Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

全生庵『すずめ二人會 -夏の巻- 「怪談牡丹燈籠」』

2008年07月04日 | 古典芸能その他
全生庵『すずめ二人會 -夏の巻- 「怪談牡丹燈籠」』

昨年に引き続き、全生庵で行なわれた掛け合い噺第三弾『掛け合い噺 すずめ二人會 -夏の巻-』に行ってきました。怪談噺を全生庵で、という企画が良いですよね。また、アットホームな雰囲気でなごやかな会なのも素敵。今年のお題は『怪談牡丹燈籠』です。噺で聞くと筋がわかりやすいですねえ。昨年10月歌舞伎座での仁左衛門さん、玉三郎さんでの『怪談牡丹燈籠』の記憶も新しくその違いを比べつつ拝聴するのも楽しかったです。

林家彦丸『高砂や』
彦丸さんの噺は聞きやすいです。とてもストレートなので噺の内容が判りやすい。もう少し緩急があってもいいかなとは思うものの一生懸命演じてくださるので聞いていて、とても爽やかな気持ちになります。昨年に比べ、ご隠居の語りが巧くなっていたかも。

『鼎談』
住職さん、正雀さん、芝雀さん、三人の語り。一日三公演のなかの三回目となるとなんとなく疲れ気味でしょうか(笑)

圓朝師匠の若いときのエピソードが面白かったです。23歳くらいですでに『怪談牡丹燈籠』を創作したとか、やっぱ天才だったのでしょうね。

芝雀さんとの掛け合い噺は、相手を受る間が必要となるので大変だけど勉強にもなるとは正雀さん。

素顔で掛け合いをするのは抵抗があるか?と聞かれた芝雀さんは気にしていたら歌舞伎役者はやれない。いつも男同士、見つめ合ったりしてるんですから。歌舞伎もお稽古の時は素顔だし。舞台稽古でも衣装着ても顔は素顔だったりする。冷静に考えたら気持ち悪いこと平気でやってるとか(笑)

林家正雀 『怪談牡丹燈籠 -お露新三郎-』
お露と新三郎の出会いのところの噺。歌舞伎ではここのエピソードは省いていたので、きちんと聞けて楽しかったです。お互い一目ぼれで、というエピソードがあるので夜中に尋ねてくるお露を疑わずにいる新三郎の気持ちがわかるし。カランコロンの音が妙に気になるような語りでした。侍女のお米さんはやっぱり吉之丞さんがイメージに出てきてしまいます(笑)

中村芝雀・林家正雀『掛け合い噺 怪談牡丹燈籠 -お札はがし~栗橋宿-』
正雀さん新三郎・伴蔵・久蔵など男性陣を芝雀さんがお米とおみねの女性陣(人相見のみお互いに分担)とそれぞれに分担。お互い、熱演です。最初のうちなんとなく微妙に噛みあわないところがあったりしたのですが、どんどん息が合ってきます。そういう意味でなんとなく息が合いきれてない「お札はがし」のところより息が合ってきた「栗橋宿」のところのほうが面白かったです。男と女のまさしくバトル。いやあ、そうかあ~、今回、伴蔵がおみねを殺す動機がしっかり見えました。今回の伴蔵とおみねは気持ちが完全にすれ違ってしまった夫婦でした。

芝雀さんは役に入るとやっぱり「女」になるんですよね。素の時は「女」の気配をまったく見せない方なんですよね。それが役に入った途端、素顔でも「女」で見えてくる。「お札はがし」のところはあまり考えずに思いつきで行動するちゃっかりしているおみねだったかな、でもインパクトはあまり無かったですね。ごく普通の女房で、フと魔が差したように強欲になる、とかそういう部分があまりなかった。そこからくる面白みがあまり感じられず、あともう一つ何か欲しかった感じ。後半の「栗橋宿」おみねは良かったです。久蔵から真相を聞き出そうとするおみねのしたたかさ、そして夫婦喧嘩の時の怒りをお腹に溜めている様子、それが爆発してしまう様子。女の強さ、醜さ、切なさが見事に混在しているおみねでした。「栗橋宿」のおみねは凄かった…芝雀さん、こういうお役も出来るんですね。

正雀さんは前半、後半とも良かったです。等身大のそこに生きてる庶民。久蔵では気の良さとか酔っ払った様子がいかにもリアルで愛らしい男がそこにいました。また伴蔵の男の論理で押す弱さや開き直りの強さがやはり納得させる雰囲気。いかにもなキャラクターだからこそ、夫婦喧嘩が真に迫っていました。

ラストの殺しの部分は芝居仕立て。舞台上に二人とも立ち上がって演じていました。私は芝居仕立てにしなくてもいいんじゃないかと思ったんですが、友人に普通の落語でも一人で立ち回ってやる演出だよと聞いて、へえ、そうなんだと思った次第。確かに殺しの部分を語りだけでやるのはかえって難しいのかも。でも脅かすためだけに出てきた幽霊さん(正雀さんのお弟子さんらしい)はいらなかったかな。

打ち出し『かっぽれ』
怖い噺のあとは明るく踊りで打ち出し。これ、楽しくていいですねえ。

<出し物>
一、林家彦丸『高砂や』
二、鼎談:平井正修(住職さん)・中村芝雀・林家正雀
三、林家正雀 『怪談牡丹燈籠 -お露新三郎-』
四、仲入り
五、中村芝雀・林家正雀『掛け合い噺 怪談牡丹燈籠 -お札はがし~栗橋宿-』
六、打ち出し『かっぽれ』