Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

日生劇場『十二月歌舞伎公演 昼/夜の部』 3等3階上手/下手

2011年12月07日 | 歌舞伎
日生劇場『十二月歌舞伎公演 昼/夜の部』 3等3階上手寄り/下手寄り

『十二月"花形"歌舞伎』でよかったのでは…と思いました。印象としては染五郎と松緑に普段なかなかやらない役に挑戦させ、海老蔵は復帰を印象つけるというコンセプトなんだろうねな公演でした。

さて、昼夜通して観た印象では華やかな演目は『碁盤忠信』のみ。他は地味でごつごつしい演目です(笑)。なんせ立女形が松緑さんだし(笑)。初日は色んな意味で初日でした。いや、むしろあそこまでよくやれたって感じだったかも。特に新作『碁盤忠信』。

【昼の部】 

『碁盤忠信』
まともな資料がまったく無いなかでよく作り上げてきたなと思う。完全に「荒事」に仕立ててきていました。演出、芝居ともに練りきれてない部分は多々だし、舞台機構面でも盆とすっぽんがあればな~という感じではありましたけど感覚的に楽しい演目になっていました。

構成は二幕三場仕立て。なぜか序破急ではなく急序急な舞台です。序幕でお約束の物語説明の芝居があり、そこから一気に派手な立廻り。クライマックを最初に持ってきた感で、そこでもうそれやるんですか?ってビックリ。初っ端から盛り上がりましたけどこれでどう繋げるのかな?と思いましたよ。二幕一場はトーンを一段落として細かい見せ場を作りこんでいました。この場がまだ演出も芝居も練りきれてない部分が。場面場面で面白いとこはあるのですが繋がりが甘い。個人的好みでいえばもっと大胆に単純に演出してもいいな。碁石とかもっと大きくてもいいし。ばかばかしさを追求したほうがよいような。最後の場はこれでもか~な派手派手で楽しい。視覚的、感覚的なところで楽しませようという趣向。観客は厄払いをしてもらえます。

全体の雰囲気として染五郎さんらしいウイットというか洒落が随所にあって楽しいお芝居になっています。あと舞台面の華やかさをよくみせてきたなと。またかなりの混成メンバーだと思いますがアンサンブルが思った以上によかったです。後半にむけもっと締まった芝居になると思う。

忠信@染五郎さん、華やかさもキレもあるしなにより形のよさがある。また稚気という感じではないがほどよく抜け感もありキャラクターとしてはしっかり立っていたと思う。観客を楽しませようという気概も感じられましたし、身体を思い切り大きく動かし、観ていて気持ちのよさを感じさせます。ただ荒事をあまり手掛けてないこともあるのかまだまだ荒事が身体に沁みてない。線が細くてもちょっとした間というか溜めの動き&バネのあるような動きが欲しいな。また、呂の声はしっかり出て安定感が出てきましたししっかり響きますが甲の声が出きらないですね。富樫あたりだとだいぶ使えるようになっていましたけど、さすがにこういうthe荒事の役だとまだまだ。出きらない声質でももう少し声を広げる工夫をしてほしい。

塩梅よしのお勘実は呉羽の内侍@笑三郎さんが非常に魅力的。芝居がしっかりしているし味わいが深い。とても素敵でした。また言い立ての台詞を滔々と語りきかせて緩急が上手い。緩急の間が玉三郎さんにちょっと似てるかも。

義経@亀三郎さんが序盤、しっかり台詞を聞かせてきて良かったです。

静御前@春猿さんは可愛らしく丁寧に。

小柴入道浄雲@錦吾さん、残念ながらまだこなれていない。ある程度の年齢以上の役者さんのこと考えると稽古日数をしっかり取れるようにしないと可哀想。強欲さが可笑し味として出ると面白いお役だし重要なお役なので頑張っていただきたいです。

覚範@海老蔵さん、いでたちが和藤内。イメージの覚範ぽくないかな。もっと忠信と対照的なほうが面白いような。見た目派手・派手並びで華やかになるからいいのかな。荒事は似合うし、甲の声が気持ちよくでてる。しかし台詞廻しがやっぱりいつも通り籠もってしまい言葉がはっきりしない…もったいないですね。

『新古演劇十種の内 茨木』
これはつくづくと難しい演目ですね。松緑さん挑戦の巻。まず全体的にいえば緩急が足りない。見せ場が見せ場になりきれず。まあ初日ですから、皆で少しづつ作りこんでいってほしいです。

伯母真柴実は茨木童子@松緑さんは身体の使い方がこのところかなり良くなっていますねえ。体をきちんと殺せてるのがまずポイント大きいです。踊りは出から門外のクドキまではかなり良かったです。表情豊かで切々としている。ただ綱宅内から後半に向けてまだ振りをこなしてますになってしまっていました。それでも松緑くん、真柴の部分は上々。踊りこんでいけばモノになっていくと思います。鬼の茨木童子の見現わし以降が少々迫力不足。異のオーラが出てないのと動ききれてなかったです。バネがある人なのでこなれてくると動きはよくなると思う。異の部分は目の使い方や間の工夫が必要かも。

渡辺源次綱@海老蔵さん、このお役はニンだと思います。座している時の佇まいが良し。丁寧に演じていたと思います。後半の立ち回りも迫力があります。が、少々音に乗れてない部分が。舞踊劇なのだから音をもっと聞いて欲しい…。衣装が少々着せられている感。あそこまでもこもこにしなくてもと思いますが。すっきりさせたほうがカッコイイのでは?台詞に関しては…精進してください。

家臣宇源太@亀寿さん、出るところは出て控えるとこはきちんと控えて安定感あり。キリリッとした風情も良かった。

太刀持音若@梅丸くんが相変わらずお行儀よくて可愛いです。踊りも丁寧だししっかりしてきた。

間狂言の亀三郎さん、市蔵さん、高麗蔵さんの三人がほどのよい品のよさ。間狂言できちんと場が締まってみえるのがさすがベテラン。

【夜の部】

『錣引』
なぜこの演目??とにかく元の本が面白くない…。しかも芝居の作りに盛り上がる要素があまり無い。

染五郎さんと松緑さんの息のあった芝居を(じゃれてるともいう)見るのが好きな私には楽しめるとこはあったけど…。二人でやるのが楽しいって空気感は伝わってきたし二人の拵えとかも含めて九月秀山祭の『石川五右衛門』の続きをみてる感じもしました。でも単純にお芝居としては面白みに欠ける。芝居がこなれていくうちにメリハリはつくでしょうけど限界がありそうな気が…。染五郎さんと松緑さんなら丸本物をやらせれば良かったのに。この二人で評判よかった『引窓』とかでもいい。一演目くらいこの二人の個性が活きるものをやらせても良かったと思う。

『口上』
三人だけだし10分もなし。紋付袴姿の口上が珍しい。拵えしてない完全に素顔な三人の並びが新鮮。三人ともそれぞれ違う華ですが華がある役者三人だと思いました。内容はそれぞれ神妙に。

『勧進帳』
『勧進帳』という芝居そのものが立ち上がってなかったです。個々はやることやってるのにまとまりなし。初日で見る限りは技術うんぬんの前に(富樫、番卒)(弁慶)(義経、四天王)の3グループ化されておりました…。ベクトルがそれぞれに違う。

弁慶@海老像さん、風貌も良いですし骨太さ、存在感があります。単純な荒事のように演じていましたかね。太い線でそのまま同じトーンで演じていく感じ。視覚的な部分でインパクトがあります。しかしオーバーアクションがかえって心情を消している感じです。弁慶に必要な義経大事の心情(弁慶は単純に義経に惚れこんでいる思うのです)とか義経を逃すためののための命がけの一芝居、富樫との丁々発止、お互いを認めての感謝等々、そういうものが芝居のなかから見えてこなかったです。型どおりに自分ひとりで手順をこなしている感じ。初日では誰とも対峙できてなかった。特に受けの芝居ができてない。だから攻めも甘くなる。私が今の海老蔵さんの感性と相容れないってことなのかもしれませんが…。以前はどこかしらに「熱」があったけど今回はその熱もみえなかったです。必死さが義経大事にも繋がっていた新之助時代の弁慶が幻だったのかしら?と思えてきます。

また台詞廻しが…。発声も抑揚もリズムも、どうしてああなるのかがよくわかりません…言葉が立たないと思うんですが…。好みもありますけど、あの発声は好みじゃありません。またあんなに目をひん剥かなくても。それと緊迫感が必要な場で歯をむきだしにするのもちょっと…。

海老蔵さんのこういう芝居から浮いた加減が好きな人は好きなんだろうなというのはよくわかりますが、私の求める方向とは違います。

富樫@松緑くん、口跡がかなり良くなっててそこがまず感心。姿も動きもとても良くなってる。このところ成長著しいですね。全体的に安定した富樫でした。しかし造詣は良いところと悪いところと。松緑さんは富樫をかなり厳しい人物像として造詣してました。前半は関守としてのしっかりとした厳しさに通じそれが活きていて良かったです。ただ、最後まで厳しさを崩さず、こういう人物は義経一行に関所を越えることを許しそうにない感じがしてしまいました。許した瞬間がなかったです。弁慶に対して「大した人物だ」という感心が現れてない。なので富樫の見逃しの感情のありようがきちんとみえてこない。弁慶の必死さに感心して、という在り様ではなく、従に打たれても我慢し従を信頼し運命を静かに受け入れようとする義経のために、という部分を出してもいいと思うのです。富樫の在り様をどこに持っていくか、まだ鮮明に出てきてない感じでした。なので富樫の死をも決意した覚悟のところが形がいいのに曖昧になってる。もう少しメリハリつけて演じてきてほしい。とはいえ伸びしろを感じさせましたし今後に期待。

義経@染五郎さんは衣装を着せられて感じのあったさよなら公演の時の義経から比べて相当成長していました。格の高さと透明感のある悲劇の貴公子然としたこの人だから四天王はついてきたときちんとわかる佇まい。そしてその品格のなか懐の深さをにみせた。弁慶へのねぎらいや情味が台詞のなかにしっかり入っていました。良かったと思います。そういえば染五郎さんは義経は誰に習ったんだろう?と思いました。なんとなく芝翫さんかな?って思いました。どこかほんのり感じさせました。また、勘三郎さんかな?と思わせる部分も。ふんわりと勘三郎さんに重なったところもあったんです。もしかしたら、芝翫さんに習って、今回は勘三郎さんに稽古を重ねてもらったりしたかも。

今回、一番『勧進帳』のスピリッツがあったと思ったのが亀三郎、亀寿兄弟の四天王でした。伊達に幸四郎さん弁慶にずっと付き合ってたわけじゃないですねえ。義経を守ろうとする気迫といい気概といい、素晴らしかったです!!!!この二人が四天王を引っ張り、主君大事な結束力をつくりあげてた。富樫への詰め寄りの迫力は抜きん出いました。