の部分は薄めかな。

北村大膳@吉之助さん、先月に続きのお役、2ケ月の間にしっかりと成長させて本当に大健闘。

高木@又五郎さん、質実剛健タイプの又五郎さんらしい高木でした。又五郎さん今月二役ともとってもいいなあと思う。