Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座さよなら公演『二月大歌舞伎 夜の部』 3等B席上手寄り

2010年02月06日 | 歌舞伎
歌舞伎座さよなら公演『二月大歌舞伎 夜の部』 3等B席上手寄り

3等B席でしたが花道七三がかろうじて見えて意外と良い席でした。隣がたまたま空いてて足伸ばせたのもあり、ストレス無しの楽な観劇でした。イマイチ、間が悪い大向こうさんがお二人ほどいたのが少々悲しかったけど。

『壺坂霊験記』
文楽でしか観たことが無かった演目です。蓑助さん操るお里の狂乱ばかりが印象に残っています。演目自体はあまり面白みを感じず、それほど期待していなかったのですが、これが意外と面白く拝見。文楽は沢市が死んだことを知ったお里の狂乱部分が見せ場だったと思いますが、歌舞伎では生身の人間が演じるせいか、ラストの奇跡が起こった喜びの部分にカタルシスがありました。

沢市@三津五郎さん、沢市の自信なげな嫉妬心やお里の本心を聞いたあとの嬉しさなど、沢市の人となりを真っ直ぐに演じどこか可愛らしい男の人として演じてきていました。そのためラストの無邪気な喜びを素直に受け取ることのできました。着付けがダボッとしていたせいかちょっと老けて見えてしまったのが少々残念だったな。

お里@福助さん、とっても良かったです。沢市一途なちょっと世話女房的な部分での可愛らしさがいっぱいなお里。顔の表情に頼ることなくぐっと押さえた芝居。そのなかで台詞廻しは表情豊かで体全体の表現も非常にしなやか。表現のバランスが今回とても良かったので説得力がありました。福助さんは顔の造作が派手なのでことさら顔を作って表現しないほうが伝わってくる気がします。台詞がお上手ですし、動きも綺麗なので、それで十分表現できる。

観世音@玉太郎くん、可愛いです。華もあります。でも、このお役だとどうも台詞の拙さが目立つかも…。がんばれ~~。
          
『高坏』
次郎冠者が勘三郎さんだからこれがもう期待するなというほうが無理。で、期待しすぎたかも…。相変わらず高下駄タップのメリハリの利かせ方は上手くてさすが、と思うのですが、今回その技巧の部分を見せるだけに若干なってしまっていたかも。なんというか勘三郎さん独特のキュートさやふんわりした可愛らしさがあまり出てなかった。特にほろ酔いの部分の所など勘九郎時代だったらふわ~っと花が咲いたようだったのに…。勘三郎さん少しお疲れかな??

高足売@橋之助さんはイヤミがなくてちょっとすっとぼけた味わいで良かったです。大名某@彌十郎さん、太郎冠者@亀蔵さんも楽しげで良かった。


『籠釣瓶花街酔醒』
この演目もちょっと期待しすぎたかなあ。『籠釣瓶花街酔醒』は物語的にも面白いですし、見せ場も沢山あるので、面白いにはかなり面白かったのです。しかし個人的にはこのところの幸四郎さん(2008年)、吉右衛門さん(2006年)の佐野次郎左衛門が良すぎたなというのがある。幸四郎さんと吉右衛門さんはまったく違うタイプの次郎左衛門を演じてきましたがどちらもとても納得できる造詣で非常に説得力がありました。勿論、勘三郎さんも上手いんですけど、もうひとつ型から抜け出せてないのと自分の持ち味の部分が生かしきれてない感じがしました。それにしても今の役者では佐野次郎左衛門は幸四郎さん、吉右衛門さん、勘三郎さんしか演じてないんですね。

佐野次郎左衛門@勘三郎さん、私が拝見するのは今回で3回目です。今回の勘三郎さんの次郎左衛門はちょっと陰のある暗い男で元々少々危ういものを秘めた感じがありました。それが勘三郎さんの陽の部分の良さを消してしまっていたような気がします。

なんというか見初めの部分、一目惚れし気持ちがとろけてしまったというような朴訥さがなく、どこか歪んだ愛情を八ツ橋に向けてしまっているような表情をするんですよね。惚けた可愛らしい醜さではなく、心の底の歪みが表に出てしまったというような。また、二幕目序盤もウキウキした心持ちが以前より薄く、単に自慢したいという心持ちのほうが強くでていたような感じ。なので醜くても心根が可愛らしい男にあまり見えないんですよ。以前は醜くても可愛げがあって、わりと愛されキャラだったと思うのだけど…。今回ちょっと次郎左衛門に感情移入しにくかったかも。縁切りされてもしょうがないなあというか。これでは八ッ橋もほんとに商売としてでしか相手にしてなかっただろうというか。まあそれもありなんでしょうが、なんとなく勘三郎さんに似つかわしくないというか…。なので「そりゃ花魁、ちと袖なかろうぜ」からのくどきが非常に切羽詰ったものでさすがに聞かせてくるし上手いとは思うんですけど、そこに男の純情とか切実感がもうひとつ浮かび上がってこなかったかなあ。ラストの場に関しては凄みと狂気が以前より増していて見ごたえがあり良かったと思います。

個人的には見初めの場は2000年に演じた、明るさのあるいかにも田舎の朴訥した人柄がみえた造詣のほうがらしくて良かったと思いますし、2幕目以降は2005年襲名披露時の八ッ橋も自分に惚れてくれていると素直に信じてしまっていた無邪気さゆえの絶望感をみせてきた造詣のほうが、観客の共感をもたせ良かったと思うんです。


八ツ橋@玉三郎さん、相変わらず本当に美しい八ツ橋で、男が惚れこむのも傾城NO1.と言われるのも納得。ただ個人的には2000年あたりまでのたっぷりと婉然と微笑む強烈に華やかな笑みを求めてしまい、今回のようなわりとあっさりとにっこり程度の笑みだと物足りない。とはいえ「あらあら、田舎から出てきた人がうろちょろしてるわね」という風情はこれはこれで人の視線を逸らさない傾城らしい愛嬌として見えることは確か。後半はどこか芯が強い、苦界生きていくことを覚悟した女としての開き直りのなかに哀れさがあった。次郎左衛門への申し訳なさもうまく立ち回れなかった自分への自嘲も含まれているように見えた。すっかりその世界に馴染み、そこから抜け出すことすら諦めた女かな。

繁山栄之丞@仁左衛門さん、相変わらずカッコイイんですけど、でも今回、甘さがなくてちょっと冷たい神経質な栄之丞だったなあ。なんか、ほんとに八ツ橋のことを金づるとして扱っているというか。栄之丞はいわゆる「悪」ではなくて、性根の部分が甘くて八ッ橋に甘えて半分なんか拗ねてる雰囲気があるほうが、八ッ橋がかいがいしく世話してしまう間夫として説得力がでると思うんだけど。仁左衛門さん、前回はその甘さがあったと思うんですが…なぜ今回そんなにカリカリしてるんだろう?。なんだか今回の八ッ橋と栄之丞、切れない仲ながらちょっと倦怠期入ってません?とついツッコミが(^^;)

治六@勘太郎くん、一生懸命演じている部分で治六というキャラクターにはハマってはいます。でも、旦那・次郎左衛門に対する使用人としての治六の立ち位置が意外と鮮明でないかなあ。どういう主従関係なのかの幅がまだ無いというか。それと台詞廻しと声が勘三郎さんに似すぎて、二人のメリハリ効いてないという部分も若干。まあ、信頼関係のなかの主従という立場が明快で超絶品だった段四郎さんとか、一途で可愛げのある歌昇さんのと比べてしまうのはさすがに可哀相ではあります。

釣鐘権八@彌十郎さん、今回あんまりいやらしい小悪党風情が無かったかも。もう少しずるがしこい性根の悪さがあってもいいかなあ。栄之丞をうまくそそのかしてる感じがもっとあるほうが個人的には納得する。

九重@魁春さんは優しげで好き。それとおきつ@秀太郎さんがいかにもで上手い。

七越@七之助くん、初菊@鶴松くんは綺麗だけど思ったほどは存在感なかったかな…。神妙にお勉強中という雰囲気でした。


2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
はじめまして。 (円山桜子)
2010-03-10 12:08:35
今日初めて、偶然、ブログ拝見し、ざっと読ませて頂きました(仕事中ゆえ;)。
観劇の感想や描写がとってもお上手で、共感する部分、感心する部分、沢山あり楽しませて頂きました。これからちょくちょくお邪魔させていただきます。
来月の歌舞伎座、チケット確保出来、今からウキウキした気持ちと、本当に現歌舞伎座の舞台が最後という残念さが混ざった心持です。
はじめまして! (雪樹)
2010-03-10 14:12:52
円山桜子さま

書き込みありがとうございます。
私の感想は主観が強く書き散らかしているという感じですが、こういう文章を楽しんでいただけたとおっしゃてくださるとは、とても嬉しいです。ぜひ、また遊びに来てくださいね。

来月のチケット入手できましたか。良かったですね。私は確保できたのとまだこれからなのと、です。それにしてもほんとにこれで現歌舞伎座が最後と思うと寂しいですねえ。