Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

新橋演舞場『寿初春大歌舞伎』 3等A席上手前方

2011年01月08日 | 歌舞伎
新橋演舞場『寿初春大歌舞伎』 3等A席上手前方

前日に富十郎さんのお通夜があったこともあるのか役者の皆さん若干お疲れぎみかなと思う場面もありましたが三演目とも芝居がしっかりまとまっていたと思います。

『御摂勧進帳』「加賀国安宅の関の場」
通称『芋洗い勧進帳』、現在よく上演される『勧進帳』より以前の作品だけあって古風な味わい。キャラクターも単純でおおらかな荒事になっています。筋はほぼ『勧進帳』と同じですが、関守には富樫とは別に敵役の斎藤次がいます。山伏に化けた義経一行が加賀国安宅の関に付いたときには弁慶はおらず後から追いかけてきます。問答部分はほぼ『勧進帳』と同じ展開。その後、身代わりに弁慶だけ残され、木に括られてしまいますが、義経一行が遠くへいったと判断した後、弁慶が大暴れして役人たちの首を取っちゃ投げ、取っちゃ投げして天水桶に入った首を金剛杖でかき回す、という荒唐無稽なエンディング。

この演目を朝一に?と思っていましたがおおらかさのある演目なのでのんびりゆったり拝見できて朝一の演目としても意外に良かったです。見た目の華やかさもありますし、若手中堅が中心の座組みでの爽やかさもありましたし。

弁慶@橋之助さん、真っ直ぐでちょっと生真面目な熱血漢といった風情のさわやか弁慶でした。おおらかな稚気はあまり無いものの橋之助さんの持ち味が良い方向に出てとても良い弁慶だったと思います。義経一途さが前面に出て感情移入しやすい。役人たちの首を取っちゃ投げも、単純な明るい笑いに転化できましたし、ラストの芋洗いもホッと一息できるような空気感がありました。

富樫左衛門@歌六さん、いかにも生真面目ながら人の心を知る、性根のよさが非常に感じられる富樫でした。

斎藤次@彌十郎さん、敵役ではありますが理不尽さはなく憎めない敵役です。どことなく飄々とした雰囲気が楽しかったです。

義経@錦之助さん、品よくきっぱりとした義経。

義経一行はベテランから超若手まで。さすがに桂三さん、宗之助さん、吉之助さんは手堅い。若手では種太郎くんが随分としっかりした台詞で存在感ありました。

居並んでいる時、吉之助さんと種太郎くんは弁慶@橋之助さんを超ガン見。勉強熱心です。


『妹背山婦女庭訓』「三笠山御殿」
最近、なかなか付かない漁師鱶七の御殿入りを付けた『三笠山御殿の場』です。長丁場にはなりますが物語がわかりやすくなって良いと思います。橘姫の入りから始めると鱶七というキャラがあまりに突然の登場になってしまい、その突然出てくるキャラがお三輪を殺すことに納得できないことが多いので。

お三輪@福助さん、3年前にも拝見していますがその時より顔の表情を押さえ体全体で表現していました。非常に丁寧にしっかりと演じてらしてとても良かったです。田舎娘の可愛らしさいじらしさが自然と伝わって来る。特にいじめられる前半に良さが際立った感じ。歌右衛門さんを彷彿させる場面も多々。ただ丁寧にやりすぎたか、後半の擬着の相をあらわすシーンは迫力に欠いた。今回は嫉妬心が弱かったかな。3年前は恋狂いがストレートに出てそこに哀れさがあったのだけど、今回は情念の部分は割と押さえ気味。その代わり求女一途さの少女ぽさのほうが際立ったお三輪ちゃんでした。

漁師鱶七実は金輪五郎今国@團十郎さん、似合うお役です。特に前半の御殿入りの場は衣装も似合い漁師らしい素朴さ、おおらかさがあって非常に良かったと思います。後半は珍しく大きさがいつもより出てなかったかな。声が掠れ気味だったので少々お疲れだったのかも。圧倒的な、という感じではなくどことなく人の良さが見え隠れ。とはいえ、團十郎さんならではの華やかさでしっかり見せてきたと思います。

橘姫@芝雀さん、これぞ赤姫といった品のあるふんわりとした風情の可愛らしい橘姫。また芯の強さ、情の濃さがあり、橘姫ってこんなに存在感あるお役だっけ?と目を見張りました。芝雀さんはやはり基本は赤姫役者なんだなと思いました。

求女実は藤原淡海@橋之助さん、芝翫さん休演のための代役ですがかなりの健闘ぶり。品のある二枚目風情に芯のある台詞廻し。声が芝翫さんにそっくりなんですね。


『寿曽我対面』
歌舞伎の様式美溢れおめでたい演目ですが個人的にかなり飽きがきている演目です…。さすがに最近、掛かりすぎじゃないでしょうか。とはいえ、昼の部のなかでは一番、濃密な空気感が感じられた演目ではあり満足感は高かったです。

工藤祐経@吉右衛門さん、さすがの存在感。工藤の格の高さ、大きさ、懐の広さがそこにあります。お見事というしかないですね。2009年に曽我五郎を演じられその勢いが目に残っていますが、やはり今回の工藤のほうがしっくりきますね。台詞も朗々と響いて調子が良さそうでした。

曽我五郎@三津五郎さん、まずは何より形の良さに惚れ惚れ。2007年の時に演じた時より形が整っていたように思うのがこの方の凄いところ。腰の入り方、手の位置、手先足先の美しさ、勢いのよさ、力の入り具合、すべてのバランスが良かったです。歌舞伎は舞踊が基本、それを痛感させます。 台詞も力強さはあるが力まずに明快に。これぞお手本だ~~と思いました。

曽我十郎@梅玉さん、品のよさと柔らか味のある美しい十郎でした。また兄としての手強さと芯があり、お見事。やはりお手本のよう。

小林朝比奈@歌昇さん、観ていて非常に気持ちのよい朝比奈でした。押し出しといいい、響き渡る台詞といい、そこはかとない茶目っ気といい、役にピッタリ。

大磯の虎@芝雀さん、艶やかで貫禄のある大磯の虎。出すぎない存在感とでも言うのか、控えめにしつつもそこに濃厚な空気感がありました。

化粧坂少将@巳之助くん、大役です。線の細さは否めませんがモダンな美女ぶりでなかなか頑張っていたと思います。