Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

五反田ゆうぽうと『松本幸四郎特別公演 夜の部』 1等1階前方センター

2008年10月04日 | 歌舞伎
五反田ゆうぽうと『松本幸四郎特別公演 松竹大歌舞伎 夜の部』 1等1階前方センター

『双蝶々曲輪日記 引窓』
配役的に花形歌舞伎です。主役の染五郎さん、亀三郎さん、初役で初日にわりに想像してた以上に良かったです。それぞれによくきちんと見せてきたと思います。

南与兵衛後に南方十次兵衛@染五郎さん、思っていた以上に良かったです。初役で手順の多い丸本ものだと初日はいつも手順におわれワタワタした感じになることが多いのですが今回はかなりきちんと演じてきていました。まず義太夫のノリ地がかなりの進歩。台詞の緩急もしっかりしてて心情がきちんとのっている。押し出しもなかなかよくて、大きさもありました。町人風情がちょっとなかったり、そのために武士と町人の切り替えが明快じゃなかったり、決まりの部分がまだ浅かったりと、まあ注文も色々ありますが上々出来かと。町人風情のくだけた感じがもっと出ると芝居全体のメリハリがついて良くなると思う。後半こなれていくと出てくるかな。

濡髪長五郎@亀三郎さん、かなりリキが入ってて頑張っていました。声の良さを十分に活かして、関取らしい太さを出し、母に会いたくて必死に逃げてきたという風情もあってとても良かったです。もう少し台詞に緩急があるといいのですが、終始押しまくってしまうのでせっかくの聞かせる台詞が一本調子。声がかなり良い方なのでもう少し義太夫のイキを覚えるといいんじゃないかなあと思います。台詞の調子がお父さんの彦三郎さんに似るところがあって、あっやはり親子なんだなあと思ったり。現状、亀三郎さんはこういう大きな役がなかなか廻ってこないのですがもっとやらせてあげたいですね。この役がキッカケになると良いんですが。

母お幸@鐵之助さん、久しぶりに拝見しました。以前より味が出てきた感じがします。とても良いお幸でした。この芝居のある意味、カナメなお役ですが、きちんと演じてくださいました。お幸の切ない母心が非常によく伝わってきました。若手をしっかり支えていたと思います。

お早@高麗蔵さん、最近拵えが変わったのか女形が綺麗になりましたよね。丁寧に演じていらっしゃいました。もう少しふんわりしたとこが欲しいかなとは思いますが、母を気遣う部分がしっかりみえて嫁としての優しさが明快でその部分が良かったです。

亀寿さん、宗之助さんの二人組みはなんだか可愛いというか貫禄不足な感じですが声の通りがいいので説明台詞をきかせるには絶好の二人でした。しかし、染五郎さんのほうが格上にみえてしまうちゃうのはどうなのか。これは染五郎さんが町人らしいくだけた雰囲気がないせいもありますね…。

【配役】
南与兵衛後に南方十次兵衛----市川染五郎
濡髪長五郎------------------坂東亀三郎
平岡丹平--------------------坂東亀寿
三原伝造--------------------澤村宗之助
母お幸----------------------澤村鐵之助
女房お早--------------------市川高麗蔵


『歌舞伎十八番の内 勧進帳』

しょっちゅう観てるはずなのになんだか久しぶりな気がする幸四郎さんの弁慶。1000回に向けてのカウントダウン巡業です。回数に関して色々言われがちな幸四郎さんですが、生半可な気持ちでやれるものではないと思います。『勧進帳』という大きな大変な演目をしかも体力的に疲れるという地方巡業という形で普段歌舞伎をご覧にならない人たちに見せようという気概は大したものだと思います。年齢的にきつい時期に入ってるだけにきちんと見せられる時にという気持ちもあるのだと思います。巡業という形だと「歌舞伎座は敷居が高いけど近所のホールなら」「一度歌舞伎が見たいけど、「勧進帳」なら初歌舞伎にいいかも」「歌舞伎座より安いから」「松本幸四郎の勧進帳、観てみたいけど、なかなか機会が」という方々の声に応えられるんですよね。幸四郎さんの弁慶が出てきた時、そして引っ込みの時の歓声の大きさはそれに応えているという証なんだと思います。幸四郎さんの弁慶は私の求める理想の弁慶の方向とは少しずれています(私の理想は七代目幸四郎の弁慶です。映像でしか知りませんが…)。でも幸四郎さんの演ずる姿勢に関しては素直に認めたいと思います。


今回、幸四郎さんの弁慶は気持ちの部分でとても良い弁慶だったと思います。主従関係が明快で天への敬いの姿勢が深くありました。目線が客に向かわないのです、天に向かっている。弁慶としての必死さがいつも以上にありましたし、とっても人間味溢れる弁慶でした。特に問答のとこの緊迫が見事でした。ただ、体のキレがよくない。体力がぎりぎりな感じでちょっと心配に…。台詞の調子はしっかりしていて非常に良かったのですが、後半の延世の舞が全然いつもの勢いが無し(涙)。今回、わりと最初のほうから息も絶え絶えなところがあって。年齢的にさすがにきついんでしょうねえ…。後見の錦弥さんが心配そうな顔をしてるものだからなおさら心配になってしまった。

富樫@染五郎さん、とても良かったです。以前の青臭いぼっちゃん富樫から少し抜けてきて大人な富樫になってました。まずは台詞回しが非常に良くなっていたのと佇まいに落ち着きがでてきてました。また問答での突っ込みがかなり鋭くなっていて勢いがありました。弁慶たちの気持ちを見極めようとする鋭さのなかに、富樫としての立場の苦渋が内に秘められていて観ていて気持ちに添える富樫でした。また極めるところの形がひとつひとつ非常に綺麗で大きくみえました。以前に比べかなり進歩していました。今回、染五郎さんは見事に富樫の清冽さを見せてくれました。

幸四郎さん弁慶の四天王と言えば亀三郎さん、亀寿さん、宗之助さん、錦吾さん。もうこの四人は言うことなし。相変らず素晴らしい四天王です!結束力の堅さがあるし、義経を守ろうとする必死さが体全体から出てて、ほんといいです。

義経の高麗蔵さん、以前より柔らか味もでてきました。形も良くなってたし。格の高さがあまりないのが残念だけど武将らしい鋭さがあるのがユニークでわりと好きです。


【配役】
武蔵坊弁慶-----------------松本幸四郎
源義経---------------------市川高麗蔵
亀井六郎-------------------坂東亀三郎
片岡八郎-------------------坂東亀寿
駿河次郎-------------------澤村宗之助
常陸坊海尊-----------------松本錦吾
富樫左衛門-----------------市川染五郎