Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

国立大劇場『通し狂言 貞操花鳥羽恋塚』 3等席中央

2005年10月15日 | 歌舞伎
国立大劇場『通し狂言 貞操花鳥羽恋塚』 3等席中央

休憩入れて5時間の長丁場。病み上がりの身には少々きつかったけどなかなか楽しめました。「平家物語」から取った題材をオムニバス形式で見せる筋立て。一応、通しとしての物語の一貫性はあるものの登場人物が盛りだくさんすぎて、ひとつの物語としての一貫性を追って観ようとすると訳がわからなくなりそう。

主たる人物だけでも源頼政、頼豪阿闍梨の物語、崇徳院等の物語、遠藤武者盛遠、袈裟御前、渡辺亘の物語の三本が語られる。一応、それぞれ独立した物語として楽しめるようになっているので気分を切り替えて観たほうが面白いかも。ヘタに全体像をつかもうとすると物語として薄くなってしまう可能性が。四世南北は顔見世狂言のつもりで書いたようだが、確かに各幕ごとで役者たちの見せ所を作ったお話なんだなあという感じでした。場面場面はかなり面白い出来なのに全幕一貫してものとしてみるとチグハグさが気になって「物語」としてなんだったんだろう?という…。そういう部分で、チグハグさを楽しむのもいいのかも。

南北ってやっぱり一貫性を求めてはいけない物語作家なんだなと思う。一場一場をどう見せるか、人物像もその場その場での気持ち本位。それが南北ものの登場人物の面白さに繋がる。ただ今回、どうやら演出的に一貫性を求めてしまってる感がある、それが面白みを薄くしてるような気もした。一場一場、しっかりたっぷり見せてくれたらもっと面白かったかもなあ。おどろおどろしい部分や、仕掛けなど、そういうとこはたっぷりやってましたが、なんとなく筋立てをわかりやすくしすぎてる気が…。いや、単に私が複雑怪奇なお話が好きだからなんですけどね。難しいとの感想が多かったので気負って観たら、案外わかりやすくて、あら?とか(笑)。

それと役者がかなり揃っていたのだけどそれでも中心人物をやる役者が足りないという贅沢な芝居で今回重要人物に関しては一人二役が多かった。でも一人二役でないほうがより面白かっただろうと思う。あまり一人二役の意味はなかったし。個々の登場人物が「○○実は□□」という設定キャラクターばかりなので、ひとつの役を一人で集中してやったほうがたっぷり感は出ただろうなあ。役者さんたちはかなり頑張っていたんだけどね。

今回は若手がかなり頑張っていたという印象。もちろんベテランの存在感あってこそ、それが際立ったのですが皆さん成長しているなあととても嬉しく思いながら観ていました。

松緑さんは崇徳院で迫力のある筋違いの宙乗りをみせてくれて、そこは面白かったのですがだいぶ大きさは出てきたものの凄みや狂気といったものがほとんど無いのが今後の課題かな。雰囲気が明るすぎるのですね。その代わり、音平(蔵人)のほうが非常にいい出来だったと思います。まっすぐさ、奴らしい面白み等がよくでてました。

孝太郎さんは待宵の侍従と薫をしっかり演じ分けてましたね。待宵の侍従は人妻らしいしっとりとした雰囲気で、薫のほうはおっとりと可愛らしい姫でした。個人的には薫のほうがかなり可愛らしくて気に入りました。

信二郎さんは平宗盛と長谷部信連という正反対の二役をしっかりこなしていました。悪役の宗盛は少々線が細いかなとは思ったものの、しっかり押し出しもあり、重い台詞回しも無理せずきちんと出していたのが印象的。「毛抜」の弾正を経験した効果でしょうか。長谷部信連のほうはニンにあっていてすっきりとした良い出来でした。

他に若手では男女蔵さん、玉太郎さん、亀三郎さん、亀寿さん、それぞれ持ち味を活かしてメリハリのある芝居を見せてくれたと思います。特に男女蔵さんの憎まれ役は非常に良かった。存在感が出るようになりましたねえ。

ベテランでは富十郎さんが少々、やっぱり衰えたなあとの印象を持ってしまったのですがそれでも存在感は抜群でした。なんだかんだいっても最後の場を締めてくれたのは富十郎さんの遠藤武者だったかな。袈裟御前との町家の暮らしを再現してみせた宿六役が絶品でした(笑)このメリハリがつけられるのはベテランならでは。時代からがらりと世話に落としてみせる。うまい。

時蔵さんはこのところ美しさに輝きが増してきましたねえ。今回は小磯と袈裟御前の二役。どちらも堅実。小磯は可愛らしく、またいきなり姫にさせらたときの戸惑いぶりのちょっと天然はいったほわーっとした部分がなんともいえない時蔵さんらしい味わい。袈裟御前は艶やかで芯のある大人の女。やはり町家の暮らしを再現してみせた時の世話の台詞回しがまた絶品。今非常に充実している女形さんでしょうねえ。

3 コメント

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遅まきながら… (ぽん太)
2005-10-28 00:26:37
国立の感想、TBさせてもらいましたぁ。

私も今回、若手と呼ばれる役者たちが実はかなり成長していたんだ!と、如実に感じましたデス。

なかなか役につけない事情もあるでしょうから、国立、それも今月のように大奮闘公演になると、色んな発見がありますね。

松緑は奴やらせたら天下一品(笑)であり、蔵人も奴もどきですし、どっちかというと崇徳院をがんばってたな~という印象でした。



全体として、雪樹さんご指摘の通り、無理に筋を通そうとして理に落ちた分、一幕一幕の見世場が小さくなったような気がします。

でも、筋交いの宙乗りは「イヤッホー!!!」って感じでしたけどね(笑)
筋交いの宙乗り (雪樹)
2005-10-28 09:55:16
ぽん太さん



TBありがとうございます。あとで私もトライします。今度こそ成功するといいな。



今月の国立は若手が本当によく頑張っていたと思います。今回の配役は国立ならではだったし、こういう若手奮闘公演は大歓迎。



松緑さんは、確かに奴は天下一品かも。本当に似合うし、柄にもとても合っているんでしょうねえ。こんなに明るいオーラがあったんだと改めて見直しました。崇徳院は私が拝見した時はまだまだ段取り追ってる感じだったのですが後半もっとよくなっていたでしょう。大きさが出てきましたねえ。



今回、全体的には少々コクが足りませんでしたが面白い狂言なので、この演目は歌舞伎座でそれこそ大顔合わせでやったら楽しいだろうなあと思いながら観てました。



筋違いの宙乗りは本当に迫力ありましたねえ。これに関しては3階にして良かったと思いましたよ。暗転の演出も良かった。



やりましたね!TB(喜) (ぽん太)
2005-10-28 10:18:11
雪樹さん、とうとうTB成功ですね!

urasimaruさんのところにもちゃんとTBできてたみたいなので、潮が変わった・・・(おおげさ?笑)と思ってました。

とても嬉しいです!



「筋交いの宙乗り」は大変な評判でしたが、実際にみてみるといやあ、本当に最高でした!

いきなりの暗転から、パッとライトが当たるといきなり頭上という演出もよかったです。

ただ、ドブ外の私には「あちゃー、駄目だ、すでに後ろ姿だ…」って感じでしたが、さすが国立劇場。一度七三あたりまでバックしてくれたので、なんとか前の雰囲気だけはつかめて、ありがたかったです。

宙乗りで後退というのもナカナカでしたし、空でぶっかえるのも大迫力でした。

三階席はたしかに特等席でしたね。いいお席でご覧になれて何よりです。でも、本花道のドブ外も「崇徳院、足の裏席」で結構よかったですよ(笑)