Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

博多座『二月花形歌舞伎 昼の部』 A席1階前方上手寄り

2010年02月21日 | 歌舞伎
博多座『二月花形歌舞伎 昼の部』 A席1階前方上手寄り

2月21日(日)

『双蝶々曲輪日記「引窓」』
花形らしいとてもわかりやすい芝居になっていました。花形歌舞伎はコクとか滋味といった味わいが少ない代わりに輪郭がハッキリしてストレートに物語が伝わってくることがあります。その典型的な芝居になっていたように思います。思っていた以上にとても良くて嬉しくなりました。

南方十次兵衛/南与兵衛@染五郎さん、2008年10月秋巡業での初役を拝見しております。この時はこういう役は案外似合うなと思いましたし、かなり健闘していたと思いますがまだこなれていませんでした。その時と比べて今回、段違いに良くなっていました。役柄にピタッと嵌ってきただけでなく、義太夫のノリ地がかなりしっかりしてきて台詞廻しの緩急が非常に良いのに加え、決まり決まりの姿が美しくとても大きく見えました。染五郎さんの十次兵衛(与兵衛)は男の可愛らしさがあります。真面目で骨ぽい男なんだけど優しくて非常にキュート。出世した姿を母と妻に自慢したくてウキウキしている様などほんわかした空気感を出し場を和ませ、また、濡髪の存在を知った後の母想いの芯のあるキッパリした部分への切り替えもよく、とても心情が細やかで表情豊か。役柄にうまく緩急をつけてきたことで非常に説得力のある十次兵衛(与兵衛)になっていました。また、染五郎さんが出てくると場の空気が締まり濃くなっていました。この役、持ち役にできるでしょうね。ここまで持ってきたことにも感動しました。

母お幸@竹三郎さん、輪郭がくっきりして感情の流れが非常に分りやすいお幸でした。上方の役者さんならではのお幸なのかな。場面ごとの心持ちをかなり明確に表現してくるんですね。母としての子を想う強さを前面に押し出し芯がしっかりしています。濡髪長五郎@獅童くんが手順に手一杯で濡髪の心情をしっかり出せていなかった分、竹三郎さんがその心情の明快さで、色んな場面、カヴァーしてあげていたように思います。さすがベテランの役者さんです。

お早@高麗蔵さん、やはり2008年10月秋巡業で拝見しています。高麗蔵さんはちゃきちゃきした雰囲気がある方でどうしても上方で遊女をしていたという、はんなりした雰囲気はありません。なんとなくお江戸の女性ぽくなってしまうのですね。それが前回の時は強かったように思いますが、今回、やはりちゃきちゃき感はそのままではありますが、お早という女性の性根の部分の可愛らしさというものを表現してきてて、とても良かったです。夫と義母の両方ともとっても大事に思っているというのがしっかり伝わってきました。

平岡丹平@種太郎くん、三原伝造@壱太郎くん、かなり若い、幼さの残るお役人さんです。若すぎるかなあと思いましたが、二人ともきちんと一生懸命にこなしている分、弟、兄のために敵討ちをと必死になっているのね、というようにも見えなくもなく、未熟さが物語の粗にはあまりなってませんでした。平岡丹平@種太郎くん、ちょっと力みすぎかなと思いますが台詞がだいぶしっかりしてきました。

濡髪長五郎@獅童くん、姿は非常に良いし、声もよくでてる。関取らしい風情はあったとは思います。が、そこが良いだけに…。必死にやってるのには好感持ちます。しかし、台詞があまりに一本調子。義太夫のノリ地がまったくできていません。また決めの部分で腰が入らないので決めきれないのですよね。それと、芝居の手順でいっぱいいっぱいのようで、受けの部分でまったく受け切れてない、ただひたすら自分の出番のきっかけを待ってる感じ。なので濡髪の心情がしっかり伝わってきません。姿が良いだけにもったいないです。


『猿之助十八番 金幣猿島郡』
「宇治通円の場」「橋姫社の場」「木津川堤の場」

突っ込みどころ満載で面白かったです。派手だし、ただひたすらエンターテイメント。亀治郎さんオンステージな舞台ですが周囲もきちんと固めていて楽しかったです。

清姫/藤原忠文@亀治郎さん、活き活きと楽しげにかつ必死にやっていてるのが伝わってきてとても良かったです。清姫は、恋する男に一途で押しの強い女の子。いかにも亀治郎さんにピッタリのお役でした。目が見えない最初はいじらしいのだけど目が開いた途端にあからさまに押し捲る強い女の子(笑)。頼光と七綾姫に嫉妬する様は同情するより思わず笑ってしまう。あまりに前のめりな様に色々笑ってしまったけど、叶わぬ恋をする女の哀れさは必要ないのかしらん(笑)と思ったりも。でも、亀ちゃんらしくて、これはこれで好きです。忠文のほうはねっとり系のストーカーちっくな男。こんなんじゃ七綾姫がなびくわけないわ。亀治郎さんはその忠文をこれでもかとしつこく演じてそのねっとりした情念を見せてきます。清姫/忠文のどちらも亀ちゃんらしい造詣。個人的には清姫のほうがより似合っていたと思いますし、好きですねえ(基本、亀ちゃんの女形が好きなので)。猿之助さん時はどういう感じだったのでしょうね?

如月尼実は乳人御厨@歌六さん、カッコイイ。以前、女形さんを拝見した時は加役といった雰囲気でしたが、今回はしっくり嵌っていて素敵でした。筋書きを読むと何度か手掛けているお役なんですね。乳人としての性根が強く、目的もはっきりしています。そこをぶれないでキッパリと演じていらして存在感ありました。それでいて、母だからこそ娘の命を差し出すことができるのだという母という女の強さの部分も感じさせました。こういう母だから、ああいう清姫なんですね(笑)

安珍実は文珠丸頼光@染五郎さん、美しい貴公子です。女にモテモテなのもよくわかります(笑)。高貴のお方らしく、おっとりと繊細で優しいです。女に挟まれオロオロとしつつ、どちらにも情をかけちゃう。でもそれが女たちを惑わすんですよっ、と突っ込みが(笑)。とはいえ二世を誓った七綾姫が一番大事というのがまた可愛気でもあります。足手まといといいつつ水を汲みに行っちゃうんですからね(笑)

七綾姫@梅枝くん、綺麗ですねえ。おっとりといかにも赤姫らしい風情。世間をまだよくわかっていない風情がいい感じです。もう少し、頼光らぶ光線を飛ばしてくれるとなお良し。でも梅枝くんは次世代の真女形として本当に有望な若手です。頼光@染五郎さんと七綾姫@梅枝くんカップルは雰囲気が非常に良くて相性がいいかも、と思いました。この二人で他のものも観てみたいです。

腰元桜木@門之助さん、勇ましい女性をキッパリと。私は門之助さんは女形さんのほうが好きなんです。このお役、お似合いでした。かなり派手な立ち回りをしっかり決めていらっしゃいました。

犬上兵藤@猿四郎さん、存在感ありました。上手いですね~。役をしっかり演じつつ、さりげなくアドリブもきかせられる。

寂莫法印@獅童さん、ひたすら浮いてました…。他が役者さんたちが歌舞伎味たっぷりで濃い芝居をしているので、一人場違いというか歌舞伎役者に見えない…。軽すぎるというだけでなく、寂莫法印というキャラになりきれていません。出だし、ハプニングで運んでいる鐘に足をぶつけてしまい、そこで本気で痛がって、笑いを誘ったまではいいのですが、そこから芝居にきちんと戻せない。その後も素で笑ってしまう部分も度々だし、何より寂莫法印という役柄で何をしたいのかという部分みせてこれてませんでした。うむむ、これはちょっと、う~ん。復活狂言でいわゆるきちんとした型がないだけにかえって地力が出ちゃうんだろうなあ。役柄的には美味しい役だと思うんですけど…。

『大喜利所作事 双面道成寺』
『奴道成寺』と『法界坊』の大切りの『双面水照月』を合わせたような所作事。かなりハードな舞踊です。 面白かったのではありますが物足りなさも残りました。踊り上手な亀治郎さんですが、この長時間の舞踊、まだメリハリつけて魅せる、場を支配する、というところまではいってませんでした。さすがにこの踊りは難しいのでしょうね。勿論、丁寧にかなり上手く踊っていたとは思います。しかし、踊りわけがピタっと決まらないとこも散見。おかめ(傾城)、お大尽(客)、ひっとこ(幇間)」の三つの面での舞踊は切り替えの早さは見事でしたが、もうひとつメリハリが足りない感じ。切り替わりの間というかタイミングに溜めが欲しいのと、女と男の切り替わりの身体の使い方の差がきっぱりと出てこない部分が。また双面のほうでは声での演じわけは見事でしたが清姫の霊と忠文の霊の差がそれほど出ず。特に忠文の霊の部分にあまり凄みがありません。女形の部分は非常に柔らかくていいんですが、男になる時も身体の線に丸みが出てしまう感じ。亀治郎さんは柔らかい踊りのときは良いけど、大きさを求められるときにまだその大きさが十分に出ないって感じかな。こういう舞踊の時には全体が柔らかすぎるのかも。よくやっていると思うのですが猿之助さんの舞踊となんとなく比べてしまった、という部分でちょっと辛口になってしまった。

白雲@高麗蔵さん、黒雲@門之助さんの「起き上がりこぼし」の踊りが可愛らしかったです。

頼光@染五郎さん、七綾姫@梅枝くんはひたすら綺麗でした。顔だけでなく姿勢も!かなりの時間、じっとしているのですがピクリとも動きません。