Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座さよなら公演『壽初春大歌舞伎 夜の部』 3等A席前方上手寄り

2010年01月10日 | 歌舞伎
歌舞伎座さよなら公演『壽初春大歌舞伎 夜の部』 3等A席前方上手寄り

昼の部は夜の部の充実度に比べ若干薄めでした。

『春調娘七種』
曽我兄弟と静御前の不思議な組み合わせの舞踊。福助さん、橋之助さん、染五郎さん三人のバランスが良く綺麗で華やかの絵面でうっとり。演奏もいいし朝から満足。

静御前@福助さん、しなやかに丁寧に踊っていらしゃいました。福助さん、こういうゆったりとした舞踊のほうが似合うような気がする。裾捌きが本当に綺麗。

曽我五郎@橋之助さん、隈取が似合いキビキビとした動き。久々に押し出しのいい橋之助さんを拝見したような感じです。

曽我十郎@染五郎さん、丁寧に柔らかな踊り、品のある優しげな十郎。静御前、五郎の兄貴分のはずですが弟分にみえてしまうのはいかしかたなし。手の動きが相変わらず綺麗ですねえ。

『梶原平三誉石切』
幸四郎さんは2006年に板付きから幕を開く演出をなさっていますが今回も板付きからの演出。また使者の奴も出さず、かなりテンポアップを図った演出でした。この演出は幸四郎さんならではですね。動きが少ない演目ですが役者が揃い飽きずに観られました。

梶原平三@幸四郎さん、存在感の大きさで見せてきます。いつもは転がすような台詞廻しですけど今日はわりとストレートでとても聴きやすかった。今回はとても情のある優しげな梶原ですね。六郎太夫・梢親子に対して情のこもる眼差しと態度。個人的にはもう少し武将として厳しさと刀の目利きとしての鋭さが欲しかった。それがあった2006年のときの幸四郎さんの梶原のほうが好みです。今回は少々、わかりやすさを狙いすぎな気がしました。とはいえ、緩急のある芝居で観客を惹きつけているのはさすがかなと。でも今回は個人的好みからいうと情に流れすぎ~。

六郎太夫@東蔵さん、芯が強く覚悟が極めて強い六郎太夫でした。台詞が上手いので場ごとの心の動きが鮮明で、梢に対する親としての心持が素直に現われていました。

梢@魁春さん、最近はとても落ち着いた雰囲気の格のあるお役が似合う女形さんですから、梢はどうかしら?と思っていましたが、とても可愛らしい親思いの優しい梢でした。人妻としての色気も品がありとても良かったです。この梢、好きかも。

俣野@歌昇さん、赤っ面がよく似合い、声もよく通る。敵役だけどちょっと愛嬌もありとても良い。動きもひとつひとつがとても綺麗。

大庭三郎@左團次さん、品格があって少し飄々とした大庭。もう少し憎たらしい雰囲気があってもいいかなと思うものの押し出しがいいのでバランスは良かったです。

『勧進帳』
残念ながら盛り上がらない勧進帳でした…。弁慶、富樫、義経がそれぞれ噛み合ってなく緊迫感がまったくない非常に平坦で物語が見えてこない芝居になってしまっていました。『勧進帳』はバランスの芝居ですから、それが崩れてしまうとこうなってしまうのかと…観ていて辛かったです。この状態がこの日だけだといいのですが…。

弁慶@團十郎さん、なんだか一人で完結してるというか、相手を受けてないようにみえるのが一番の難点でした。マイペースすぎて周囲のことが目に入っていないように見えてしまいました。ご本人そのつもりはないんでしょうけど…。また台詞廻しに妙なうねりがあって変なリズムでの台詞。また低音にビブラートがかかり怪談話を聞いているかのよう…。型どおり弁慶を演じてはいるのだけど場ごとに何をしたいのかが見えてこなくて。問答のところの緊迫感の無さには…さすがにちょっとどうなんだろう…。以前は勢いこんで、関所を通るぞという熱気で台詞の粗や動きの粗をカバーされていて、またその部分で情味を見せていたと思いますが。たぶん体力的な部分で前に押し出してこられないせいでしょう、團十郎さんの悪い部分が目立ってしまった感じです。非常に残念でした。

富樫@梅玉さん、上品でいかにも役人だけど底に熱いものを持ってるという感じで、私はわりと好きです。ところが今回、問答のところなどかなり熱く鋭く突っ込んできてはいるのだけど、今日はそこがことごとく弁慶に受けてもらえず、その熱さが空回りしているように見えました。なので梅玉さんにしては大仰な感じに見えてしまいちょっと冴えなかったです。團十郎さん弁慶と合わないのかな?

義経@勘三郎さんの義経、花道の出は上品で形も美しくそれはそれはステキでした。それで期待したんですが、その後がどうも存在感が薄くなっていましたし、「判官おん手を」も背が丸まって姿勢が綺麗じゃないし、手の形もぞんざいにみえてしまい弁慶への情が感じられず。なんとなくお疲れかな?と思わせる出来。 引っ込みはほんの少し笠に手をかけるだけで思い入れを入れず一気に去っていきました。夜の部の『京鹿子娘道成寺』が絶品だっただけにあれれ?って感じです。

う~ん、個人的には義経を梅玉さん、富樫を勘三郎さんのほうが面白かったかもと思ったり。それにしても全体的に義経、弁慶、富樫、それぞれの舞台の立ち位置がなんかヘンで絵面が決まってなかったのも不満。義経、弁慶が中央に寄りすぎのように見えました。四天王、番卒は揃っていて良かったし、太刀持ちの玉太郎くんも可愛かったし脇は揃ってたんですけどねえ。

なんだかピリッとしない出来のせいか演奏もイマイチに聞こえました…。かみ合わない時ってすべてが崩れるんですよねえ…ガッカリ。

『松浦の太鼓』
軽めの芝居なので昼の部最後の演目としては良かったと思います。年末感がありますけどね(笑)

松浦候@吉右衛門さん、ご機嫌に演じてる吉右衛門さんが楽しい芝居でした。以前に演じられた時より愛嬌があって自然体に見えたのが良かった。短気だし、単純だし、我侭だし、仕える人たちは大変だろうなって感じですが、そういうキャラでも可愛い雰囲気がありました。

大高源吾@梅玉さん、源吾にしては格がありすぎだけど、まずは風流人にみえるのがさすが。また討ち入りの説明語りがさすがに上手い、聴かせてきます。

其角@歌六さん、安定感抜群です。飄々としながらも朴訥さのある其角です。もう少し年齢がいくともっと枯れた味わいもでてくるでしょう。

お縫@芝雀さん、楚々して可愛らしい。終始控えめで可憐な花がそこに咲いたようでした。