Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

明治座『五月花形歌舞伎 昼の部』 1等1階前方センター

2011年05月22日 | 歌舞伎
明治座『五月花形歌舞伎 昼の部』 1等1階前方センター

『義経千本桜~川連法眼館の場』
忠信@亀治郎さん、初日の時より本物と狐とのメリハリが出ていて良かったです。狐忠信の表情がかなり子供っぽい作りになってた感じ。子狐の’子’の部分の愛らしさを強調する方向に。狐と見現した後がとても無邪気。丸顔なので尚更幼く見えるのかな。本来の狐忠信は成狐で長年生きてきた妖狐ですが、澤瀉屋の狐忠信の性根の芯は親を慕い想う気持ちを強く押し出す。そこがよく出ていました。台詞を言う時の息遣いが独特。なるほどあれで台詞コントロールしてるのですね。その息遣いを隠さず獣らしさを表現するものとしてわざと見せているような感じでした。 また、身体もよく動いていました。しかも丁寧に動くのでひとつひとつの動きが鮮やか。武将忠信のほうは丁寧にしっかりと。動きもだいぶこなれてきた感じです。とはいえやはり小ぶり。線がどことなく柔らかだからでしょうか。

義経@染五郎さん、品よくしっかり受けの芝居。だいぶ存在感が出てきたかな?とはいえもっと押し出しが強くても良いですね。狐忠信の肉親への情愛への共感、自分の身の悲哀は深くなっており、狐忠信に鼓を与える行動に説得力が。その時の義経@染五郎さんはとても満足気な表情をしており何気に可愛い表情でした。今回はやはり通常の演出とは違い御簾と途中で下げずに忠信@亀治郎さんを最後までしっかり見送っていましたね。どんな気持ちで見送っているのでしょう。ご苦労様です。ちなみに荒法師軍団たちが出てきた時は若干素になって怪我しないでね~って感じで何気に心配そうな顔になってたのを見逃しませんでした(笑)。

静御前@門之助さん、古風な雰囲気がやはり良いです。ただ初日は丁寧に丁寧に演じてらして可愛い感じだったのですが今回は少しばかり動きが雑にみえ線が太くなっていたのが残念。義経さまラブの部分があまりみえなかったなあ。忠信@亀治郎さんとの息はきちんと合っていました。忠信への追い込みが強い静御前ですね。

亀井六郎@弘太郎くん、とても元気いっぱいではじけるよう。とてもよかった。

荒法師軍団は若手ばかりで勢いがあって良かったです。アンサンブルもよくなってきてたし、見応え充分でした。

『けいせい倭荘子 蝶の道行』
演出というか衣装は変えて欲しいけど、踊りは男女二人で直裁的に恋愛模様を描くので好きです。こういう舞踊は他にはあまりないから。『二人椀久』ぐらいかなあ。まあ『二人椀久』のほうが断然好きですけど。

染五郎さん、七之助さんコンビでの『蝶の道行』、やはり情の通い合いがもうひとつ足りません。個人的にはもっとお互いが大好き度が欲しいです。綺麗なカップルねで終わってる感じだなあ…。う~ん、染五郎さん、孝太郎さんコンビのイメージが強すぎるのだろうか?

特に小槇@七之助さんがだいぶ可愛げにはなってきてたけど、助国大好き度がまだ足りない。振りのなかでの表現がまだ足りないんですよね。踊りこめていない。目線とかちょっとした体の位置などなんだと思いますが。一途に相手を思うという「雰囲気」を身体全体から出せてない。

助国@染五郎さんは踊りこみは充分に出来ていますし身体の表情自体に色気がかなりあります。小槇に対しても熱い視線を送っているんですけど、そこが小槇@七之助さんとうまく噛み合わない。なので踊りこみが出来ている染五郎さんのほうがどうしても先へ先へと行ってしまってる感。レベルを落とせとは言いませんが、もう少し小槇@七之助さんに合わせてあげてもいいかも。

『恋飛脚大和往来「封印切」』
初日で感じた世話物は難しいのねという感想はそのまま。とはいえ全体のアンサンブルはよくなっており全体的には楽しく拝見できました。しかし初日のときより江戸前な『封印切』になっているのはどういうことなんだろう…。

忠兵衛@勘太郎さんはやっぱりニンじゃない気がする…。勘太郎さんらしい可愛らしさはありますが、いわゆる忠さんの可愛さではないんですよね。熱演はわかります、でもそれ以上のところまではまだまだいってない。ほんとにいっぱいいっぱいでやってる。とりあえず台詞廻しの緩急の持っていきかた、いわゆる「イキ」が違う。一生懸命なところは好感がもてますし、いわゆる芝居上手な部分である程度きちんと見せてはいるんですけど。でも忠兵衛を体現することまでいかない。忠兵衛のどうしようもない弱さ、婚約者がいるのに梅川に溺れて、金がないのに男としてミエっぱりなところを見せ追い詰められていく、そんなものがどうも見えてきません。どうしようもなくなっての梅川への「死んでくれ」のやるせなさが立ってこなかったです。忠兵衛って役、ほんと難しいんだなってつくづく思いました。勘太郎さん、意外と不器用かなと思う部分がいくつか。初日だからかな?と思っていた羽織や小判や財布の扱いに進歩があまり見られず…。上方狂言の世話ものは細かい積み重ねで人物造詣していくものなので、ついそこら辺が気になります。がんばってください。

梅川@七之助さんは初日がどうにもまったくハマっていなかったことを考えればかなり進歩していました。気の強さばかりが目だってましたが今回は忠さん一途な雰囲気がだいぶ出てました。台詞の調子を少し柔らかく変えてきていましたし表情もよく作れてた。ただし台詞のない部分がまだまだ。七之助さんは台詞は良いのですが身体を使って物語ることがまだまだ足りないですね。所作事、頑張ろうね~。とはいえきちんと成長ぶりは見せてきていました。

八右衛門@染五郎さん、今までの歌舞伎での八右衛門の敵役という造詣にこだわらずにやっている感じです。あくまでも「忠兵衛のともだち」としてぼんぼん育ちの上から目線での嫉妬心やからかいや対抗意識での振舞い。そのなかで図らずも忠兵衛を追い込んでいくという造詣。 初日は染五郎さん甘えたな雰囲気のほうが勝り、もう少し意地の悪さを出したほうがいいんでは?と思いましたが今回はこの造詣でもしっかり追い込めるんだなと思いました。舞台で一番客の雰囲気が盛り上がったのが八右衛門がいた場面でしたし。そういう意味で、一人でしゃべりまくる、仕方噺の部分がかなり上手くなっていた。また、勢いよく容赦なく忠兵衛を追い込んでいました。が、その代わり間合いが勢いが良すぎて江戸前でした…。忠兵衛@勘太郎さんと八右衛門@染五郎さん、どちらもつられてなんでしょうけど、上方言葉を話してはいるんですがお互い押しっぱなしで…。どこかしら緩急をつけてどこかボンボンの喧嘩のはんなりさを感じさせないと。 初日のほうが間合いはもっときちんと上方だったと思う…。